想い出話

田仲初芽

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想い出話

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季節の変わり目は
いつだって残酷で
暑くなって、寒くなって
ふと足を止めた時
瞬間、
置いてきた物の重さを知るのだ。

久しぶりに父親と出かけた時に
買ってもらった新品のグローブ
キャッチボールをして 
汗が頬を伝っていった、
心踊ったあの日は
いつのまにか
棚の中で眠っていて
もう、私の手は入らなかった。

夢を見た。
家族全員で遊びに行った時の
キラキラとした日を
歌って遊んで
皆の声はてんでばらばら
綺麗なハーモニーからは程遠いけど
それも笑い声でごまかした
最近は食卓でも家族全員の顔が
見えなくなってきた。

六年間毎日行った小学校で、
あの頃は
校門は見上げるほど大きくて
校庭は端が見えなかった。
どこかで読んだ小説の
「伸びた手足では、ゆりかごに戻れない」
という一節は、
多分これを見て思いついたんだろう
小さく縮んだ思い出の場所を
私は自転車で横切った。

あの時感じた
痛くて脆いあの気持ちは、
きっと季節の変わり目に戻ってきた
昔の私。
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