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第五章 崩壊編
第80話 領都の清掃
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ミレーヌが幹部と会議した日から二週間後の朝。グラッセ公爵領都は、出陣の喧騒に包まれていた。ミレーヌとジャックがそれぞれ四千名の兵士を率いて出発する日だ。
領都の門前には、留守を預かるシリル公爵や筆頭書記官レベッカなどの文官、そしてゲオルクたちが、隊列を見送るために集まっていた。
ミレーヌが領都の門を出る直前、シリル公爵は姉の軍服に縋りつくようにして抱きついた。
「お姉さま、行かないで。怖いよ」
ミレーヌは、弟の背中を静かに叩いた。その温かさに一瞬だけ感情が揺らぎそうになるが、すぐに理性の蓋を閉める。
「心配いらないわ、シリル。すぐに帰ってくる。留守の間、領都を守っていてね」
彼女は、その幼い体を静かに引き剥がすと、一瞥もせずに馬に乗り、軍の先頭に立った
ミレーヌ率いる将兵は、要塞都市ガレルッオへ、ジャック率いる将兵は、城塞都市ロサークへ向かう。そして、既に城に詰めている五百名の兵と合流し、王軍を迎撃する予定であった。
◇◆◇◆
ミレーヌたちが出発してから、四日後、ゲオルクが傭兵団や自由兵千名を率いて出発する日となった。
数か月前からゲオルクは、昔からの馴染みである傭兵団に声を掛けていた。その結果、ルカ・アルロー率いるアルロー傭兵団三十五名と、ニコロ・ゴンティエ率いるゴンティエ傭兵団二十三名が配下に加わり、傭兵団は総勢百十名あまりとなっていた。
両傭兵団ともに、銃よりも接近戦に優れた集団であり、帝国の内乱時にもゲオルクの指揮のもと、少数ながら多大な戦果を挙げたことで知られる。
城門で、領都の留守を守るレベッカと駐留する千名の兵士を指揮する第三部隊隊長のゴーチエ・ブリュショルリーなど第三部隊の幹部の騎士たちが見送りに来た。
「ゲオルク殿。お嬢様のことをお頼みします」
「任せとけと言いたいところだが、俺も他にやらないといけないことが多くてな。人使い荒いんだよ」
「それだけ高い給料を渡していますから」
レベッカの言葉にゲオルクが苦笑したのち、答えた。
「まあ、フィデールとニナが付いてるから、万一の事態が生じても逃げ出すことはできるだろうが」
それを聞いたレベッカは、笑みを浮かべた。実は、レベッカはジャックと内密に相談し、フィデールとニナに、要塞都市ガレルッオの陥落などミレーヌに危険が及んだ場合は、ミレーヌを連れて逃げ出すように指示してあった。
レベッカの笑みを見たゲオルクは自分の予想どおり手配していることを確信した。そしてレベッカにいつものように気軽に言った。
「じぁあな」
ゲオルクは一歩踏み出した後に振り返って、レベッカに呟いた。
「レベッカ、忘れてた」
「何をですか?」
「掃除するのをね」
と言うと同時に、剣を抜き、ゴーチエ第三部隊隊長の胸元を刺した。「ぐぅぁ」とうめき声をあげたゴーチエの口から血が滴り落ちる。
その姿を見た数名の騎士が抜刀すると、第三部隊副隊長のクロヴィスが手を挙げる。彼の部下たちは剣を抜き、その抜刀した騎士を取り囲んだ。
「な……なぜ?」
ゴーチエが声を振り絞る。
「密告制度って便利なもんさ。アンタがセリアの誘いに乗ったということは先刻承知だ。俺が離れた後に、領都を占領する計画は全部筒抜けだったんだよ。ご苦労様」
そう言って、ゲオルクは剣を抜き、ゴーチエを袈裟切りにし、絶命させた。ゴーチエの計画に賛同した騎士たちもクロヴィスが指揮した騎士たちによって切り捨てられた。それらをまったく動じることなく見届けたレベッカは、クロヴィスに声を掛ける。
「クロヴィス、ご苦労でした。お嬢様から、内諾を得てますので、今から第三部隊の隊長に任命します。密告の褒賞も後ほど授けます」
「ありがとうございます」
クロヴィスは跪いてレベッカに礼をした。それを見たゲオルクはつぶやいた。
「似てきたな」
その声を聞いたレベッカが怪訝そうな顔をしてゲオルクに問いかけた。
「何がですか?」
「いや、お前さん、お嬢ちゃんに似てきたよ」
「そうでしょうか? ずっと、間近で仕えていたからかもしれませんけど」
レベッカが若干警戒するような顔つきになったので、ゲオルクは、続けて言おうとした言葉を飲み込み、再び「じゃあな」と言って出発した。
ゲオルクはレベッカの瞳がミレーヌのアイスブルーの瞳とそっくりだったことが気になった。その瞳の色はもちろんミレーヌのものとは異なる。しかし、銀髪の女性と同様に、自分の心の奥底まですべてを見通す瞳であった。
領都の門前には、留守を預かるシリル公爵や筆頭書記官レベッカなどの文官、そしてゲオルクたちが、隊列を見送るために集まっていた。
ミレーヌが領都の門を出る直前、シリル公爵は姉の軍服に縋りつくようにして抱きついた。
「お姉さま、行かないで。怖いよ」
ミレーヌは、弟の背中を静かに叩いた。その温かさに一瞬だけ感情が揺らぎそうになるが、すぐに理性の蓋を閉める。
「心配いらないわ、シリル。すぐに帰ってくる。留守の間、領都を守っていてね」
彼女は、その幼い体を静かに引き剥がすと、一瞥もせずに馬に乗り、軍の先頭に立った
ミレーヌ率いる将兵は、要塞都市ガレルッオへ、ジャック率いる将兵は、城塞都市ロサークへ向かう。そして、既に城に詰めている五百名の兵と合流し、王軍を迎撃する予定であった。
◇◆◇◆
ミレーヌたちが出発してから、四日後、ゲオルクが傭兵団や自由兵千名を率いて出発する日となった。
数か月前からゲオルクは、昔からの馴染みである傭兵団に声を掛けていた。その結果、ルカ・アルロー率いるアルロー傭兵団三十五名と、ニコロ・ゴンティエ率いるゴンティエ傭兵団二十三名が配下に加わり、傭兵団は総勢百十名あまりとなっていた。
両傭兵団ともに、銃よりも接近戦に優れた集団であり、帝国の内乱時にもゲオルクの指揮のもと、少数ながら多大な戦果を挙げたことで知られる。
城門で、領都の留守を守るレベッカと駐留する千名の兵士を指揮する第三部隊隊長のゴーチエ・ブリュショルリーなど第三部隊の幹部の騎士たちが見送りに来た。
「ゲオルク殿。お嬢様のことをお頼みします」
「任せとけと言いたいところだが、俺も他にやらないといけないことが多くてな。人使い荒いんだよ」
「それだけ高い給料を渡していますから」
レベッカの言葉にゲオルクが苦笑したのち、答えた。
「まあ、フィデールとニナが付いてるから、万一の事態が生じても逃げ出すことはできるだろうが」
それを聞いたレベッカは、笑みを浮かべた。実は、レベッカはジャックと内密に相談し、フィデールとニナに、要塞都市ガレルッオの陥落などミレーヌに危険が及んだ場合は、ミレーヌを連れて逃げ出すように指示してあった。
レベッカの笑みを見たゲオルクは自分の予想どおり手配していることを確信した。そしてレベッカにいつものように気軽に言った。
「じぁあな」
ゲオルクは一歩踏み出した後に振り返って、レベッカに呟いた。
「レベッカ、忘れてた」
「何をですか?」
「掃除するのをね」
と言うと同時に、剣を抜き、ゴーチエ第三部隊隊長の胸元を刺した。「ぐぅぁ」とうめき声をあげたゴーチエの口から血が滴り落ちる。
その姿を見た数名の騎士が抜刀すると、第三部隊副隊長のクロヴィスが手を挙げる。彼の部下たちは剣を抜き、その抜刀した騎士を取り囲んだ。
「な……なぜ?」
ゴーチエが声を振り絞る。
「密告制度って便利なもんさ。アンタがセリアの誘いに乗ったということは先刻承知だ。俺が離れた後に、領都を占領する計画は全部筒抜けだったんだよ。ご苦労様」
そう言って、ゲオルクは剣を抜き、ゴーチエを袈裟切りにし、絶命させた。ゴーチエの計画に賛同した騎士たちもクロヴィスが指揮した騎士たちによって切り捨てられた。それらをまったく動じることなく見届けたレベッカは、クロヴィスに声を掛ける。
「クロヴィス、ご苦労でした。お嬢様から、内諾を得てますので、今から第三部隊の隊長に任命します。密告の褒賞も後ほど授けます」
「ありがとうございます」
クロヴィスは跪いてレベッカに礼をした。それを見たゲオルクはつぶやいた。
「似てきたな」
その声を聞いたレベッカが怪訝そうな顔をしてゲオルクに問いかけた。
「何がですか?」
「いや、お前さん、お嬢ちゃんに似てきたよ」
「そうでしょうか? ずっと、間近で仕えていたからかもしれませんけど」
レベッカが若干警戒するような顔つきになったので、ゲオルクは、続けて言おうとした言葉を飲み込み、再び「じゃあな」と言って出発した。
ゲオルクはレベッカの瞳がミレーヌのアイスブルーの瞳とそっくりだったことが気になった。その瞳の色はもちろんミレーヌのものとは異なる。しかし、銀髪の女性と同様に、自分の心の奥底まですべてを見通す瞳であった。
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