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第12話「あの日」③
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それが、私と樹との最初の出会いだった。その日から、私達は徐々に打ち解けて、次第に一緒にいる時間が長くなっていった。
そしてある日、ひょんなことから私は知ってしまった。
あなたが『秘密基地』と呼ぶその場所が、お母さんを海で亡くしたために海へ近づくことを許されなくなったあなたにとって、誰にも見つからずに、海に眠る亡き母へ、花を手向けるのに絶好の隠れ場所だということを。
父が死んだあの日、後悔していたのはあなただけではなかったのだ。
あの日、あなたの父親がうちを訪ねて来たときに、居場所に心当たりがないか聞かれた私は「知らない」とそう答えた。偶然知ってしまったとはいえ、あの場所と、あなたのしていたことが知られては、二度とあなたはお母さんへ花を手向けることはできないと思ったから。
結果、あなたの発見が遅れ、父は帰らぬ人となった。
私は怖かった。私のしたことで、父を死なせてしまったことが。
私は怖かった。私のしたことで、あなたまで失いかけたことが。
私はただただ怖かった。
そんな私の醜さを、あなたに知られてしまうのが怖かった。父の葬儀の間中、母にしがみついて泣きながら、私はただただ怯えていた。
父を失ってから初めてこの町に帰ったとき、私は息を潜めて毎日を過ごしていた。あなたに出会ってしまわないように。
なのにあの雨の日に、私はあなたを見つけてしまった。あなたはあの頃と変わらない笑顔でそこにいた。どうしても…どうしても会って話をしてみたかった。
だから、私はある賭けをした。
あの日と全く同じように、あなたにアイスを差し出したとき、あなたが私を思い出すかどうか。
あなたが私を思い出したのなら、素直にすべてを打ちあけよう。でも、もしもあなたが私を覚えていなかったなら、その時はもう一度初めから、すべてをやり直すことはできないだろうか。短くたって構わない。ただ、二人で笑って過ごす日常を。
すべてを欲しがり過ぎたのだ。何もかも失いたくなくて、何もかもを求めた結果、私はここでこうしている。走馬灯のようなこの光景も、そんな私へ神様か何かが与えた罰のように思えた。
景色が徐々に色褪せていく。音もどんどん小さくなって、また、元の真っ暗闇になってしまった。贖罪の時間も終わりが近づいたということだろうか。そうだ。きっと、私はこのまま消えてしまうのだ。
私はすべてを受け入れて、素直にそっと目を閉じた。
そしてある日、ひょんなことから私は知ってしまった。
あなたが『秘密基地』と呼ぶその場所が、お母さんを海で亡くしたために海へ近づくことを許されなくなったあなたにとって、誰にも見つからずに、海に眠る亡き母へ、花を手向けるのに絶好の隠れ場所だということを。
父が死んだあの日、後悔していたのはあなただけではなかったのだ。
あの日、あなたの父親がうちを訪ねて来たときに、居場所に心当たりがないか聞かれた私は「知らない」とそう答えた。偶然知ってしまったとはいえ、あの場所と、あなたのしていたことが知られては、二度とあなたはお母さんへ花を手向けることはできないと思ったから。
結果、あなたの発見が遅れ、父は帰らぬ人となった。
私は怖かった。私のしたことで、父を死なせてしまったことが。
私は怖かった。私のしたことで、あなたまで失いかけたことが。
私はただただ怖かった。
そんな私の醜さを、あなたに知られてしまうのが怖かった。父の葬儀の間中、母にしがみついて泣きながら、私はただただ怯えていた。
父を失ってから初めてこの町に帰ったとき、私は息を潜めて毎日を過ごしていた。あなたに出会ってしまわないように。
なのにあの雨の日に、私はあなたを見つけてしまった。あなたはあの頃と変わらない笑顔でそこにいた。どうしても…どうしても会って話をしてみたかった。
だから、私はある賭けをした。
あの日と全く同じように、あなたにアイスを差し出したとき、あなたが私を思い出すかどうか。
あなたが私を思い出したのなら、素直にすべてを打ちあけよう。でも、もしもあなたが私を覚えていなかったなら、その時はもう一度初めから、すべてをやり直すことはできないだろうか。短くたって構わない。ただ、二人で笑って過ごす日常を。
すべてを欲しがり過ぎたのだ。何もかも失いたくなくて、何もかもを求めた結果、私はここでこうしている。走馬灯のようなこの光景も、そんな私へ神様か何かが与えた罰のように思えた。
景色が徐々に色褪せていく。音もどんどん小さくなって、また、元の真っ暗闇になってしまった。贖罪の時間も終わりが近づいたということだろうか。そうだ。きっと、私はこのまま消えてしまうのだ。
私はすべてを受け入れて、素直にそっと目を閉じた。
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