幻聖魔伝 ～Three world～

第七夜

66

　けど次の瞬間、俺の頭の中は別の事でいっぱいになった。



　痛い……！！



　俺は思わず片膝をついた。

　見ると男は、もう片方の手にもナイフを持っていた。

　そのナイフには、紫の血がついている。



　ああ……俺の血だ。いつ見ても、悪魔みたいな色だなぁ…………。



　切られたのは胸の辺り。紫のノースリーブが更に濃い紫へと変色していく。

　男が再びナイフを振り上げた、その時だった。

「ウォータ・ストリーム！！」

　途端に男の足下に水溜まりが現れ、その水溜まりから、まるで間欠泉のように水が吹き出して男を遥か上空に連れて行く。

　船旅もいいけど、空の旅もよさそうだね。空の旅に行ってらっしゃ～い。

　俺はまるで太陽でも見るかのように手で日除けを作って、飛ばされた男を見る。でも、夜だけどね。

「リュカ兄、大丈夫！？」

　視線を戻すと１５才組が慌てた様子で走ってきた。

　ホークもミルカも、何をそんなに慌ててるの？

「動かないでね？」

　ミルカはそう前置きをして、俺の傷口に両手をかざす。

　すぐに、柔らかい光が傷口を覆う。

　ちょうどその時目の端に、男が少し離れた甲板に落ちてきたのが見えた。



　お帰り～。



「ホーク、今の水の中級魔法でしょ？　大丈夫なの？　あの人」

　俺はちょっと気になって訊いてみた。

　ミルカは水属性は不得意。ホークは水属性が大得意。

「平気だよ。手加減したし、落ちた時の怪我以外はないはずだよ。でもリュカ兄が暗殺者を心配するのは珍しいね？」

　……ホークにとっては暗殺者さんと同じ扱いなのね。

「ここで人殺したら騒ぎになるでしょ。下手したらもう、船に乗れなくなるなんて事も……」

「そんな事まで考えてたんだ！　さっすがリュカ兄～！！」

　……。ねぇ、誰か弟交換しない？　なんならあげてもいいよ？？