いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
2 / 56

第2話「雨上がり」①

しおりを挟む
    窓を開けて外を見ていた。
    夏の盛り、春を経てますます輝きを増す世界。そんな、放っておけば燃え尽きてしまいそうな世界を、優しく包み込むように雨は降っている。母が子をなだめるような慈しみのようなものを、雨の音に感じていた。

    部屋から見えるのはいつもの風景。目の前には瓦屋根の家が並んでいる。私が暮らす家は少し急な坂の途中にあって、晴れた日には海から昇る朝日を見ることもできた。
    うちから見て一つ下が清水さんの家。その下は東さんで、一番下の家は床屋の吉永さん。その前には片側一車線の海岸通り。そこを渡れば砂浜へ下りることもでき、家族で花火をしたこともある。

    大粒の雨は相変わらず、屋根をぱたぱたと叩き続けている。淡いフィルター越しに見るような、白くかすんだ景色。少しずつ、心がどこかへ遠のいていく気がした。

    坂道を間に挟んで吉永さんの家の反対側に、小さなバスの停留所があった。木造りの壁と屋根。四人座ればやっとの、青いプラスチックのベンチが一つ。バス停は、私の部屋に背中を向けた格好で、静かに雨にうたれていた。木目が色濃く濡れている。何か哀愁あいしゅうめいたものを感じた。
    中の壁には、排ガスで煤けた時刻表と、自治体の掲示板、色褪せたポスターや落書きがあった。落書きの内容は、お決まりの相合傘から、クラスの誰かにあてた罵詈雑言ばりぞうごんや、片想いの相手に向けた差出人不明の告白など、様々だった。
    何度となく見かけた、そんな落書きのことを考えていると、バス停の影からふっと何かが現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...