幻聖魔伝 ～Three world～

第十夜

87

「俺は、優しくなんかない」

　リュカ兄の、いつもの言葉だ。



　リュカ兄の事を優しい、なんて褒めようものなら誰にでも必ず、こう返す。



　リュカ兄、優しいのに……。どうして必ず優しくないって言い張るのかなぁ？

「優しいじゃん。僕知ってるよ？　早起きリュカ兄は毎朝、まだ誰も起きてない時間に庭の植物に水あげてたの」

　言い終わった瞬間、隣を歩く僕にリュカ兄がさらにしかめっ面をしてきた。

　あ、マズかったかな？

「…………なんで知ってるの？」

「この前早起きして庭の近く歩いてた時に、たまたま見かけたから」

　リュカ兄は「ふぅん」とだけ言って黙っちゃった。

　そして僕達は食堂でご飯を食べて、ランディ兄の部屋で色々話した。

「でもシェラハさんも、結構気性激しいよね～」

「あれはもう、女じゃねぇよ。どうして親父もあんながさつな女選んだんだろうな？」

　僕達が横で話してても、リュカ兄はずっと考え込んだまま。

　どうしよう。なんか気まずいなぁ……。

　その時、リュカ兄が「ねぇ？」と僕達に話しかけてきた。

「どうか、したの……？」

　ミルカがそう言って、僕とランディ兄もリュカ兄を見る。

「どうして、慕われてるの？　俺」

　……えっと、またこの質問？

「そりゃ、お前が優しいからだろ？」

「……私も、そう思う」

「…………俺、優しい？」

　今度はそう訊いてきたから僕は「うん」て答えた。ランディ兄やミルカも、頷く。

「…………ふぅん」

　リュカ兄は今度は否定しないで、それだけ言ってまた考え込んじゃった。

「悪魔の俺が『優しい』ねぇ……」

　リュカ兄はピンとこないらしく、そう呟く。



　その『悪魔』からして、間違いだと思うんだけどなぁ……。