超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第六章 その名は蛟

第十一節 鉄管拘束女体拷問

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「わ、私は何も知りません……っ!」

 掠れた声で、いずみが叫ぶように言った。

 いずみがいるのは、打ちっ放しのコンクリートの壁で囲まれた部屋だ。壁の上の方に、横に長い木の板が打ち付けられており、その表面からは威圧感を演出する為であろうか、何本もの鎖が杭で固定されて、ぶら下がっていた。

 又、床には竹刀や木刀、切り取ったままの青竹、鉄パイプ、金属バット、金槌などが無造作に転がされている。

 その部屋の中央に、鉄管で拘束されたいずみの姿がある。

 下着以外の衣服を剥ぎ取られ、両端を二つずつのコンクリートブロックで支えられた、長方形の戸板の上に立たされたいずみは、両足にそれぞれコの字の鉄管を被せられて固定された。

 頭を下げさせられ、尻を突き出すように中腰になると、両脇に三本ずつ並んだ背の高い鉄パイプを結ぶ横の鉄管を、鎖骨と肩甲骨の位置に通された。腹の下と膝の裏にも同じように鉄パイプが固定している。これで、上体を上げる事も下げる事も出来なくなった。

 両腕は左右に開いて持ち上げさせられ、肩幅の二倍の位置で頭よりも高い場所で、横の鉄管から鎖が伸びた手枷を填められている。

 多少身を揉む事は出来るかもしれないが、それ以上の事は出来ない姿勢だ。しかも中腰にさせられているので膝と太腿に負担が掛かり、吊り上げられている手からも血の気が引いている。

 その、大きく膨らんだ乳房と比べても遜色ないヒップは、赤く腫れ上がっていた。

 部屋の中にはいずみの他に四人のガラの悪い男たちがいて、代わる代わるいずみの尻を叩いたり、頬を張ったり、罵声を浴びせたりしている。

 いたぶられるいずみの正面には、パイプ椅子に腰掛けた蛟がおり、暴行を加えられるいずみを冷ややかな眼で眺めていた。

「そろそろ吐く気になりましたか?」

 男たちの暴行を一旦やめさせ、蛟が平生と何ら変わらぬ調子で言った。

 チンピラたちでさえ、抵抗出来ない女をいたぶっていると興奮からか、欠片も感じてはいないだろうが罪悪感に似たものからか、息は上がり、頬は上気し、罵倒の声も音域が高くなってゆく。

 この光景を作り出す事を実際に指示し、間近で見ている筈の蛟は、紀田勝義でさえ抗い得ないサディスティックな精神の高揚を全く感じていないかのように、冷たい声音である。

「あの男、明石雅人の事を……」
「知りません! 私、本当に、何も、知らないんです……」

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった赤い顔で、いずみが言う。鼻をしゃくり上げているからか、何度も張り手を受けた頬と同じくらいに鼻先が赤くなっている。

「昨晩あの場にいたのでしょう。明石雅人と桃城達也との戦いを、見ていたのではありませんか」

 蛟は明石雅人に敗れた桃城達也の代わりとして、自らを紀田勝義に売り込んだ。紀田はそんな蛟に、雅人の捜索と渋江杏子が持ち出したディスクの回収を命じたのだ。

 蛟が先ず眼を付けたのは、雅人と桃城の戦いの場にいたいずみであった。いずみの事は調べればすぐに分かり、スナック“わかば”で待ち伏せをしていたらすぐに会う事が出来た。

 蛟は、治郎に言ったように本日休業の看板を出そうとしたいずみを拉致すると、勝義会の事務所となっているアミューズメントホテル“SHOCKER”へ連行した。そこで、紀田勝義が趣味で造らせた拷問部屋へ運び、雅人の事を聞き出そうとしたのである。

 明石雅人とは何者で、あの後何処へ姿を消したのか?

 当然だが、いずみは知らなかった。蛟も、いずみと雅人が無関係であろう事まで察してはいる。

 だが、チンピラたちの気分は高揚し、弱者を痛め付ける感覚に酔い痴れていた。それを眺めるのも一興とばかりに、蛟はいずみを質問責めにした。

「もう一度訊きます。明石雅人の事を知っていますね? 彼は今何処にいるのですか? また、彼が匿っている渋江杏子の行方は? 素直に話せば、すぐに帰して上げますよ」
「知りません……本当です! 本当に何も知りません! だからもう帰して下さい!」
「このアマ、ここまでされても口を割らねぇか!」

 チンピラの一人が、いずみの髪を掴んで耳元でがなった。

「その明石とかいう奴は、随分と良い男なんだろうな」
「ここまでしてくれる女なんて、そうそういないぜ!」
「よっぽどあっちの相性が良かったんだろうさ。でなきゃここまで我慢しねぇよ」
「でも酷い男だな、明石ってのも。てめぇの女(スケ)がこんな目に遭ってるのにな!」

 チンピラたちは矢継ぎ早にいずみと雅人を罵倒した。げらげらという下品な笑い声が、湿ったコンクリートの壁に反響する。

 そうしていると、蛟が背にしていた扉が軋みを立てて開き、薄暗い拷問部屋に外の明かりが射し込んだ。邪悪な後光と共に現れたのは、ヒキガエルのように醜悪な紀田勝義であった。

「その女が渋江杏子か?」
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