ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第十話 「美しさは罪ですね」 とあるメイドさんの証言

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 1937年七月六日 長い長い戦争の引き金を引くことになる男。



 支那駐屯歩兵第1連隊の連隊長、牟田口廉也は、メイドさんに耳かきをされながら夏場のブルドックの様に溶けていた。



 一家に一台メイドさん計画は着実に陸軍内部を蝕みつつある。将官ですらこの有様、兵卒に至っては新婚夫婦の様にイチャイチャしている。

 

 そんな彼の、憩のひと時をぶち壊したのは、盧溝橋東北方の荒蕪地での武力衝突発生の凶報であった。



 詳細はこうだ。演習中の部隊の一人が急な腹痛にトイレに駆け込んだ。当然彼はメイドさんを伴っている。トイレの外で主人を待つメイドさんに声を掛けたのが者が居た。

 

 若い中国兵だ。彼としてみれば軽いナンパの積りだったろうが間が悪い。丁度用を済ませたメイドの主人と鉢合わせしてしまった。

 

 こうなると始末に負えない。



 俺の女に何しやがると食ってかかる日本兵。

 

 声を掛けたが悪いかと怒鳴り返す若い中国兵。



 お互い何を言っているんだか分からないが、口喧嘩はエスカレート。



 日本兵の方がポカリとやる。手が出たなら足が出る。お互い上になり下になりまるで犬の喧嘩の様だ。



 暫くすると居なくなった両名を探しに日中両軍の兵士が現れた。暴れる二人を引き離そうとするが二人とも食いついた様に離れない。

 

 そうこうするうちに何だ何だと両軍の兵士が集まり増える。そこに銃声が響き渡ったからたまらない。 



 撃ちやがったこの野郎と銃を向けての睨みあいが始まる。後はなし崩しだ、再度響いた銃声に両軍同時に発砲を始める。

 

 血が飛び散り、負傷者発生もうどうにも止まらない。しばらく続いた撃ちあいは火力で勝る日本軍に軍配が上がった。

 

 逃げ出した中国軍はと言うと



「日本兵が巡回中の兵士に突如発砲してきた」



 と報告を上げる。



 日本軍は日本軍で「メイドさんを攫おうとした中国軍を阻止しようとしたが、攻撃を受けた為止む無く反撃を開始した、指示を請う」



 との報告を上げる。



 後の歴史書で盧溝橋事件と記される事件の始まりである。



 古代ギリシャじゃあるまいに、女の取り合いで始まってしまった大戦争の第一ラウンド。一体どうなってしまうのだろうか。
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