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第三章 謀略編
第49話 騒乱の間奏曲
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ミレーヌは執務室でパトリスからミカラス地方の事変の報告を受けた。
「パトリス、わかったわ。至急、幹部を会議室に集めなさい」
「承知しました」
肩を落としながらパトリスは退室した。一刻後、レベッカ、ジャックなど主だった家臣たちが会議室に集まった。
ミカラス地方で発生した騒乱を説明するパトリス。彼の声は焦りで上ずり、報告書を握る手は震えていた。そんなパトリスの報告を聞きながら、ミレーヌは静かに笑みを浮かべていた。その冷たい微笑みに、慣れているはずのレベッカすら息をのんだ。
「では、ジャック。すぐに鎮圧しなさい。関わった者は、その場で殺しても構わないわ」
その言葉は、まるで長らく待ち望んでいた瞬間が訪れたかのような響きを持っていた。ジャックは同意を言葉でなく頷きで返す。するとパトリスが必死の形相で主人に訴えかけた。
「ミレーヌ様、お待ちください。数名の部下が拘束されているかもしれません。もう一度私に説得する機会をお与えください」
パトリスは、部下たちの命を助けたいとの思いから、彼の信条である穏便な解決を求める。
「パトリス様、失礼ですが、騒乱がここまで大きくなった今、その機会は逸したかと思われます。ミレーヌ様に明確な反意をもった者はすぐに処罰すべきかと」
レベッカの冷静な言葉は、パトリスの希望を打ち砕いた。
「パトリス、レベッカの言うとおりよ。事前に反乱も察知できず捕まるような者は不要よ」
ミレーヌにもそう言われ、パトリスは絶望的な気持ちで口を閉じた。彼の意見は、公爵令嬢が着た冷徹な合理性という鎧を傷つけることすらできない
「他に意見はあるかしら? 無ければ解散。ジャック、レベッカ、それとラウールは後で私の部屋に来て。あとリナとゲオルクも呼んで」
◇◆◇◆
一刻後にミレーヌの執務室に呼ばれた幹部が集まった。
「前々から貴方たちには話していたけど、ワトー侯爵がようやく動いてくれたわ。この機に叩き潰す。異存は無いわね?」
集まった者は沈黙を持って了承した。
「それで、侯爵の扇動の証拠は掴めたの?」
「もちろん。アタシから見れば証拠をそこら中に落としているみたいで簡単だったよ。それに、一人、一昨日捕まえたし」
リナが鼻をこすりながら答えた。ラウールがリナが集めた情報と独自の情報網を活用して収拾した情報をすり合わせた報告書をミレーヌに手渡す。それを一瞥した銀髪の公爵家当主は、ジャックに問いかけた。
「それでジャック、派兵の規模は、どの程度考えてるの?」
「騎士団のうち第一部隊、第二部隊の騎士六百名と従者は動員をかけると時間がかかるため、すぐに動かせる五分の一程度の千二百名、合計千八百名。私が指揮します」
「第三部隊は?」
「領都の守りもあるので残します」
「全部連れてきなさい。兵の逐次投入は愚者が行うこと。即座に動員できる兵士は?」
「騎士九百名、従者千八百名の合計二千七百名程度です」
「では、それを率いて鎮圧しなさい」
「過剰戦力となりワトー侯爵が警戒するかもしれませんが」
カリクステが自分の策略がばれた場合に、誘いに乗らない可能性があると感じ、ジャックは、主君に尋ねた。
「こちらが攻め入る可能性は相手も想定してるはずよ。この前、訓練と称してワトー侯爵は兵の動員かけた報告してくれたじゃない。相手の想定よりも上回る戦力を持って急襲し、叩き潰しなさい」
「しかしながら、全軍動かすとなると、領都の守りは大丈夫でしょうか?」
ジャックは、指揮官として最も重要なことの一つは、主君と主君がいる領都の安全を守ることだと考えていた。
「気にすんな、俺がいるから大丈夫だよ」
ゲオルクは、ジャックの懸念を一蹴するかのように豪胆に言い放った。彼は、銀髪の少女が意外と用兵を分かっていることを知って内心驚きがあったが、それをおくびにも出さなかった。
「しかし、貴様の兵はわずか五十名。万一の事態に対応できるのか?」
ジャックはゲオルクの指揮をまじかで見たことがないため、彼に懸念を伝えた。
「俺たちを誰だと思ってるんだよ。ヴィスタ帝国すら一目置く傭兵団だぜ。それに二か月前から集めて訓練している自由兵もいるから大丈夫だよ」
ミレーヌは、徴税免除を餌に集めた平民百五十名余を自由兵として組織し、ゲオルクに訓練を任せていた。
「では、新型銃を貴様に残すか」
「いや、手持ちの銃で構わん。お前さんが新型銃を持ってけよ。それに油断すると足元すくわれるぜ」
彼の勘は、ジャックが相対する敵は、相手は容易ならざる相手であると告げていた。
「ゲオルクの言うとおりよ。ジャック。鎮圧出来たら予定どおり伝書鳩で連絡し、こちらは、侯爵家に詰問の使者を送ることを公表するわ。貴方は表向きは使者として、侯爵領に出向き、歯向かう相手を叩き潰しなさい」
「承知しました」
こうしてミカラス地方の事変の派兵は決定した。策を弄した者は、自分こそが相手に勝っていると考えていた。
「パトリス、わかったわ。至急、幹部を会議室に集めなさい」
「承知しました」
肩を落としながらパトリスは退室した。一刻後、レベッカ、ジャックなど主だった家臣たちが会議室に集まった。
ミカラス地方で発生した騒乱を説明するパトリス。彼の声は焦りで上ずり、報告書を握る手は震えていた。そんなパトリスの報告を聞きながら、ミレーヌは静かに笑みを浮かべていた。その冷たい微笑みに、慣れているはずのレベッカすら息をのんだ。
「では、ジャック。すぐに鎮圧しなさい。関わった者は、その場で殺しても構わないわ」
その言葉は、まるで長らく待ち望んでいた瞬間が訪れたかのような響きを持っていた。ジャックは同意を言葉でなく頷きで返す。するとパトリスが必死の形相で主人に訴えかけた。
「ミレーヌ様、お待ちください。数名の部下が拘束されているかもしれません。もう一度私に説得する機会をお与えください」
パトリスは、部下たちの命を助けたいとの思いから、彼の信条である穏便な解決を求める。
「パトリス様、失礼ですが、騒乱がここまで大きくなった今、その機会は逸したかと思われます。ミレーヌ様に明確な反意をもった者はすぐに処罰すべきかと」
レベッカの冷静な言葉は、パトリスの希望を打ち砕いた。
「パトリス、レベッカの言うとおりよ。事前に反乱も察知できず捕まるような者は不要よ」
ミレーヌにもそう言われ、パトリスは絶望的な気持ちで口を閉じた。彼の意見は、公爵令嬢が着た冷徹な合理性という鎧を傷つけることすらできない
「他に意見はあるかしら? 無ければ解散。ジャック、レベッカ、それとラウールは後で私の部屋に来て。あとリナとゲオルクも呼んで」
◇◆◇◆
一刻後にミレーヌの執務室に呼ばれた幹部が集まった。
「前々から貴方たちには話していたけど、ワトー侯爵がようやく動いてくれたわ。この機に叩き潰す。異存は無いわね?」
集まった者は沈黙を持って了承した。
「それで、侯爵の扇動の証拠は掴めたの?」
「もちろん。アタシから見れば証拠をそこら中に落としているみたいで簡単だったよ。それに、一人、一昨日捕まえたし」
リナが鼻をこすりながら答えた。ラウールがリナが集めた情報と独自の情報網を活用して収拾した情報をすり合わせた報告書をミレーヌに手渡す。それを一瞥した銀髪の公爵家当主は、ジャックに問いかけた。
「それでジャック、派兵の規模は、どの程度考えてるの?」
「騎士団のうち第一部隊、第二部隊の騎士六百名と従者は動員をかけると時間がかかるため、すぐに動かせる五分の一程度の千二百名、合計千八百名。私が指揮します」
「第三部隊は?」
「領都の守りもあるので残します」
「全部連れてきなさい。兵の逐次投入は愚者が行うこと。即座に動員できる兵士は?」
「騎士九百名、従者千八百名の合計二千七百名程度です」
「では、それを率いて鎮圧しなさい」
「過剰戦力となりワトー侯爵が警戒するかもしれませんが」
カリクステが自分の策略がばれた場合に、誘いに乗らない可能性があると感じ、ジャックは、主君に尋ねた。
「こちらが攻め入る可能性は相手も想定してるはずよ。この前、訓練と称してワトー侯爵は兵の動員かけた報告してくれたじゃない。相手の想定よりも上回る戦力を持って急襲し、叩き潰しなさい」
「しかしながら、全軍動かすとなると、領都の守りは大丈夫でしょうか?」
ジャックは、指揮官として最も重要なことの一つは、主君と主君がいる領都の安全を守ることだと考えていた。
「気にすんな、俺がいるから大丈夫だよ」
ゲオルクは、ジャックの懸念を一蹴するかのように豪胆に言い放った。彼は、銀髪の少女が意外と用兵を分かっていることを知って内心驚きがあったが、それをおくびにも出さなかった。
「しかし、貴様の兵はわずか五十名。万一の事態に対応できるのか?」
ジャックはゲオルクの指揮をまじかで見たことがないため、彼に懸念を伝えた。
「俺たちを誰だと思ってるんだよ。ヴィスタ帝国すら一目置く傭兵団だぜ。それに二か月前から集めて訓練している自由兵もいるから大丈夫だよ」
ミレーヌは、徴税免除を餌に集めた平民百五十名余を自由兵として組織し、ゲオルクに訓練を任せていた。
「では、新型銃を貴様に残すか」
「いや、手持ちの銃で構わん。お前さんが新型銃を持ってけよ。それに油断すると足元すくわれるぜ」
彼の勘は、ジャックが相対する敵は、相手は容易ならざる相手であると告げていた。
「ゲオルクの言うとおりよ。ジャック。鎮圧出来たら予定どおり伝書鳩で連絡し、こちらは、侯爵家に詰問の使者を送ることを公表するわ。貴方は表向きは使者として、侯爵領に出向き、歯向かう相手を叩き潰しなさい」
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