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第9話 奇跡のシンフォニー
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「先生、この子の歌は見込みがありますか。」
私は歌の先生に聞いていた。
完全にマフィアのボス感丸だしで、サングラスをかけてオートクチュールの高い服を着て、重厚な圧を先生にかけていた。
だが、この歌の先生もなかなかの曲者だった。
ほんまもんののマフィアのボスの私の圧に一ミリも屈せず、堂々と答えた。
「無理っすね。」
「はあ?」
私はサンブラスをかけた目元をぐいっと先生の顔により近づけて、のぶとい声を出して、とぼけたこと言うなという態度を全開にした。
「無理なもんは無理っす。」
先生は胸を張って背筋を伸ばした状態で、私の顔をぐいっと睨んで言った。
「ほな、もう1回だけ聞いてくれまへんか?」
私はできるだけ極道妻感が出るように、わざわざ関西弁でドスを効かせて言った。
私の頭の中の想像では、私は今、岩下志麻だ。
「はあ。まあ、1回だけなら。」
極道妻感が効いたのか、歌の先生は渋々うなずいた。
よしっ!!
私はうなだれて小さくなっているキツネの元に走り寄った。
「ほな。キツネはん、もう1回行こか。」
小声でキツネにささやいた。
「うち・・・」
キツネは先生にコテンパンにダメ出しされたことで、絶望したのか打ちひしがれていた。所詮は世間知らずの山に住むキツネなのだ。まだ若い。
「うちもいっしょに歌ったる。」
私は優しくささやいた。
「うち、もう、できへん。」
キツネは打ちひしがれたまま、萎縮しきった様子で言った。
「そんなことなか。わっしも一緒に歌ったるわ。やまん中の祭りじゃあ思おうか。そいか、じっちゃんの山の屋敷の縁側で夕陽を見ながら歌っとる感じでもええ。」
私はコソコソとキツネに言った。
ようやくキツネはうなずいた。
「ほな、先生。今からブー子と私がもう一度歌います。」
「はあ、あなたも一緒にですか?」
歌の先生は、呆れたと言いたげな様子で聞き返してきたが、首を振って、どうぞと言ったように手を振った。
「まあ、いいっすよ。あと1回だけですね。」
歌の先生はそう言って、椅子の上にあぐらをかいた。
しっつれいな態度や。
私の中の岩下志麻は、そうつぶやいた。
しし丸が、歌の先生の後ろで腕組みをして立っている。
私はキツネの顔を覗きこみ、合図をして一緒に歌い出した。
目の前には、じっちゃんの山々の裾野が広がっていることを想像した。
二人で同じ歌を歌う。
キツネのブー子と私は一緒に歌ったことがなかった。
しかし、育った野山はほぼ同じだ。山の祭りも毎年言っている。共通の山の獣の知り合いも多いだろう。
私はマフィアだが、キツネは所詮、人に化けるのがうまい若いキツネだ。
祖父のじっちゃんに大切に育てられたのであろう。それは今まで一緒に過ごした時間で私にも分かった。
私とキツネのブー子は息をピッタリ合わせて歌い上げた。
先生の後ろのしし丸が泣いていた。
泣きながら、どんどん茶色になっていった。
なんと、化かしの術が取れて言って、人が溶けていって猪化が進んでいっていた。
その溶けた茶色の塊の前に陣取った、先生はあぐらのまま固まり、あごが外れたように大きくあごをあんぐり開けて私とキツネが歌う様子を凝視していた。
なんだ?
私は途中で、しし丸向けへのメッセージとして「溶けちゃう」とささやきをアドリブで入れたのだが、しし丸は泣きながら溶けていった。
やがて歌がクライマックスを迎えて、ピタッと止まった。
私とキツネは、とても気持ちよく歌えたので二人で抱き合った。
歌っている間、私とキツネの前には、山々の夕暮れが見えていた。
歌の先生はあごが外れたようにあんぐり口を開けてこっちを見ていたが、なにか気配を感じたのか、ハッとして後ろを振り返った。
「うんぎゃっ!猪!」
歌の先生が、しし丸に気づいてすごい叫び声を上げた。
猪は、ぴょんと飛び上がり、慌てて部屋から飛び出して行った。
「あー、びっくりした!」
歌の先生は、何か魔法がとけたように私とキツネを見て、言った。
「あ・・・・・びっくりしましたよね。」
私も、しし丸の猪姿を見られたことでちょっと動揺して、言った。
「いや、あなたがたです!最高です!これは、すごいですよお!」
歌の先生は、椅子から飛び降りて私たちの方に駆け寄ってきた。
拍手までしている。
「最高です。お二人で歌うと、なんとも言えない聞いたこともないようなハーモニーになります!」
歌の先生は絶賛した。
「それじゃ、さと子社長は、常にバックコーラスか裏方で歌うと言うことにしましょうか。」
いつの間にかしし丸が、人間の姿になって戻ってきてそう先生に言った。
「で、ですね!それが最高だと思います。」
「先生、売れますやろか?」
私は極道妻感を再び出して、先生に圧をかけ始めた。
「売れます!絶対に売れます!」
先生は、さっきまでの気だるそうな態度をかなぐり捨てて、私に断言した。
「ほうですかあっ!」
私はキツネと抱き合った。しし丸も加わって三人で抱き合った。
なぜか歌の先生まで加わって、四人で抱き合った。
こうして、そうして、ほうして。
たぬきとキツネの奇跡のシンフォニーが始まったのである。
私は歌の先生に聞いていた。
完全にマフィアのボス感丸だしで、サングラスをかけてオートクチュールの高い服を着て、重厚な圧を先生にかけていた。
だが、この歌の先生もなかなかの曲者だった。
ほんまもんののマフィアのボスの私の圧に一ミリも屈せず、堂々と答えた。
「無理っすね。」
「はあ?」
私はサンブラスをかけた目元をぐいっと先生の顔により近づけて、のぶとい声を出して、とぼけたこと言うなという態度を全開にした。
「無理なもんは無理っす。」
先生は胸を張って背筋を伸ばした状態で、私の顔をぐいっと睨んで言った。
「ほな、もう1回だけ聞いてくれまへんか?」
私はできるだけ極道妻感が出るように、わざわざ関西弁でドスを効かせて言った。
私の頭の中の想像では、私は今、岩下志麻だ。
「はあ。まあ、1回だけなら。」
極道妻感が効いたのか、歌の先生は渋々うなずいた。
よしっ!!
私はうなだれて小さくなっているキツネの元に走り寄った。
「ほな。キツネはん、もう1回行こか。」
小声でキツネにささやいた。
「うち・・・」
キツネは先生にコテンパンにダメ出しされたことで、絶望したのか打ちひしがれていた。所詮は世間知らずの山に住むキツネなのだ。まだ若い。
「うちもいっしょに歌ったる。」
私は優しくささやいた。
「うち、もう、できへん。」
キツネは打ちひしがれたまま、萎縮しきった様子で言った。
「そんなことなか。わっしも一緒に歌ったるわ。やまん中の祭りじゃあ思おうか。そいか、じっちゃんの山の屋敷の縁側で夕陽を見ながら歌っとる感じでもええ。」
私はコソコソとキツネに言った。
ようやくキツネはうなずいた。
「ほな、先生。今からブー子と私がもう一度歌います。」
「はあ、あなたも一緒にですか?」
歌の先生は、呆れたと言いたげな様子で聞き返してきたが、首を振って、どうぞと言ったように手を振った。
「まあ、いいっすよ。あと1回だけですね。」
歌の先生はそう言って、椅子の上にあぐらをかいた。
しっつれいな態度や。
私の中の岩下志麻は、そうつぶやいた。
しし丸が、歌の先生の後ろで腕組みをして立っている。
私はキツネの顔を覗きこみ、合図をして一緒に歌い出した。
目の前には、じっちゃんの山々の裾野が広がっていることを想像した。
二人で同じ歌を歌う。
キツネのブー子と私は一緒に歌ったことがなかった。
しかし、育った野山はほぼ同じだ。山の祭りも毎年言っている。共通の山の獣の知り合いも多いだろう。
私はマフィアだが、キツネは所詮、人に化けるのがうまい若いキツネだ。
祖父のじっちゃんに大切に育てられたのであろう。それは今まで一緒に過ごした時間で私にも分かった。
私とキツネのブー子は息をピッタリ合わせて歌い上げた。
先生の後ろのしし丸が泣いていた。
泣きながら、どんどん茶色になっていった。
なんと、化かしの術が取れて言って、人が溶けていって猪化が進んでいっていた。
その溶けた茶色の塊の前に陣取った、先生はあぐらのまま固まり、あごが外れたように大きくあごをあんぐり開けて私とキツネが歌う様子を凝視していた。
なんだ?
私は途中で、しし丸向けへのメッセージとして「溶けちゃう」とささやきをアドリブで入れたのだが、しし丸は泣きながら溶けていった。
やがて歌がクライマックスを迎えて、ピタッと止まった。
私とキツネは、とても気持ちよく歌えたので二人で抱き合った。
歌っている間、私とキツネの前には、山々の夕暮れが見えていた。
歌の先生はあごが外れたようにあんぐり口を開けてこっちを見ていたが、なにか気配を感じたのか、ハッとして後ろを振り返った。
「うんぎゃっ!猪!」
歌の先生が、しし丸に気づいてすごい叫び声を上げた。
猪は、ぴょんと飛び上がり、慌てて部屋から飛び出して行った。
「あー、びっくりした!」
歌の先生は、何か魔法がとけたように私とキツネを見て、言った。
「あ・・・・・びっくりしましたよね。」
私も、しし丸の猪姿を見られたことでちょっと動揺して、言った。
「いや、あなたがたです!最高です!これは、すごいですよお!」
歌の先生は、椅子から飛び降りて私たちの方に駆け寄ってきた。
拍手までしている。
「最高です。お二人で歌うと、なんとも言えない聞いたこともないようなハーモニーになります!」
歌の先生は絶賛した。
「それじゃ、さと子社長は、常にバックコーラスか裏方で歌うと言うことにしましょうか。」
いつの間にかしし丸が、人間の姿になって戻ってきてそう先生に言った。
「で、ですね!それが最高だと思います。」
「先生、売れますやろか?」
私は極道妻感を再び出して、先生に圧をかけ始めた。
「売れます!絶対に売れます!」
先生は、さっきまでの気だるそうな態度をかなぐり捨てて、私に断言した。
「ほうですかあっ!」
私はキツネと抱き合った。しし丸も加わって三人で抱き合った。
なぜか歌の先生まで加わって、四人で抱き合った。
こうして、そうして、ほうして。
たぬきとキツネの奇跡のシンフォニーが始まったのである。
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