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第二話 野生に帰って何が悪い!

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 お久しぶりでございます。混濁する世界に降り立ちました元全裸中年、現エルフ娘です。初めての出産より50年の月日が流れました。月日の経つのは早い物ですね。エルフ的感覚では昨日としか思えないのが凄いところです。



 私、これまでの期間産む機械となっておりまして、ポンポンと子供を産みました。その数何と現在五十二人!凄いぞ我が腹!ギネス記録も真っ青ではないでしょうか?さすがは神のご加護と言ったところです。



 畑の私は元気そのものなんですございますが、種の供給現たるお兄様のご加減が良くありません。若干煤けてると言いますか、黄昏ていると言いますか何とも元気がありません。



 まあ確かに、ここ五十年と言う物、妊娠している時以外は、子作りに励んでいましたので、さすがのお兄様もお疲れなんです。仕方がありませんね。

 

 しかし、子供は可愛い物です。初めて子供が出来た時は、おっかなビックリでしたが、その一挙一動が微笑ましく、大きくなればまた良く育ってくれたと感動したものです。まあ、十人を超えたあたりで感動は薄らいできましたが可愛い事には変わりは有りません。



 随分と増えた我が一家で有りますが、その生活様式についてお伝えいたしましょう。其の前に少し私の考えをお聞きください。私、この世界に参りまして、お兄様のお話と、神様情報を考え併せて見ますに、なぜエルフ帝国が崩壊したのか良く分かってまいりました。



 エルフたちは文明化し過ぎたのです。白金で出来た町、天まで届く星の塔、月の光を集めて鍛造する武具に馬具、その残り香たる宝飾品や家具等は、今私たちが隠れ住む。霧の森にある王族の避難所に安置されております。そうそう、私たちが住む場所についてお話しておりませんでしたね。



 私たちの住む霧の森は、四方を迷いの森の魔法で隠された。この世界でも最早数えるしかないエルフ魔法の結晶でもあります、そう聞いております。その中心である避難所には、魔法で編まれた木々と白金で葺かれた屋敷があり、香しき花々に囲まれた庭園、魔力の籠る泉、四季折々の果樹がなる果樹園などおファンタジー満載な場所です。



 王族しか隠れられない場所に、こんなに金を掛けてるから、滅びるんだと、私、元貧乏人の悲しさから毒ずいてしまいましたが、隠れ住む場所には最高です。不自由はしません。ですが此処は少数の王族が万一の際逃げ込む場所、子供たちが五十二人の大台に乗った今少し手狭です。



 そこは今置いておきましょう。皆さまは此処まで聞いて居られまして何をお考えでしょうか?快適結構ではないか?自慢もいい加減にしろ阿婆擦れ?文明と滅びにどんな関係性が?そんな所でございましょう。



 大いに関係あります。地球に置いても、文明の進捗と少子化の問題は、切っても切れない関係でした。この世界でもそうです。この世界、名前をまだ言っておりませんでした、中つく、、、駄目ですね、まったが掛かります。エルフ帝国は太陽の元にある国と言っておりましたので、矢張り分かり易く日本大陸と言いましょう。



 親しみが湧いたでしょう?大陸日本。また話がそれました。繁栄を極めたエルフ帝国は子供を態々作らなくなってしまったのです。超晩婚化、私の父母など五千歳で結婚、私が生まれたのはそれから千年後と言うから驚きです。上古の昔から生きる、不老不死の生き物ですから、しょうがないかも、しれませんが、これではねぇ。お兄様は私と百歳違いますが、それから私が生まれるまでに出来た子供は、片手で数えられる程しかいないそうです。



 これでも天災や戦争などが、無ければ良いかもしれなかったのですが、実際は、相次ぐ他種族との戦争や。火山噴火や大地震等で、エルフは数を減らし続け、最後は私たちを除いて死に絶えました。生きるスパンが長ければ天災やら人災で死ぬのは当たり前でしょう?千年に一度の大地震でも、一万年生きれば十回は襲われるのですから。我々エルフは不老で不死でも不死身ではないのです。



 そも相手の土俵で戦ったのが間違いなのです。凄まじい勢いで増える人間や、ゆったりではありますが、それでも、エルフとは比べ物にならない速度で増える、鍛冶しか能のない二足歩行土竜と、戦争して勝負に成るはずがないのです。こっちが百人殺しても、相手は此方を一人殺せば。それだけで千人殺された同じ事になるのですからペイする訳ないでしょう!



 お兄様によりますと、数千年の間修行に明け暮れた、歴戦の剣士たちが、積み重ねた屍の上で槍衾に串刺しにされ

 数万歩先の的にすら、目を瞑って当てられる弓使いが、雑兵の放つ矢の雨に、殺されて行ったそうで、その事を話す彼は心底悔しそうでした。そこを慰めるとその日の夜は燃え上がるんですよね、ぐへへ。



 ゴホン!兎も角、それなんですよ、一騎当千で数に対抗しようとするのが間違いなのです。数千年を加味した戦士たち、それは凄いでしょう。でもですね。一発必中の砲は百発一中の砲に負けるのです。此方が一門破壊しても相手は九十九門残りこちらはゼロ。ゼロは何処まで行ってもゼロです、明後日の方向にしか行かなくても九十九あればどれかが当ててくれます。何でしたっけ?ランカスター?ランチェスター?そんな法則です。



 ここで私たちの生活様式の話になります。思考を百八十度回転させるのです。お上品に生きて滅びるより、もっと粗で野で蛮に生きましょう!なに私たちは、例え裸で森に寝ても虫刺され一つ、風邪の一つも引かない体。神様のパイロットフィッシュは伊達では有りません!野生に帰り数を増やしましょう!

 

 食べ物だってそうです。お上品に菜食主義などしてはいられません。私たちエルフに取って食事は、存在を現世に止めて置くもの、私たち食べないで要ると、ドンドン体が霊に寄っていき、最後は光の粒になり天に帰ってしまうのだそうです。

 逆に獣肉をガンガン食べれば、体は肉に依り、お兄様の如く、筋肉モリモリマッチョメンに勝手になります。エルフはゴリラの親戚だった?嘗てのエルフたちは、体が肉に寄っていくのを、穢れとして毛嫌いし、肉食を禁忌としていました。穢れが溜まれば天に帰れなくなると言う迷信が蔓延していていました。



 そんな事しりません!肉を食え肉を!血の滴る肉を食べ、男はマッチョ!女はセクシー!になるのです。この母が許します!子供たちよ肉を食え!長女さん、そこまでグラマーにならなくても良いんですよ。いえ、母は決して貴方の体を羨んで等いません、、、、ぐぎぎ。



 そんな訳で今現在、我々一族は母系狩猟採集民族へと退化しております。お兄様は、必死に優美にして格調高いエルフ文化の継承に努めて居られますが、そんなのポイです。確かにエルフ文字等の文化伝統は雅で流麗、ですがそれを自分の物として使いこなすまでには、それこそ百年は掛かります。ポイしなさいポイ!

 

 これより子供たちが習う文字は片仮名オンリー、有ってて良かった日本語知識!数学にしてもそう、幾何学?代数?高等数学等要りません!足し算、引き算、掛け算、割り算、分数。これだけ分かれば結構!今更白亜の城なんて建てる必要は有りません。



 子供たちよ。貴方方に必要なのはキビシー自然を味方につけ、荒野で生き残る知識です。薬草学、衛生知識、狩猟知識、無文字社会は、後々不味いので、文字は覚えてもらいますが、基本的に口伝が知識伝達の主要となります。我々は不老不死、エルフ式情報伝達です。大いなる方より、講師としてコヨーテ先生が私の脳内に派遣されましたので、其処ら辺はバッチリです。有り難うコヨーテ先生!後でトーテムポールを建ててあげますね



 魔法に付いてもお話しましょう。この世界は前にもお話しました通り、天地の未だ固まらず、そこかしこに奇跡の残り香や歪、取り損ねたバグが漂ったり、歩いていたりしております。人間は利用できないこの神の力の残滓も、我らには標準装備されておりました。



 エルフは千里眼擬き、神足通擬き、天耳通擬き、他心通擬き等、所詮擬き止まりではありますが、神通力の真似事ができました。エルフ帝国はこの様なチートを駆使し世界を制したのです。ですがこれは帝国の絶頂期には過去の物となっておりました。文明を積み上げ、知識を蓄えた彼らは、魔法によって星を落とし、炎を巻き起こし、大地を割る事が出来ました。崩れ落ちた星の塔の魔法使いは、これらの魔法の専門家だったそうです。



 ですがそれが不味かったそうです。何時からかエルフは魔法を体の一部として使う能力を失い。奇跡は少数の魔法使いのみが十全に振るえる力になって行きました。それら魔法使いが万の軍勢と相打ちになって行き、帝国には極小規模な奇跡を振るう力しか無くなっていきました。お兄様は近衛の隊長として、身体の強化や武器に魔法を込める方法をご存じですが、彼曰く、往時の戦士たちは、片手で大岩を砕けたそうですので、その零落ぶりは相当な物だったのでしょう。



 ですがご安心ください。私をこの世界に呼んだ「大いなるお方」 メンドクサイので神様でと呼びましょう。 によりますと能力の喪失は一種の廃用性症候群だそうで、狩猟採集生活を此処五十年ほど送っております、私たち家族にはお兄様以外、メキメキと神通力が戻りつつあります。五番目の子が泉の上を歩き出した時は思わず「ジーザス!」と叫んでしまった位です。



 更に朗報!神様より祝福を授かりました。原初の魔法、呪術の使用権です。これで十一番目の娘がウィッチドクターになりましので、少しの怪我など怖くありません!怪しいお香を焚きしめて、ドロドロとした軟膏を塗ればあら不思議、傷は跡形もなく消えます。それと娘よ、神様と本当に交信できるとは言え、そのハッパを年中キメルのは止めなさい。



 纏めましょう。「子供が増えた!」「神通力を取り戻した!」「娘がラりパッパになりながら、大自然と同調している」「高度な文明を捨て野生に帰った」です。



 纏めると酷いですね。ですがこれは成果です。我らは着々とエルフ復興の道を進んでおります。よーし、この勢いで更に増やすぞ子供たち!何かムラムラして来ましたし、、、うぉー!お兄様ー、うぉー!子作りしましょー!今度は百人が目標でーす。





 「あれ?居ない?お兄様ー?どこですかー?」



 子供が増えた事であちこちがボロボロになりつつある、魔法の屋敷、その中にお兄様の気配がしません。



 「おかしいですね?今頃でしたら書斎で、帝国の歴史編纂の仕事でもしてるはずなんですが?」

 

 子供たちも大きくなり、狩りに出かける様になりましたので。これまでお一人で、家計を支えていたお兄様も余暇と言う物ができました。お兄様はその時間を私から見ると意味がない帝国の歴史を纏める作業に没頭しておられます。どうにも帝国貴族で有った自分を、忘れられないお兄様には良い趣味かと思ったのですが、近頃様子が変なんですよね。



 「母!」



 うわっ!ビックリした。気配を消して近寄らないで下さい。この子たちはどうにも先祖返り著しく。影の様に移動するから、よく驚かされます。



 「どうしたんですか?萌ちゃん?」



 「萌ちゃん違う!燃える火の輪!私の名前は、燃える火の輪!母、何時も変に略す」



 「ハイハイ、お兄様が付けた名前とは言え長いんですよ。萌ちゃん、カワイイではないですか。何か御用ですか?」



 ブー垂れる娘、次女の燃える火の輪は、一通の封筒を差し出しました。今は亡き世界樹の葉を加工して作った、王族専用の格式高い封筒には、琥珀蜜蜂の蝋印、押された紋章はお兄様のものです。



 「何ですかこれ?お兄様ったら、改まって手紙だなんて?萌ちゃんお父さん何かお言いに成られて、居りましたか?」



 「知らない。父、これを母に渡す様にしか言わなかった」



 「そうですか、まあ読んで見ましょう。やっぱりエルフ文字。読みにくいんですよ、これ、もう二人しかこの文字を理解できる者はいないのですから口で言えばいいのに」



 封を切り、手紙を眺めれば流麗で華美、私には、ミミズのダンスにしか見えない文字が書いてありました。お兄様は大好きですが、こう装飾後塗れの文体で手紙を書かれるのはいけません。えーと、なになに。



 「旅にでます。探さないでください。お前を愛する義兄より」



 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。



 「種馬が逃げたーーーーーーー」

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