【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

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5.触れ合うことでわかる人の温み

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 室内の半分を占める半円の長机と繋がったベンチイスが据え付けられた解放感のある講義室からは、黒板を叩く音と陽気な男の声が響いていた。

「次は魔法の属性についてだよ!
 魔法には属性ってのがあるのは、もう話したけどね、火、水、地、風、雷の五属性の内、一つ使えて一人前、二つ使えたら、もう天才だよね!
 昔の勇者パーティーに居た魔導士は、なんと!!五属性全部使えたって話しだよ。すごいよね!」

 月見牡丹つきみ ぼたんが手を挙げる。

「ボタン君どうしたんだい?」

「私の職業も魔導士なんですが、五つの属性すべてを私も使えるということですか」

 牡丹の質問に方眼鏡をクイッと上げるルーカス。

「良い質問だよ!ボタン君。その答えはね、使えるけど、今は使えないっていうことになるね」

 ルーカスの鋭い眼光が牡丹を捉えた。

 牡丹はその目の意味が分からないほど、子どもじゃなかった。

「そうですか、わかりました」

 牡丹はいつものクールな顔で席に座るので、誰も不審に思うことはなかった。


 サマリが胸を弾ませながら木の指示棒をビシッと生徒たちに向ける。

「はーい。ここからは男の子も、特に女の子はしっかり聞くんだよ~」
 のほほんとした顔から真剣な顔に変わるサマリ。

「みんなはね。これから絶対、魔法を使って戦うことになるの。どんな魔法でも威力が大切でね、弱い魔法使いだと大切な人も自分も、守れなくなるのはわかるよね」

 サマリの真剣な顔つきに背筋を改める生徒たち。

「私は大魔導士なんて呼ばれてるけど、魔法使いに女性が多いのは、城の人たちを見ているとわかるよね。
 そう、女性の方が魔法の威力が高いんだよ。それでね、……その力は純潔を失うと無くなるんだよ。性行為をすると自分以外の魔力が取り込まれて弱くなっちゃうんだ。
 だからね、みんなは大切は人を守るために、……自分を大切にしてね」

 思い出したように涙を流すサマリ。ルーカスがそっと肩を抱いて落ち着かせる。

 それを見た生徒たちはの心には、サマリの話しがくさびのように焼きついた。



 訓練が終わって、クラスメイト共が帰って行くのを尻目に女騎士エルザの行く先を目で追う。

「おい、河原。エルザっていい女だよなァ」

「ええ!そう思うっす!」
 河原はいつもの調子で頷く。

「エルザの気を引いて来い」

「うっす!」

 河原はいつもやっているように、エルザを人気のない場所までおびき出した。


「それで、私に何の用だ?」

 エルザは河原に、どうしてもお願いがあるとせがまれてついてきた。

「うっす。その……、エルザさんの剣を見せて欲しいっす!」

「なんだ、そんなことか。我が家に代々伝わる忠誠のつるぎだ」
 河原に剣を見せるために渡した……、その時。

 河原は剣を投げ捨てて目線を誘導する。その隙にエルザの背後を取った京極が羽交い絞めにする。

「なにをする!!離せ!」

 エルザは激しく抵抗するも京極の力の前には微動だにできない。

「やれ!」

「うっす」

 河原はいつもの如くエルザを殴る。殴る。殴る。

 ……ぐったりとしたエルザの鎧を外す河原。

「京極さん!こいつヤベーっすよ!!爆乳っすよ!うひょー!!」

 興奮しながらも、動こうとするエルザの腹に肘を打ちつける。それをニタニタと下卑た笑みで京極は見下ろしていた。



 京極の後を付けると案の定、レイプしようとしていた。

 前世でも京極は数々の女性を襲い、その度に政治家の親が示談で揉み消してきた。

 うちの高校の生徒であれば誰でも知っていることだった。

 どうせやると思っていたよ。

 俺は鈍らの剣を京極の後頭部目掛けて振り下ろす。
 ゴッと鈍い音がして京極は気絶して倒れ込む。

 いきなり倒れた京極を見て河原がエルザの胸から手を放す。

「京極さん!どうしたんすか!」

 河原は京極のおこぼれで散々いい思いをしてきたのだろう。背後を取り、こいつも黙らせる。


「おい、大丈夫か」

 女騎士のエルザとかいったか。意識はあるが自力では動けなさそうだ。どこか安全な場所に運んでやりたいが今、他の誰かに見つかるには早すぎる。

 仕方なく俺の使っている使用人室に運ぶことにする。窓から入れば誰にも見られず運べるはずだ。


 上手く運びこめたので、とりあえず寝かせて置けばいいだろうか。
 エルザをベッドに寝かせて俺は城から食べ物を取ってくることにする。



 見たことのない少年に助けられた。

 女騎士として男にも負けないように鍛錬を続けてきたつもりだったが、召喚者というだけで、あんな子どもにいいようにされるとは情けない。

 殴られた痛みでまだ動けないが助けてくれた少年には感謝しなくては……、がしかし今は寝ておこう。


「おーい起きれるか」

 エルザが目を開け、まだ痛むだろう体を起こして俺の顔を見据える。

「先ほどは助かった、エルザ・フォンベルだ。君は見ない顔だが、名前を教えてくれないか」

 エルザの言葉にどうしたものかと考える。ここでクラスメイトたちに存在がバレればどうなるか分からない。

 俺はエルザに今までのことを話し、俺の存在を秘密にして貰い、あわよくば協力を請うことにした。


───────────────────────────────────────────────
 7月4日、日曜日。
 昼過ぎの河川敷ではドラム缶から炎が立ち上がり、その揺らめきが蜃気楼になり、複数の人影をかすめた。

 僕は足を止めて目を凝らす。同級生の番柄君が、京極君に拳を振るが、躱されれて逆に腹を殴られて膝をつく。

 それを取り巻きに羽交い絞めにされて取り抑えられる。

 ドラム缶から生えた、真夏の日差しの下でもわかるほどに、赤く熱された鉄の棒を口にねじ込まれた番柄君が踏みつぶされた虫みたいにもがいていた。

 入学してからまだ半年も立っていないのに、かわいそうにと思う。

 彼は京極君が惚れていた桑木泡姫くわき ありえるに告白されただけで、辛い目に会っているんだ。

 それでも、今彼を助けることで得られる笑顔と、この後のボランティアで得られる笑顔の数を考えれば、ここで足を止めることは番柄君のためにならない。


 聖野光彦せいや みつひこは多くの人を笑顔にしなきゃいけないんだ、ごめんね番柄君。



 私は涙が止まらなかった。両親からの虐待、同門からの暴力の数々。そして最後には自ら命を絶つほどの絶望なんて私には想像もできない。
 ロクロのことを守ってやらねばという強い気持ちが胸に溢れて抱きしめる。

「今まで辛かったな……。私が守ってやるからな」

 エルザに抱きしめられて、人肌の温かさに、もどかしさを覚える。
 母は手をくとこはあっても、繋いでくれることはなかった。父はその大きな手で殴ることはあっても、抱きしめてはくれなかった。人と触れ合うことなんて、それこそ殴られる時ぐらいだ。

 強く、強く抱きしめられると涙が出てくる。エルザが泣いているから貰い泣きしたのだろうか。
 情に厚くなれるほど誰かに好かれたこともなければ好きになったこともないのに。
 苦しみから逃れるために殺した、すべての感情が涙になって溢れてくる。

 涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃになった顔で俺は異世界で初めて人の温もりを知った。



 お互いに泣き止んで、なんだか照れ臭くてはにかみ合う。食卓にしては質素な机を二人で囲む。

 俺が持ってきたパンもスープもすっかり冷たくなってしまったけど、心が暖かくなったので差し引きゼロで美味しかった。

 結局、俺のことは秘密にしてくれることになり、時間の空いた時に訓練をつけて貰えることになった。

 エルザと手を振って別れる。京極と河原は勇者の従者としての役目があるため、容易には逮捕できないそうだ。
 その代わり、兵士が四六時中監視することになるようで、これで解決すると願いたい。


 もう夜も遅いので眠ることにした。
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