14 / 17
14 本気で愛しているの、分からない?
しおりを挟む
「分かりました。私が身を引きます」
私はヨナンに申し出た。
「あら?そお?」
ヨナンは美しい顔にうっすらと笑いを浮かべた。そして、うつむく私の顔をじっくりとのぞき込んで私に微笑んだ。
「ふんっ。太っちょのあなた。あなたなんかには所詮ムリムリ」
そう小声で私に囁いたヨナン。
彼女は勝ち誇った顔をしていた。
私のことを鼻で笑った。
「あなたは過去の女よ。エリザベス。今までアランの面倒を見てくれてあ・り・が・と」
ヨナンは最後の言葉を区切ってわざとらしく言った。
私は過去の女か……。
ですね……って。
黄昏てないで、私、さっさとここから離れなさいっ!
力及ばず。
私は愛する人の元にはいれないのだ。
裏門のところで馬車に乗り込む前、ヨナンのそばに行った私は、ヨナンに声をかけたのだ。
イザークは怒った顔をしたアラン王子の様子を見るために後ろの方にいたし、ヨナンは気晴らしだと説明されたらしく、外に連れ出されて物珍しそうに宮殿の裏門の辺りを見渡していた。
「時々、ここからお忍びで街に出れます」
私はヨナンに説明した。
「あら?そお?あなたも試したのかしら?」
ヨナンに聞かれて、私はうなずいた。
「私も街の宿屋に行きましたわ」
私は正直に答えた。
「街の宿屋ですってっ!?」
驚いた声を出したヨナンに私は囁いた。
「私はここでお別れします。ペジーカの資源の共有利権は今まで通りにお願いできますか」
「もちろんよ。あなたが退くなら、今まで通りよ」
ヨナンは高尚な慈悲の心を持ち合わせていますわ、と言った恩着せがましい態度で私にささやいた。
あくまで上から目線。
それはそう。
ヨナンはペジーカのお姫様。
私はしがない公爵令嬢。
持っている力が違う。
私はうなずいて、ヨナンにお願いした。
「どうか、アラン王子を幸せにしてあげていただけますか」
やっとの思いで、言葉を振り絞った。
声が震えた。
そのまま馬車に乗らずに裏門から外に走って出た。慌ててマリーが私を追ってきた。
「お嬢様っ?」
運良く辻馬車をつかまえることができた。
「お嬢様っ!?」
マリーが血相を変えて追ってきたので、そのままマリーも馬車に引き上げた。
「ディッシュ公爵家までお願い。急いで」
私は御者に叫ぶように言うと、そのまま馬車の座席の奥深くに身を沈めた。
涙が溢れた。
クリフなんかに。
あいつにヨナンの心を慰めることなんか出来っこない。
あいつは私を捨てた男だ。
甲斐性ナシだ。
ヨナンは絶世の美女。
クリフはただのチャラい遊び人。
無理。
到底無理。
クリフなんかにできっこない。
国を守るなんて。
私がやるしかあるまい。
私が潔く身を引く。
アラン王子の国を私は守らなければならない。
私さえ、アラン王子の前から姿を消せば、元に戻る。
最初に選ばれていた令嬢が、第二妃に戻るだけだ。
ディッシュ公爵令嬢リジーは、アラン王子に離縁された女でもう良い。
辛かったら、修道院に行こう。
私、泣くな。
最初の路線に戻るだけだ。
何も損はしていない。
何も起きていない。
私は嗚咽が漏れた気がした。
マリーは目にいっぱい涙を溜めて、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「あんなに愛されていらっしゃるのに、なぜですか?お嬢様っ!?」
マリーは私を叱ってくれた。
「愛しているから」
私は泣きながら、言った。
「愛しているから、身を引くの。私はアラン王子の前に現れちゃダメな人だったの」
世界が終わった気がした。
涙が止まらない。
体が震える。
胸が痛い。
離れていたら、何もかも忘れられるのだろうか。
分からない。
修道院って楽しいのかな?
そんなわけないよね。
久しぶりに戻った実家のディッシュ公爵家は大騒動になった。
私が出戻ったから。
「おぉ、リジー、何があったの?」
「リジー、里帰りなら、無理にするものではない」
父も母も使用人たちもオロオロと心配した。
また川に身投げするのではと、マリー含めて色んな従者や侍女が私の部屋の外や窓の下で、そうなったらお嬢様を止めようと待機した。
父と母も泣いていた。
私はひたすら一日中ベッドの中で泣き続けて、泣き疲れて眠った。
忘れなければ。
処女を金ナシ既婚者に散らしただけ。
私は淫靡な世界の扉を開けただけ。
もう、一生あんな恋はできない。
思い出だけ抱いて一人で生きて行こう。
ダメ。思い出も、忘れなきゃ。
あんなイケメン、思い出しちゃダメ。
胸が痛んだ。
泣きすぎて頭も痛い。
その晩遅くにディッシュ公爵家に予想外の来客があった。
家中にさざなみのような興奮が広がっている気配で、私は目を覚ました。
何かしら?
部屋の外に私は思わず出た。
えっ?
どうして?
「リジー!」
それは、デジャブだった。
美しい男性が私の名前を呼びながら近づいてきた。
「俺いや、リジー、可愛かったからさぁ、俺が愛しているリジーを失いたくなかったんだよね。今晩から行けるよね?」
ささやかれて、チュッと頬にキスもされた。
言葉は軽いのに、アラン王子の煌めく瞳は濡れていた。
全部受け止めると包み込むような優しい笑顔で、私を愛しむように見つめる瞳。
耳元で囁かれた。
「俺、リジーがいないとダメなの。アレ、本気だから。勝手にいなくならないで。俺だってパニくるからさぁ」
アラン王子は私を抱きしめて、温かい胸に包まれて涙を流す私に優しく囁いた。
「リジーを俺が本気で愛しているの、分からない?」
私のワンナイトは、予期せぬ方向へ。
私はヨナンに申し出た。
「あら?そお?」
ヨナンは美しい顔にうっすらと笑いを浮かべた。そして、うつむく私の顔をじっくりとのぞき込んで私に微笑んだ。
「ふんっ。太っちょのあなた。あなたなんかには所詮ムリムリ」
そう小声で私に囁いたヨナン。
彼女は勝ち誇った顔をしていた。
私のことを鼻で笑った。
「あなたは過去の女よ。エリザベス。今までアランの面倒を見てくれてあ・り・が・と」
ヨナンは最後の言葉を区切ってわざとらしく言った。
私は過去の女か……。
ですね……って。
黄昏てないで、私、さっさとここから離れなさいっ!
力及ばず。
私は愛する人の元にはいれないのだ。
裏門のところで馬車に乗り込む前、ヨナンのそばに行った私は、ヨナンに声をかけたのだ。
イザークは怒った顔をしたアラン王子の様子を見るために後ろの方にいたし、ヨナンは気晴らしだと説明されたらしく、外に連れ出されて物珍しそうに宮殿の裏門の辺りを見渡していた。
「時々、ここからお忍びで街に出れます」
私はヨナンに説明した。
「あら?そお?あなたも試したのかしら?」
ヨナンに聞かれて、私はうなずいた。
「私も街の宿屋に行きましたわ」
私は正直に答えた。
「街の宿屋ですってっ!?」
驚いた声を出したヨナンに私は囁いた。
「私はここでお別れします。ペジーカの資源の共有利権は今まで通りにお願いできますか」
「もちろんよ。あなたが退くなら、今まで通りよ」
ヨナンは高尚な慈悲の心を持ち合わせていますわ、と言った恩着せがましい態度で私にささやいた。
あくまで上から目線。
それはそう。
ヨナンはペジーカのお姫様。
私はしがない公爵令嬢。
持っている力が違う。
私はうなずいて、ヨナンにお願いした。
「どうか、アラン王子を幸せにしてあげていただけますか」
やっとの思いで、言葉を振り絞った。
声が震えた。
そのまま馬車に乗らずに裏門から外に走って出た。慌ててマリーが私を追ってきた。
「お嬢様っ?」
運良く辻馬車をつかまえることができた。
「お嬢様っ!?」
マリーが血相を変えて追ってきたので、そのままマリーも馬車に引き上げた。
「ディッシュ公爵家までお願い。急いで」
私は御者に叫ぶように言うと、そのまま馬車の座席の奥深くに身を沈めた。
涙が溢れた。
クリフなんかに。
あいつにヨナンの心を慰めることなんか出来っこない。
あいつは私を捨てた男だ。
甲斐性ナシだ。
ヨナンは絶世の美女。
クリフはただのチャラい遊び人。
無理。
到底無理。
クリフなんかにできっこない。
国を守るなんて。
私がやるしかあるまい。
私が潔く身を引く。
アラン王子の国を私は守らなければならない。
私さえ、アラン王子の前から姿を消せば、元に戻る。
最初に選ばれていた令嬢が、第二妃に戻るだけだ。
ディッシュ公爵令嬢リジーは、アラン王子に離縁された女でもう良い。
辛かったら、修道院に行こう。
私、泣くな。
最初の路線に戻るだけだ。
何も損はしていない。
何も起きていない。
私は嗚咽が漏れた気がした。
マリーは目にいっぱい涙を溜めて、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「あんなに愛されていらっしゃるのに、なぜですか?お嬢様っ!?」
マリーは私を叱ってくれた。
「愛しているから」
私は泣きながら、言った。
「愛しているから、身を引くの。私はアラン王子の前に現れちゃダメな人だったの」
世界が終わった気がした。
涙が止まらない。
体が震える。
胸が痛い。
離れていたら、何もかも忘れられるのだろうか。
分からない。
修道院って楽しいのかな?
そんなわけないよね。
久しぶりに戻った実家のディッシュ公爵家は大騒動になった。
私が出戻ったから。
「おぉ、リジー、何があったの?」
「リジー、里帰りなら、無理にするものではない」
父も母も使用人たちもオロオロと心配した。
また川に身投げするのではと、マリー含めて色んな従者や侍女が私の部屋の外や窓の下で、そうなったらお嬢様を止めようと待機した。
父と母も泣いていた。
私はひたすら一日中ベッドの中で泣き続けて、泣き疲れて眠った。
忘れなければ。
処女を金ナシ既婚者に散らしただけ。
私は淫靡な世界の扉を開けただけ。
もう、一生あんな恋はできない。
思い出だけ抱いて一人で生きて行こう。
ダメ。思い出も、忘れなきゃ。
あんなイケメン、思い出しちゃダメ。
胸が痛んだ。
泣きすぎて頭も痛い。
その晩遅くにディッシュ公爵家に予想外の来客があった。
家中にさざなみのような興奮が広がっている気配で、私は目を覚ました。
何かしら?
部屋の外に私は思わず出た。
えっ?
どうして?
「リジー!」
それは、デジャブだった。
美しい男性が私の名前を呼びながら近づいてきた。
「俺いや、リジー、可愛かったからさぁ、俺が愛しているリジーを失いたくなかったんだよね。今晩から行けるよね?」
ささやかれて、チュッと頬にキスもされた。
言葉は軽いのに、アラン王子の煌めく瞳は濡れていた。
全部受け止めると包み込むような優しい笑顔で、私を愛しむように見つめる瞳。
耳元で囁かれた。
「俺、リジーがいないとダメなの。アレ、本気だから。勝手にいなくならないで。俺だってパニくるからさぁ」
アラン王子は私を抱きしめて、温かい胸に包まれて涙を流す私に優しく囁いた。
「リジーを俺が本気で愛しているの、分からない?」
私のワンナイトは、予期せぬ方向へ。
15
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』
ふわふわ
恋愛
了解です。
では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。
(本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です)
---
内容紹介
婚約破棄を告げられたとき、
ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。
それは政略結婚。
家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。
貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。
――だから、その後の人生は自由に生きることにした。
捨て猫を拾い、
行き倒れの孤児の少女を保護し、
「収容するだけではない」孤児院を作る。
教育を施し、働く力を与え、
やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。
しかしその制度は、
貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。
反発、批判、正論という名の圧力。
それでもノエリアは感情を振り回さず、
ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。
ざまぁは叫ばれない。
断罪も復讐もない。
あるのは、
「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、
彼女がいなくても回り続ける世界。
これは、
恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、
静かに国を変えていく物語。
---
併せておすすめタグ(参考)
婚約破棄
女主人公
貴族令嬢
孤児院
内政
知的ヒロイン
スローざまぁ
日常系
猫
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる