【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

文字の大きさ
8 / 49

7.召喚の血

しおりを挟む

 工房の中は暑いのであまり長居はしたくないが、面白そうなことをやっている。剣や鎧に宝石みたいにキラキラと光る石が散りばめられたネックレス。それらをクラスメイトたちが作っていたのだ。

 素直に凄いと思った。俺もなにか作りたいが知識がない。

「違う。これは解魔鉱石だ」
 小さいクセにムキムキな、筋肉の化け物のような男が砂沸に拳骨を食らわしていた。

 砂沸が銀色の解魔鉱石と呼ばれる石を握ると、黄金の光を纏って石が飾りのついた薄っぺらい剣に変わった。あれが錬金術なのか……。

 便利そうだけど、どうやったら使えるんだ?

 俺にできそうなのは女子がやっている魔晶石の加工だろうか。工房の端に山積みになっている紫色の魔晶石と、解魔鉱石のプレートをいくつか懐に忍ばせる。

 紫色の魔晶石には魔力を貯められて、解魔鉱石は魔力を阻害する素材だ。
 これでアクセサリーでも作ってみよう。


 もうお昼も近いので、工房を後にして今日も城の厨房に忍び込む。

「給仕長、ちょっといいですか。」

 若い料理人が話す。

「最近パンの数が少なくなってる気がするんですが、気のせいですかね」

「そうか?気のせいじゃないのか」
 髭を蓄えた料理長が、鍋をかき混ぜながら適当に相槌を打つ。

 俺はまずいと思った。厨房では大量の料理を作っているので、パンの二つや三つなくなったってバレやしないと高をくくっていた。
 城の外に街があるのはわかっているけど、食べ物を買うにしても金がない。今日の夜にでもエルザに相談しよう。



 昼食を食べ終えた休憩時間。

「光彦、桜。作戦会議よ」

 城の中庭にある木陰に座って、私はこれから先の秘密の計画を光彦と桜と話す。

「勇者としての旅が始まれば、今いるアルクレイヘル城から北上して王国の端の街、ランドまで行くことになるわ」

 地図を広げて、道筋を指でなぞる。

 聖野はわかりきった顔で答える。
「牡丹、僕はクラスのみんなを見捨てたりしないよ」

「途中で通るこの森なら、逃げられるわ」
 私は地図を指差す。

「牡丹ちゃん……、桜はみんなと一緒が安全だと思うんだよ」
 桜はタレ眉をさらに下げて、困り顔を作って牡丹を引き留める。

「私たちはただの高校生よ!魔物とか魔王とか知らないわよ。
 戦ったら死ぬかもしれないのに……、そんなの嫌よ!」

 黒く長い髪を振り乱し怒る。

「最初にいったろ。みんなを守るって、僕にはその力があるんだ」
 聖野が私を抱きしめる。

「怪我しても桜が治してあげるから、牡丹ちゃんは昔から頑張り屋さんだもん。……頑張れるよ」
 桜が二人まとめて抱きとめる。


 木陰を覗く影が少し揺れた。



 ……なんで、どうして、桜ちゃんは紳士である僕のものにならないんだ!!
 あのクリンとした目にチャームポイントの困り眉。庇護欲を掻き立てられる145cmの小さな体。身長差51cmのお似合いカップルになれるのにね。

 それに聖母の如き、でっかいおっぱい。Gカップまで大きくなったもんね。
 風に飛ばされたと思ってるブラジャーは、僕の家で大切に保管してるから知ってるよ。

 僕の世界に舞い降りた、僕だけの女神様なのに!!あっあっ、大好きだよ、桜ちゃん……。
 聖野の魔の手から救ってあげるからね。この僕、大馬玉置おおま たまちだけが世界で一番、桜ちゃんを愛しているんだからね。


 三人がいる木陰の後ろからは粘着質な息遣いが漏れていた。



 人気のない城の地下倉庫で初級魔法、電撃を使ってみる。

 「いかずちを纏い、その力を顕現せよ」

 青白い電撃が、もの凄い速さで指先から放たれ、木箱を木っ端微塵に破壊した。
 サンダーとは比べ物にならない強さだ。人間なら死んでるんじゃないか?

 今見た電撃を思い出して、念じる。

 電撃がもう一つの空き箱を破壊する。思念魔法は簡単に使えるので、次は剣に電気を纏わせる応用技だ。

 鎧立てにかかった分厚い鎧に、電撃を纏わせた剣で切りかかる。
 ガリガリと嫌な音とともに、鎧に溶けた剣のあとができた。貫通はしていないけど、いくらなんでも強すぎる。
 魔物を倒すために創られた魔法ということは、魔物は相当強い生き物なんだろうか。会いたくないな。

 倉庫を出て、城の廊下を歩く。
 暗い廊下の突き当り、大きな扉の隙間から青い光が漏れている。なにか、いいものでもあるのかと覗き込む。


「……なんだこれ」

 そこには死体が山のように積み重なっていた。
 床に空いた大きな穴を埋め尽くし、さらにうずたかく積まれた死体の山が燃えている。
 青白い炎は肉を焼いているというより、分解している風に見える。それは皮膚の焼ける、あの忌まわしい臭いがしないから、そう思うのだ。

 血の池に沈む死体は人間だけど人間には見えない、犬や猫のような耳や尻尾が生えた人間だ。どの死体も剣で突き刺した痕があり、滅多刺しにされている。
 それを取り囲んだフードで顔を隠した、ローブ姿の集団が魔法を詠唱していた。

 その集団の中で、一人だけ場違いにドレスを着た女がいる。
 あの時出会った銀髪の女だ。
 目を閉じて、胸の前で祈るように手を組んで微動だにしない。疲れているのか白い顔がさらに白く、青白くなって、今にも倒れてしまいそうだ。

 青白い炎が照らした壁には、びっしりと文字や図形が見えた。おそらく魔法陣だろう。
 【魔法使い初級】に載っていた血を媒介にして発動する魔法だ。

 まさか、と思った。頭の中には嫌な考えがよぎる。
 血を使うのは、術者だけでは補えない魔力を補填する意味合いもあると書かれていたのだ。

 この死体の山は勇者召喚で犠牲になった人たちだ。

 俺は逃げ出した。
 あんなものを見たとバレれば殺されるに違いない。ただでさえ、あの女には俺が見えているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...