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第十話 ぶらりエルフ妻一人旅 旅情編

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 どうも、遂に広い世界に飛び出した、世界に咲き誇る白百合事、エルフ娘です。ワールドマップに飛び出しましたので皆さまには、私の居ります日本大陸についてお話しましょう。



 この大陸は邪龍の死骸が基礎になっている事は前に、お話ししましたね。私の故郷と呼べる、霧の森は大陸の中心よりやや南、世界最大の山である、心臓山の麓に広がっております。直球なネーミングでは有りますが、マジに星に叩きつけられた邪龍の心臓が、山に変じた物ですからそう呼ぶ他有りません。そも大陸の主要な地名は、真っ赤なトマトと化した、邪龍君の体の一部の名前が付いております。



 心臓山の他にも、一度お話しました、大陸を南北に分断する「龍骨山脈」。北の果て「龍頭大陸」千切れた前足とその血潮で埋め尽くされた「前足平原と血だまり湖沼」嫌な音を立てて吹き出したおモツが元の諸島を有する「腸はらわた内海」、切れた上折り曲げられた後ろ脚で出来た「大後足島」吹き飛んだ尻尾が火山を大噴火させて出来た「龍尾亜大陸」等、血生臭さ満点なのがこの日本大陸なのです。



 如何して神様が、創造物を送り出す際、段階を踏んだかこれでお判りでしょう?この大陸は血潮に塗れて生まれたのです。こんな所にか弱い創造物を送り出すなんて出来た物では有りません。原初の生物たちは、この血だまりから生まれ、その体には龍の血が僅かながら流れていると言われています。酷い世界でしょ?



 現在は、原初の生物も、奇跡の退潮が進むと共に小型化、人間さんでも対処可能なサイズになっています。霧の森が異常なだけです。また特に狂暴な生き物、竜、巨人、獅子鷲等は人手の届かぬ辺境に生息するのみとなっています。今ままではですが。



 我が野望実現の為、世界に散った我が子達は各地に世界樹の種を植えるでしょう。種は若木となり、やがては成木そして大樹へと変わり、その周辺には多くの眷属を産むでしょう。其の時が来れば既存世界の株価は大暴落し、物理法則は混沌と幻想に膝を屈する筈です。そうなれば、辺境に逼塞する獣たちも現世にカムバック、人間さんも髭達磨もオークすらも、、、、オークは大丈夫ですね、嬉々として竜を狩りそうです、兎も角、他種族は新エルフの庇護を求めざるを得ないでしょう。ふへへ。楽しみですねぇ。



 昔話はこれまで。森を越え谷を越え、人妻エルフがやって来た。人間襲いにやって来た。ガオー!霧の森を出て約一月、私は大陸最大の都市、旧大樹の館にたどり着きました。街道を使わずとも、神速を使えばこんな物です。凄いね神通力!この都市は嘗てのエルフ帝国の経済の中心であり、世界樹の子供達でも、最大の成木を中心として栄えた一大港湾都市でした。



 潮の匂いが薫る風が気持ち良、、、、くせぇ、海の近くってこんな物でしたか?長い事、内陸で暮らしてましたので忘れていました。まあ、直ぐに慣れるでしょ。



 



 くせぇ、、、天丼で申し訳ないのですが、人間さんの都市、どえらい事くせぇ。別に糞尿がばら撒かれたいるとか、ゴミの山があちこちに有るとかではないのですが、生活臭?水回りの匂い?アレですよ、初めてペットのいる家庭にお呼ばれした時に感じる匂い、それを何倍にもした感じです。私、野良エルフのつもりでしたが、嗅覚に関しては未だ、原典エルフなんですね、ここに来て実感しました。



 もう、偵察なんて止めて森に帰ろうか知らん?ダメダメ!ここで帰ったら、タダでさえ落ちている威厳が底を割ってしまいます。はい深呼吸!吸って、くせぇ、吐いて、うぷっ、吸って、ぐええ、吐いて、おぇ、辛い、凄く辛いですよ、故郷の子供達、、、我慢、我慢です。



 「大丈夫か?」



 お気に為さらずに、これは試練、神の試練なのです。神は乗り越えられない試練は課されません。



 「いやなあ、お嬢ちゃん、足が震えてるぞ、何処かで休んだらどうだ?」



 ですので、お気になさらずに、、、、うーん、チャーンス!今私を心配そうにしている男、どうやら下心があるみたいですね?私の目は誤魔化せませんよ、なんせ千里眼(擬き)なもので。嗚呼、ご親切にどうも、矢張り辛くなってきました。ここでしな垂れかかります。胸をしっかり当てるのがポイント。誰ですか!当てる胸が有るのかと言った人は!チャンと有ります!馬鹿にしないで下さい。



 「おお、本当に大丈夫か?良い店が有るんだ、そこで休むと良い、ほら立な」



 男ってホントに馬鹿ね。貴方が鼻の舌を伸ばしているのは、子供達曰く、淫魔エルフでーす。何もかも吸い取っちゃる。本当に有り難うございます、見知らぬ方、故郷を出ましてから苦労続きで疲れが出ましたの。宿を取りたいのですが、この町の人でしたらご存じ有りませんか?



 「そりゃ良い、今から行く馴染みの店は宿もやってる、丁度いいからそこに泊まりな、路銀は有るんだろ?」



 はい、些少ながら用意がございます。こんな見知らぬ旅の者にご親切な事。町は恐ろしい所だと聞いて居りましたが、ご親切な方も居るんでございますね。



 「なんか、婆さんみたいな喋り方だな、何処から来たんだ。おっ、ここだ、さあ入りな、親父!麦酒を二つ!」



 五月蠅ぇやい。こっちが最後に人間語を学んだのは90年前なんです。人間語はエルフ語と髭達磨語のチャンポンなんだから、問題ないでしょ。



 私を誘った男、船乗りだそうで。此処は波止場に近い酒場、その名もサメの巣亭、碌な名前じゃありませんね。目の前の男から下心の気配がドンドン強くなっています。外套の隙間から見える、私の姿が煽情的なのも有りますが露骨ですねぇ。胸ばかりチラチラ見てますよ。



 吐き気も慣れて来たのか収まりました。ここいらで食事でもしてみますかね、此処までの道のり、其処らで取れた蜥蜴とか虫ばかりで飽きて来たところです。ああ店員さん。あそこの人が食べてるのを下さい。漁師汁?そうそう。あと、あそこに掛かってるタコ、食べれます?海水と酢で和える?じゃあそれで。

 

 「元気になったみたいだな。良かった、良かった。ここは海の幸が美味いぜ。帝都で一番さ。良い飲みっぷりだな、おいもう一杯追加」



 おっ、もう仕掛ける積りですか。店員に目配せしたの、バレないと思ったんですかね。しかし、怖いですねぇ、都会は。女の一人歩きなんてできませんよ。おお、このタコ意外と美味しい。足が十二本有るので烏賊かタコか怪しかっんですが味はタコですね。



 飲み食いしてますと、とっておきの酒が有ると、琥珀色の蒸留酒が出てきました。何でも髭達磨産の酒だそうです。ゴクリ、、、麦に高山の雪解け水、それと樽は、世界樹だ!あいつらまだ世界樹の木材を使ってるんですか、腹が立ちますが美味しいので余計むかつく、、、御馴染みの味もします。娘たち御用達のハッパ、月光草、根の部分ですね、これは。人間さんでしたら一撃で昏倒する量ですよこれ、これはキツーイお仕置きが必要ですね。



 







  「何故か急に私眠く、、、、」



 へへっ、何時もながら凄ぇ効き目だ。おい、例の部屋開いてるな?ほら代金だ。なに、いい加減止めたらどうだ?なんでぃ、お前も協力していい目を見てんじゃねぇか。同じ穴のムジナのくせに生意気言うな!衛兵が五月蠅いが如何した!いつも通り金を握らせろよ。まったく。



 



 ほーらよっと。へへ設置完了。この女、町で見かけた時から思ったが良い体してるじゃねぇか。外套の下から見えた腿なんて最高だぜ。さーて、お嬢ちゃん。帝都に女一人で来るなんて、馬鹿な真似をしたもんだ。親族がいるだ何だと言ってだがどうだか。おっ。胸飾りなんていっちょ前にしてやがる。もーらい。



 近頃、落ちついたとは言え、帝都には難民共がひっ切りなしに来やがる。もうこの町にはテメェらのいる場所なんてねぇんだよ。汚ねぇボロなんてきやがって、ん?随分と匂いのない奴だな。まあ良い。脱がしゃ同じよ。さーて、お顔とご対面、こいつ、ずっと被り物を脱がねぇんで面が見えなかったが、これだけの体だ顔も良いに、、、あっ?随分と長い耳、、、こんなに耳の長い奴なんているか普通?、、、、嗚呼っ!





 



 シーッ。声を出しちゃいけませんよ坊や。あっと言う間に立場逆転。男は哀れ組み敷かれましたとさ。矢張り人間さんはか弱くて可愛いですねぇ。お肉をモリモリと食べて強化された野生エルフの体が強いだけか、、、、兎も角、この反応を見るにエルフの存在は完全に過去の物になったと言う訳でもないんですね。この町で帝国の遺跡を見る機会が多いのも原因ですかね。はい、暴れない、暴れない。



 おお、恐怖に目を見開いちゃいます?私、興奮して参りました。エルフはまだまだ恐怖の対象なんですね。あれですよエルフ・リアリティ・ショック、略してERS。アイエー。そんなに怯えられると私、私、ひゃあ!もう我慢できなぁい!



 

 ご馳走さまでした「許して」十五回「助けて」十二回「神様!」七回頂きました。人間さん潮の香風味、美味しかったです。しかし、これだけ叫んで誰も来ないとは、予想通りこの部屋音が響かないですね。これは常習と見て間違いないでしょう。



 帝都に訪れた可哀そうな人々を食い物にする悪漢共、成敗して問題ないでしょう。町も綺麗になり、私の根城も出来る、誰もが得する素晴らしい案です。そうと決まれば。はーい、坊や、グッタリしてる所、悪いですが、お姉さんの瞳をじっくりと見なさい。良い子ですね。





 



 「聞きましたか、隊長?例の店の話?」



 「なんだ急に、ああ、あの話か、あの店なら行ったよ」

 

 帝都の治安を預かる、衛兵隊、港湾第三分署の三級巡察官は、直属の上司である、上級巡察官に話しかけた。近頃、港湾地区のポン引きや娼婦共が静かな理由についてだ。密輸に暴力沙汰、殺しに麻薬と、港湾地区は忙しい中、そこだけでも大人しいのは有難い。それが胡散臭い連中を取りまとめ始めた奴の登場だとしても犯罪が減るなら万々歳だ。



「本当ですか!ずるいですよ、隊長ばかり。今度、非番の時でも連れて行ってくださいよ!」



「馬鹿野郎!仕事だ!偵察だよ、敵情偵察!遊びじゃあないんだ!」



 部下が言っていた例の店、去年あたりから、急に娼婦やポン引き、美人局等、碌でもない連中が頻繁に、出入りし始めた店の事だ。港湾地区の裏を取り仕切る連中が、潰しに掛かったらしいが、元気に営業している。 

 あの店には妙な噂がある。怪しい薬を扱っている。帝都でもお目に掛かれない程の美人ぞろいだ。娼婦共の元締めの一人が店に、手下と押し掛けたきり出てこない。代わりに見た事のない娼婦が町に現れた、ケツ持ちはその店の人物だ。

 

 ハッキリ言って怪しい事、限りないが。事実、港湾地区の治安は多少なりとも向上している。ガサ入れを掛けてやりたくとも証拠が出てこない。クソっ。



 「お願いしますよ隊長!自分もその偵察に付き合わせてください!俺の給料じゃ、とても行けないんですよ。お願い!この通り!」



 「うるせぇ!真面目に仕事しろ!日が落ちたぞ!とっとと、夜間巡回に行け!」



 若い奴は之だからいかねぇ。帰り支度を始めた彼は、ブツブツと文句を言うが、その足は部下の言う例の店、港湾地区の酒場通りにある、サメの巣亭に向かっていた。彼は此処何日かこの店に通い通しだ。この店の酒は妙に美味い。昔は、荒くれ者の水夫共しか行かないような店だったが、何年か前から表通りに宿替えし、繁盛し始めた。妙な噂が立ち始めたのもその位からだ。



 「琥珀酒をくれ」



 馴染みになった席に付き注文をする、見渡せば、娼婦に水夫、船長クラスの奴、商人風の人物や、どう見ても一般人としか見えない者さえいる。だから妙なのだ。普通帝都の一般人はこの種の店には来ない。危なくてたまらないからだ。



 「はい、どうぞ」



 「ああ、景気はどうだ」



 「悪くないですよ、隊長さん」



 此奴、とうに、こっちの素性に付いて知ってやがる、気持ち悪くて仕方がない。そう思うと、港湾第三分署、上級巡察官は、赤銅の肌に、燭台の明かりに、キラキラと光る金髪の女を睨めつけた。



 「あら、怖い顔」



 「抜かせ」
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