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第五章 崩壊編
第81話 出陣式
討伐令が発令されてから八週間後。王都の城門外に広がる練兵場には、グラッセ公爵家討伐のため、総勢二万三千人の兵士と従者が整列していた。その内訳は、王直属の騎士と従者一万五千人、そして貴族の兵八千人である。
これは、摂政である王太子エドワードの臨席のもと、東方面軍の後詰となる本軍が出発する前の、出陣式を執り行うためだった。
練兵場の指揮壇上に王太子が立った瞬間、怪訝そうな顔をした。彼の目には、集まった貴族の数は多いものの、率いる兵の数が極端に少なく見えた。
(貴族たちの兵は、王直属の軍と同程度と聞いていたが、半分程度ではないか)
そう思った彼は、後ろに控えるドガ将軍に問いただした。
「将軍よ。なぜ兵が少ないのだ?」
「直属の兵一万五千はすべて揃っておりますが」
「違う、貴族達の兵だ。直属の兵と同程度の動員を期待していたが、実際は半分程度しかいないぞ。本軍は三万ではなかったのか?」
「どうやら、貴族たちは兵の出し渋りをしたようでして」
「ブローリのせいか?」
編成会議時に、ブローリ公爵が北方守備のため動員できる全軍では参戦できない旨を言い放ったことを思い出したエドワードは、思わず公爵の名を出した。
「殿下、めったなことをおっしゃいますな」
ブローリ公爵が貴族たちに厭戦気分を示唆したと解釈されかねない王太子の発言は、あまりにも拙速だった。この発言が広まれば、貴族たちの間で王家への不信感が決定的になると即座に悟ったドガ将軍は諫言したが、王太子の怒りは増すばかりであった。
「なぜだ! 余はカッツー王国の王太子であり、摂政であるぞ。余の命令になぜみな逆らうのだ!」
「逆らってはおりません。ただ、貴族たちにも都合というものがありまして」
「王命に逆らう理由になるか!」
指揮壇上の王太子は、ドガ将軍を怒鳴りつけ、声を荒げた。その感情的な姿は、二万三千もの将兵の目の前で晒された。皆が沈黙する中、ロバン・タレーラン侯爵がエドワードの前で跪き、沈黙を破って進言した。
「摂政殿下、ご心配あそばされるな。我がロバンは、動員できる兵三千全てをもって参陣いたしました。我が兵は精鋭ぞろい。必ずやミレーヌの首を上げてみませす」
タレーラン侯爵は、先代から侯爵になったばかりで国王派貴族の中では立場が低い。そして、甘い言葉ばかり言う王太子のお気に入りの貴族として有名であった。
「おお、ロバン! 卿だけが頼りだ!」
「万事お任せください」
タレーラン侯爵のご機嫌取りに全く気が付かない王太子を苦々しく見ていた家令のジブリル。すると、エドワードが振り返って彼に言い放った。
「北と東の方面軍の兵がどの程度集まったのか後で報告せよ」
「承知しました」
各方面軍は、侵攻ポイントの手前で集結して攻め入る手はずとなっており、王都に立ち寄る必要はない。ジブリルは、貴族たちが兵を出し渋っていることは想定の範囲内であったが、それを王太子に報告した際、どのように怒りを鎮めるか、悩みの種は尽きなかった。
その後、王太子は集まった兵士たちに向けて、この戦いの意義について演説を始めた。彼は、自らの正義は絶対であり、演説によって将兵が感激し、戦意が盛んになるのが当然だと信じ込んでいた。指揮壇上で繰り広げられた醜悪な茶番劇が、兵たちの士気にどう影響したのかなど、まったく気にすることなく。
これは、摂政である王太子エドワードの臨席のもと、東方面軍の後詰となる本軍が出発する前の、出陣式を執り行うためだった。
練兵場の指揮壇上に王太子が立った瞬間、怪訝そうな顔をした。彼の目には、集まった貴族の数は多いものの、率いる兵の数が極端に少なく見えた。
(貴族たちの兵は、王直属の軍と同程度と聞いていたが、半分程度ではないか)
そう思った彼は、後ろに控えるドガ将軍に問いただした。
「将軍よ。なぜ兵が少ないのだ?」
「直属の兵一万五千はすべて揃っておりますが」
「違う、貴族達の兵だ。直属の兵と同程度の動員を期待していたが、実際は半分程度しかいないぞ。本軍は三万ではなかったのか?」
「どうやら、貴族たちは兵の出し渋りをしたようでして」
「ブローリのせいか?」
編成会議時に、ブローリ公爵が北方守備のため動員できる全軍では参戦できない旨を言い放ったことを思い出したエドワードは、思わず公爵の名を出した。
「殿下、めったなことをおっしゃいますな」
ブローリ公爵が貴族たちに厭戦気分を示唆したと解釈されかねない王太子の発言は、あまりにも拙速だった。この発言が広まれば、貴族たちの間で王家への不信感が決定的になると即座に悟ったドガ将軍は諫言したが、王太子の怒りは増すばかりであった。
「なぜだ! 余はカッツー王国の王太子であり、摂政であるぞ。余の命令になぜみな逆らうのだ!」
「逆らってはおりません。ただ、貴族たちにも都合というものがありまして」
「王命に逆らう理由になるか!」
指揮壇上の王太子は、ドガ将軍を怒鳴りつけ、声を荒げた。その感情的な姿は、二万三千もの将兵の目の前で晒された。皆が沈黙する中、ロバン・タレーラン侯爵がエドワードの前で跪き、沈黙を破って進言した。
「摂政殿下、ご心配あそばされるな。我がロバンは、動員できる兵三千全てをもって参陣いたしました。我が兵は精鋭ぞろい。必ずやミレーヌの首を上げてみませす」
タレーラン侯爵は、先代から侯爵になったばかりで国王派貴族の中では立場が低い。そして、甘い言葉ばかり言う王太子のお気に入りの貴族として有名であった。
「おお、ロバン! 卿だけが頼りだ!」
「万事お任せください」
タレーラン侯爵のご機嫌取りに全く気が付かない王太子を苦々しく見ていた家令のジブリル。すると、エドワードが振り返って彼に言い放った。
「北と東の方面軍の兵がどの程度集まったのか後で報告せよ」
「承知しました」
各方面軍は、侵攻ポイントの手前で集結して攻め入る手はずとなっており、王都に立ち寄る必要はない。ジブリルは、貴族たちが兵を出し渋っていることは想定の範囲内であったが、それを王太子に報告した際、どのように怒りを鎮めるか、悩みの種は尽きなかった。
その後、王太子は集まった兵士たちに向けて、この戦いの意義について演説を始めた。彼は、自らの正義は絶対であり、演説によって将兵が感激し、戦意が盛んになるのが当然だと信じ込んでいた。指揮壇上で繰り広げられた醜悪な茶番劇が、兵たちの士気にどう影響したのかなど、まったく気にすることなく。
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