「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

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3 浮気はしないでね

恋 アルベルト王太子Side(2)

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どんなにモテても、愛する人にふり向いてもらえなければ意味がない。全く幸せではないことをよく知った数ヶ月だった。

今も目の下にクマができたジャックは、明日の結婚発表の段取りを父上と母上としているだろう。

前代未聞の破滅的な恐ろしい事件だったために、父上も母上も一睡もできずに俺たちの帰りを夜遅くまで待っていた。
 
待っている間に、ガトバン伯爵夫人のことを調べ上げたらしい母上は、無事に戻ってきた俺とフローラの顔を見るなり、駆け寄ってきた。そしてフローラを抱きしめて宣言したのだ。

「デビュタントのあなたを放り出して何も手伝わないなんて……あの女性は母親としてもダメよ……彼女は国家反逆の罪で逮捕されるけれど……いい?私があなたの社交界デビューの支度を手伝いますからね、安心なさい!」

――えっ!
フローラは抱きしめられながら、ぽかんとした表情で母上を見つめていた。

「母上、その前に大事な話が……」
俺が割って入ろうとしたが、勢いよく母上に遮られた。
 
「いえ!止めても無駄ですわ!大切な嫁候補がデビュタントでありながらも、たった1人で支度に追われていたなんて……そんなことが許されていいわけございませんわ?明日からこのわたくしがお支度を手つだ……!」
「母上、落ち着いて聞いて欲しい……」
「これが落ち着けますかっ!」

「母上には花嫁の支度を手伝って欲しいんですよ。結婚式!披露宴!ウェディングドレス!ティアラ!明日から全部母上の仕事ですからね?」

俺がものすごい剣幕でまくしたてると、母上はハッとした様子だった。

「ウ……ウエディングドレス……!?なんと……キャァー、もしかして結婚するのかしら?あなたたち……ファイナルアンサー?」
「えぇ、もちろんです。明日盛大な結婚発表をします。父上と母上はジャックと段取りの確認をお願いします。大切な花嫁は解放してあげて休ませてあげてください。ほら……明日は新聞に載せるための写真を撮るから綺麗に支度をするでしょう?」

「あなたっ!アルベルトに虚言癖がございましたか……?」
「ひどっ……」

俺は呆れて首を振った。
国王である父上は、母上がデビュタントの支度に奔走する覚悟を張り切って述べている間は冷静だったが、花嫁の支度と聞いてからは身を乗り出してジャックと俺とフローラの間で忙しく視線を巡らせていた。

「ジャック!」
「陛下、事実でございます。明日はアルベルト王太子の結婚発表を行います。新聞各社、各国の報道機関、全て手配の指示を出しましたのでご安心を。時間は……」
ジャックは懐中時計にチラッと視線を送って続けた。
「もう深夜も過ぎておりますので……午後14時でいかがでしょう?」
「よしそれで行こう、おめでとう!アルベルト、フローラ!」

父上は威厳たっぷりにうなずいたが、唇が僅かに震えていた。喜んでくれたのだ。

「ついに……ついに……か!フローラ嬢、こんな息子の嫁になってくれてありがとう」
「陛下、王妃様、これからよろしくお願いします」
フローラも笑顔を浮かべながらも、緊張した面持ちで震える声で囁くように挨拶をした。
 
「ようこそ、エイトレンスの我が家へ……王宮は窮屈なところかもしれないですが、私がなんでも力になるわ!」
母上はそう言いながら泣いていた。
が、次の瞬間にはすぐに「ウェディングドレスのデザイナーは、パリのデザイナーにします?」と言い始めので、俺は慌ててフローラを母上と引き離した。

母上は盛り上がって武者ぶるいを始めていた。
俺は母上をジャックに任せて、寝室として用意された部屋にフローラを連れて行った。
 
実はその前にジャックがこっそり囁いてきたのだ。
「みんな無事でよかったです。危なかったですよ……2月にエミリー嬢が来た時、あの計画の一部にされそうになっていましたよね?」
「あぁ、今から思えばそうだ……キッパリ断って良かった。とんでもない計画だった」
「本当です。それにしても良い方に巡り会えて本当に良かったですね。明日は気合いを入れてくださいよ!」
「もちろんだ」

 
――あぁ、これまでの俺はディアーナが泣きたいほど好きだった。
――愛してやまなかったのだ。
――俺はそのことに気づくのが遅すぎた。だから、ディーアナに愛想をつかれた。

今なら分かることがある。
手に入らないからあれほど執着してしまったのかもしれない。今はディアーナのことが心から消えて、心の中はフローラへの熱い思いで溢れている。

俺は氷の貴公子だ。
俺の美貌、俺のエレガントな佇まいからすれば、この透き通るように青い瞳に惑わされない女性などいないと思っていた時期が確かにあった。たかを括っていたのだから、ディアーナが別れを切り出したことは想像も出来なかった展開だった。
 
だが、悪魔の囁きに魅了されて浮気をしてしまった俺は、この数ヶ月で完全に心を入れ替えた。


 
今日、馬車の中でフローラに見つめられた途端、誠実で無防備な彼女からとてつもない色香を漂わせた視線を感じて、俺は思わず赤面してしまった。

王位継承権第2位は弟のフェリクスだからと説明した瞬間のことだった。
「そんなに見つめられると……ちょっと……」

早鐘のように胸が高鳴り、身体中を逆流するような血の上昇を感じて体がカッと熱くなった。
「君に見つめられると心臓がドキドキするんだ。ごめん」

――禁欲生活を続けたせいで、俺はおかしくなったのだろうか……?
――いや違う。
――彼女のことが本当に好きだからだ。
今まで取り憑かれたようになっていたディアーナのことが、心から完全に消えた。
「だから、君に……その……見つめられると……」

俺は思わず心のうちを正直に話していた。
 
「俺はどうやら君のことが……好きなんだ……ディアーナより君が好きだ……君に見つめられると心臓が、もたない」

ピンクブロンドの髪が揺れ動くほど、彼女は驚いた様子だった。よく動く真面目そうな茶色の瞳が俺をじっと見つめて、彼女の頬がすぐに上気した。愛おしく思えた。

――どうしよう……。
――自分を抑えきれない……。

気づいたら、彼女にプロポーズをしていた。馬車の中でひざまずいて指輪を彼女に差し出していた。フローラの手は震えていた。
 
ゆっくりとブルーサファイアとダイヤモンドのクロスオーバーリングをフローラの左手にはめて、愛を囁き、俺は唇を重ねた。
「君が車椅子になっても、やっぱり君を愛していたと思う。俺のそばにいてくれて、本当にありがとう」


温かくて柔らかい唇に俺の唇が重なり、気の遠くなるような幸せを感じた。彼女の誠実な色香に俺は翻弄されてしまったのだ。
 
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