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14.目玉焼きとソーセージ
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◇
夜の街道を走り続け、朝焼けに照らされる頃。
早朝特有の澄んだ空気を吸いこんで、俺は街道脇の林の中に馬車を止めた。
「エルザ、ロゼッタ、起きてくれー。朝だぞー」
夜通し走って馬も疲れているし、俺も休みたい。
「む、おはよう。ロクロ」
エルザがむくっと起き上がった。
「むにゃむにゃ、……私、朝起きれないのですわ」
荷台で丸くなって寝ているロゼッタ。
朝ごはんを食べたいので、外に引っ張り出す。
「辞めるのです。日の光に当たると死んでしまうのです……」
草原に寝転がったロゼッタの傍で焚火を起こす。
「焚火ってこんな感じでいいの?」
石を並べながらエルザに聞く。
「ああ。姫に火がつかなければ完璧だ」
「はっ!起きました」
ロゼッタがすごい勢いで起き上がる。
「おはようロゼッタ」
「姫、おはようございます」
「二人とも、おひゃようございます。ふぁーあ……。でも、やっぱり朝はダメです……」
二人に挨拶をして、ロゼッタは再び眠りについた。
俺とエルザは肩をすくめて、朝ごはんを作ることにする。
荷台には城から盗んできた剣や防具を突っ込んだ木箱が並び、そこからフライパンとフライ返しを取り出す。
さらにバスケットから、厨房で頂戴した卵とソーセージとパンを取り出す。
「焼くぐらいしか、できないけどいいかな」
俺の前世の主食はコンビニ弁当かカップラーメンだったので、料理なんてできない。
「焼いて食えぬものはない……」
エルザがしみじみという。
フライパンに油を敷いて焚火の上に置く。卵を三つとソーセージを六本入れると、途端に火が入る。
俺はとっさにフライパンを持ち上げる。
「あっつ!」
フライパンの柄も鉄だった。ミトンもないので、アイアンガントレットの出番だ。手が熱くならない内に、手早く火から離す。
「大丈夫か?」
エルザが心配してくれるが、大丈夫と伝えておこう。
目玉焼きがコゲかけているので、フライ返しで返す。がしかし、黄身が潰れて不格好になってしまった。
ソーセージはうまく焼けたので、両方を皿に移して、ソーセージから出た油でパンをあっためる。
初めての料理にしてはマシな方だろうか。
「ちょっと焦げたけど、許してくれ」
「ロクロは料理が初めてか?」
エルザが目玉焼きを食べて聞いてくる。
「初めてだけど、不味かったかな」
「火が通っていれば、食えぬものなどあまりないのだ」
遠回しに美味しくないといわれている。今度はうまく作ろう。
「いい匂いがしますよー」
いつの間にか、ロゼッタが隣に居た。
「ソーセージがおすすめだよ。うまく焼けたから」
俺は火を通して、少しは柔らかくなったパンを頬張る。
「じゃあ、目玉焼きからいただきますね」
ロゼッタは皮肉家なのか、多少コゲた目玉焼きにフォークを刺した。
「これは……、不味いです」
あまりにも当たり前の反応に、苦笑するしかない。
「だからいったろ、ソーセージがおすすめだって」
フフッとロゼッタは笑う。
「誰かと一緒に食事をするのは、楽しいことですね」
「そういえば、そうだな」
俺は心の底からそう思った。学校でも家でも、いつも一人だった。学校でコンビニ弁当なんて食ってるのは俺しかいなかったせいか、施陀によく弁当を捨てられていたものだ。
「そういえば、私の呪いを二人は知っていて、それでも一緒に居てくれるんですか」
ロゼッタの呪いは魔法使いには致命的だろう。
「俺はそもそも魔法なんてない世界から召喚されたし、魔物と戦わなければ問題ないかな」
「姫、私は騎士ですよ。もともと魔法より剣のほうが得意なのです。
それと、ロクロ。旅の道中で魔物とは必ず戦うことになるぞ」
「えぇ……。戦いは嫌だな」
そうはいっても避けられないなら、覚悟しておこう。
朝ごはんも食べ終わった頃、日が昇って朝がやってきた。
俺は荷台に寝転び、今度はロゼッタが御者をやるみたいだ。
「ウルの街まで寝てるから、着いたら起こしてね」
昨日は、城から出る夜まで寝ていたので少し寝れば睡眠は足りそうだ。
「あっ、着替えはそこの箱に入ってるから。おやすみー」
藁を敷いているだけだから、あまり寝心地はよくない。それでも目を瞑ると、すぐに夢の世界へ旅立つのだった。
◇
寝ているロクロの後ろで着替える。ずっと一人だったせいか、誰かがいるところで着替えるのは、すごく恥ずかしい。
いつも着ている装飾のついた白いドレスを脱いで、細かいフリルと刺繍が施してある黒いロングドレスに着替える。
戦う恰好なのに、魔法使いはみんなおしゃれ好きなのかしら。
ぺったんこのサンダルも、黒い革のブーツに履き替える。後は魔法使いの帽子を被れば、見てくれだけは立派な魔法使いだ。
旅をしていても不自然じゃない格好ということで、私は魔法使いの恰好をしないとダメみたい。この服も、ロクロが城で女物の服がいっぱいあった部屋から持ってきたといっていた。エルザは戦士で、ロクロはなんなんでしょう。胸のプレートアーマーに右手だけガントレットで、冒険者かシーフのつもりなのかしら。
「着替え終わりましたか、姫」
エルザも軍で使っていた白い鎧から、銀色の鎧に着替えていた。
御者台にエルザと座って手綱を握る。
「エルザ、どうやるんですか?教えてください!」
とりあえずブンブンと振ると馬が走り出した。
「姫、あまり乱暴にしては馬が驚いてしまいます」
「そっか。馬さん、ごめんなさい」
「よいのです、姫は非力ですから。
一回振れば歩き出し、二回で走ります。後ろに牽くと止まれです」
「そうなのね。ウルの街まで全速全力~!!」
「姫!あまり振り回してはいけません」
やる気満々のロゼッタをエルザが宥めながら、青空の街道を馬車は走る。
夜の街道を走り続け、朝焼けに照らされる頃。
早朝特有の澄んだ空気を吸いこんで、俺は街道脇の林の中に馬車を止めた。
「エルザ、ロゼッタ、起きてくれー。朝だぞー」
夜通し走って馬も疲れているし、俺も休みたい。
「む、おはよう。ロクロ」
エルザがむくっと起き上がった。
「むにゃむにゃ、……私、朝起きれないのですわ」
荷台で丸くなって寝ているロゼッタ。
朝ごはんを食べたいので、外に引っ張り出す。
「辞めるのです。日の光に当たると死んでしまうのです……」
草原に寝転がったロゼッタの傍で焚火を起こす。
「焚火ってこんな感じでいいの?」
石を並べながらエルザに聞く。
「ああ。姫に火がつかなければ完璧だ」
「はっ!起きました」
ロゼッタがすごい勢いで起き上がる。
「おはようロゼッタ」
「姫、おはようございます」
「二人とも、おひゃようございます。ふぁーあ……。でも、やっぱり朝はダメです……」
二人に挨拶をして、ロゼッタは再び眠りについた。
俺とエルザは肩をすくめて、朝ごはんを作ることにする。
荷台には城から盗んできた剣や防具を突っ込んだ木箱が並び、そこからフライパンとフライ返しを取り出す。
さらにバスケットから、厨房で頂戴した卵とソーセージとパンを取り出す。
「焼くぐらいしか、できないけどいいかな」
俺の前世の主食はコンビニ弁当かカップラーメンだったので、料理なんてできない。
「焼いて食えぬものはない……」
エルザがしみじみという。
フライパンに油を敷いて焚火の上に置く。卵を三つとソーセージを六本入れると、途端に火が入る。
俺はとっさにフライパンを持ち上げる。
「あっつ!」
フライパンの柄も鉄だった。ミトンもないので、アイアンガントレットの出番だ。手が熱くならない内に、手早く火から離す。
「大丈夫か?」
エルザが心配してくれるが、大丈夫と伝えておこう。
目玉焼きがコゲかけているので、フライ返しで返す。がしかし、黄身が潰れて不格好になってしまった。
ソーセージはうまく焼けたので、両方を皿に移して、ソーセージから出た油でパンをあっためる。
初めての料理にしてはマシな方だろうか。
「ちょっと焦げたけど、許してくれ」
「ロクロは料理が初めてか?」
エルザが目玉焼きを食べて聞いてくる。
「初めてだけど、不味かったかな」
「火が通っていれば、食えぬものなどあまりないのだ」
遠回しに美味しくないといわれている。今度はうまく作ろう。
「いい匂いがしますよー」
いつの間にか、ロゼッタが隣に居た。
「ソーセージがおすすめだよ。うまく焼けたから」
俺は火を通して、少しは柔らかくなったパンを頬張る。
「じゃあ、目玉焼きからいただきますね」
ロゼッタは皮肉家なのか、多少コゲた目玉焼きにフォークを刺した。
「これは……、不味いです」
あまりにも当たり前の反応に、苦笑するしかない。
「だからいったろ、ソーセージがおすすめだって」
フフッとロゼッタは笑う。
「誰かと一緒に食事をするのは、楽しいことですね」
「そういえば、そうだな」
俺は心の底からそう思った。学校でも家でも、いつも一人だった。学校でコンビニ弁当なんて食ってるのは俺しかいなかったせいか、施陀によく弁当を捨てられていたものだ。
「そういえば、私の呪いを二人は知っていて、それでも一緒に居てくれるんですか」
ロゼッタの呪いは魔法使いには致命的だろう。
「俺はそもそも魔法なんてない世界から召喚されたし、魔物と戦わなければ問題ないかな」
「姫、私は騎士ですよ。もともと魔法より剣のほうが得意なのです。
それと、ロクロ。旅の道中で魔物とは必ず戦うことになるぞ」
「えぇ……。戦いは嫌だな」
そうはいっても避けられないなら、覚悟しておこう。
朝ごはんも食べ終わった頃、日が昇って朝がやってきた。
俺は荷台に寝転び、今度はロゼッタが御者をやるみたいだ。
「ウルの街まで寝てるから、着いたら起こしてね」
昨日は、城から出る夜まで寝ていたので少し寝れば睡眠は足りそうだ。
「あっ、着替えはそこの箱に入ってるから。おやすみー」
藁を敷いているだけだから、あまり寝心地はよくない。それでも目を瞑ると、すぐに夢の世界へ旅立つのだった。
◇
寝ているロクロの後ろで着替える。ずっと一人だったせいか、誰かがいるところで着替えるのは、すごく恥ずかしい。
いつも着ている装飾のついた白いドレスを脱いで、細かいフリルと刺繍が施してある黒いロングドレスに着替える。
戦う恰好なのに、魔法使いはみんなおしゃれ好きなのかしら。
ぺったんこのサンダルも、黒い革のブーツに履き替える。後は魔法使いの帽子を被れば、見てくれだけは立派な魔法使いだ。
旅をしていても不自然じゃない格好ということで、私は魔法使いの恰好をしないとダメみたい。この服も、ロクロが城で女物の服がいっぱいあった部屋から持ってきたといっていた。エルザは戦士で、ロクロはなんなんでしょう。胸のプレートアーマーに右手だけガントレットで、冒険者かシーフのつもりなのかしら。
「着替え終わりましたか、姫」
エルザも軍で使っていた白い鎧から、銀色の鎧に着替えていた。
御者台にエルザと座って手綱を握る。
「エルザ、どうやるんですか?教えてください!」
とりあえずブンブンと振ると馬が走り出した。
「姫、あまり乱暴にしては馬が驚いてしまいます」
「そっか。馬さん、ごめんなさい」
「よいのです、姫は非力ですから。
一回振れば歩き出し、二回で走ります。後ろに牽くと止まれです」
「そうなのね。ウルの街まで全速全力~!!」
「姫!あまり振り回してはいけません」
やる気満々のロゼッタをエルザが宥めながら、青空の街道を馬車は走る。
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