別れた初恋の人が君主になったので、公爵家の悪女と囁かれながらも嫁ぐことになりました

西野歌夏

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プロポーズ ジョシュアの場合

 いよいよワールドツアーの初日コンサートのリハーサルが開始された。俺は初めてのコンサート会場の大きさに驚いた。巨大なお金が動く本気の集客が行われていることを目のあたりして、改めて身が引き締まる思いだった。隣でグレースも驚きのあまりにしばらく言葉を失っていた。スクリーンと呼ばれる物に、自分たちの姿が大きく映ることにも衝撃を受けた。

「公爵夫人から皇太子妃になった私でも、これほど巨大な会場は見たことがないわ」

 リハーサルの直前に本番と同じ衣装をグレースは着せられた。あまりに可憐で魅惑的な姿に俺は心底クラクラしてしまった。他の誰の目にも触れてほしくないと切実に願ってしまった。美しさ全開のグレースの綺麗な足が強調されてむき出しになる衣装で、目に入るだけで心臓がドキマギしてしまった。彼女を見つめる俺の顔は真っ赤だったと思う。

 ――彼女は歩く妖精のようだ……

「歌姫だからこのぐらいの衣装を着ないとならないのですが、それにしても素敵ですわ。花嫁のような清純な可憐さと妖艶な魅力の両方がありますわねっ!」
「これは野望を上回る出来です!」

 メロンをはじめとして、衣装係も皆が興奮冷めやらぬ様子でグーレスの周りに集まり、口々にグレースを褒めそやしていた。当のグレースは絶賛する皆の言葉に戸惑う表情をしていたが、彼女からは金塊の契約のためにという使命感がひしひしと伝わってきた。力強く歩き、強い意志をたずさえた瞳で会場の奥まで見渡している。

「私の声が届くかしら?」
「大丈夫よ。マイクがあるから」

 結局、リハーサルでは俺もグレースも緊張してしまって最初は失敗した。

「とても辛かったことを思い出してみてくれるかしら?次は上手くいくわ」

 アイラとオリヴィアに励まされ、二回目以降は二人とも上手く行った。ホールの熱気が上昇し、スタッフと呼ばれる大勢の人々の顔が一気に晴れやかになり、うっとりしたような表情になり、会場一体がグンと上昇気流に乗ったような不思議な高揚感に包まれた。

 ――今晩のプロポーズ成功のために、グレースがノア皇太子のところに行ってしまい、胸が張り裂けるような思いをしたあの辛い日々の記憶に戻って歌おう。

 不思議なことだけれども、悲しい思いを糧に歌うと、皆が歌の魔法に魅了されてくれるようだった。

 やがて夜に始まったワールドツアー初日のコンサートは、暗闇の中で最初にライトがグレースを照らし、次に俺が登場したぐらいから爆発的な盛り上がりになった。龍とペガサスの魔力が融合して、不思議な空間を作り上げていた。終始割れんばかりの拍手と大歓声を浴びて、俺たちは歌って演奏を続けた。熱気を帯びたコンサート会場は、すぐに幸せな空間になった。一生懸命メンバーが演奏する中で、俺とグレースの歌の魔力は最大限に効力を発揮されていたと思う。

 全ての演奏を終えて舞台袖に引っ込むと、「金塊の契約は果たせそうよ」とメロンが飛びついてきた。メロンはメンバー全員に抱きついてお祝いしていた。

「メロンが泣くなんて、こっちまで泣けてくるわ」
「まだ気が早いわ。これからもツアーは続くのよ」
「で、でもなんかみんな頑張ったからぁ」

 地味なメロンが泣いて喜んでいる姿は、なんだか皆の嬉し涙を誘った。必死に金塊の契約を果たそうと頑張ってきている仲間は、愛おしいとすら俺は感じて、俺にとっても幸せな時間だった。

 コンサートも終わってホテルに戻ると、俺は皆からグレースを引き離してそっと自分の部屋に連れてきた。部屋に入るなり、メロンは窓の外の景色をぼんやりと見つめて何かを考えている様子だったが、後ろから俺は抱きしめてそっとささやいた。

「昨日の続きをさせて。こっちを見てくれる?俺を愛しているなら、返事をくれますか?」

 俺はひざまづいた。そして、バウズザック家の家宝である指輪をグレースに差し出した。グレースの美しい瞳が涙で煌めき、唇が震えている。

「グレース、私と結婚していただけますか?」
「はい。こんな私でよろしければ喜んでお受けします。あなたを愛しています」

 俺は胸がいっぱいになった。かつては、こんな日が訪れようとは夢にも思わなかった時期があった。

 俺はグレースの震える指に指輪をはめた。そして、そっとグレースを抱きしめた。俺の胸の中でグレースは小鳥のように肩を震わせて泣いていた。

「嬉しいの……」
「すごく嬉しいよ。グレース愛しているよ」

 俺の目からも涙が溢れてきて、二人で泣いた。色々なことが起きて、絶望を味わってからの奇跡のようなプロポーズだった。俺たちはただ色々なことにひたすら感謝して泣いた。

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