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29.出国
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◆
「ただいま戻りました」
不機嫌顔のクロノスが、執務机に書類の束を叩きつける。
「軽く見積もっても、備蓄の五分の一が灰になった計算です」
「王よ、急ぎ農地の整備を命じてください」
ブロンが、クレイヘルに勢いよく頼み込む。
「農地もですが、獣人どもから回収するのが最善かと」
「うむ。農地は検討しておく」
いつになく鋭い目をしたクロノスを宥めるように、クレイヘルは思案顔を作る。
「この男と居ると、気分が悪くなるので失礼します」
ブロンに嫌味をいうと、クロノスは足早に執務室から出て行った。
「あいつの男嫌いは治っていないようだな」
クレイヘルが溜息をつく。
「男ではなく、私のことが嫌いなのでしょう。調査の間は同伴していましたから」
◇
「チャタロウとシュネちゃんを散歩させましょう」
ロゼッタの提案でクダリーさんに馬車を預けている間、二頭を走らせられる広場に来ていた。
「行くぞ茶太郎」
鞍に跨って、手綱を一回振ると茶太郎は歩き出した。
初めて乗馬なので散歩から始める。
「シュネちゃん、いきますよ~」
目隠しを外したロゼッタがエルザを後ろに乗せて、シュネールツシルトを走らせる。
「姫、速度を落としましょう。いきなり走らせると落馬します」
「そうですか?」
そう言いつつ、ロゼッタは速度を緩めずシュネールツシルトを走らせる。
「こんにちはー」
ゆったりとした速度で、すれ違う人と挨拶する。
俺のような初心者なのか、馬を歩かせている人も多い。
「ロクロ~~」
声が後ろから前に通り過ぎていった。
ロゼッタは初めての乗馬なのに、扱いが上手いな。
「ちょっと速くいくぞ」
軽く二回手綱を振って、走らせる。左右前後に揺れながらバランスを保つ。
茶太郎はもっと速く走りたそうだけど、俺が慣れるまでは辛抱してもらおう。
「遅いですよ、ロクロ~~」
俺が一周する頃に、またロゼッタが走り抜けていった。
もうそろそろ慣れてきた。俺も走ってみよう。
「茶太郎、ダッシュだ」
なかなか速い。茶太郎のたてがみが風に靡いた。
ロゼッタの背中が見えて来たぞ。
「おーい、ロゼッターー」
ようやくシュネールと並走できた。どうやらロゼッタには乗馬の才能があるみたいだ。
「楽しいですね。ロクロ」
並走するロゼッタがニコリと笑うと、さらにシュネールが加速して疾走していった。
「速すぎるだろ……」
失速した俺は、茶太郎を撫でてやる。まだまだ上達の余地がありそうだ。
茶太郎とシュネールを走らせた翌日。クダリー木工店に馬車を取りに来た。
「いい出来です。ありがとうございます」
クダリーさんに改造してもらった馬車は、以前より断然かっこいい。
御者台の横幅が長くなった分、ずんぐりとなるはずが、彫刻や装飾が付け足されていることで横幅が長くなり上品な感じだ。さすがは木工店だ。
「おう!愛馬に似合うように、ちょちょいと修繕もしといたぜ」
よく見ると傷やガタも直っている。茶太郎もシュネールも、新しい馬車が気に入ったようにブルルといなないた。
「残りの五枚です」
俺は金貨を五枚、手渡す。
「まいど!またいつでも来な」
ドンと背中を叩かれる。すごい筋肉の割には、クダリーさんの手は優しかった。
「じゃあ、行こうか」
一度宿屋に戻って、エルザとロゼッタが御者台下の収納に入る。
「足を畳んで入りましょう」
エルザが体育座りの要領で横になる。
「私は入れるのでしょうか」
エルザが高身長な分、小柄なロゼッタが入ると丁度といった感じで収まった。
「じゃあ閉めるからな」
収納の扉を閉めて、国境の検問所に向かう。
街を出る門には、馬車の列ができていた。
「もうしばらく掛かりそうだけど、大丈夫か」
椅子の下からノックが帰ってきた。傍から見たら、馬に喋りかけている頭のおかしい奴に見えるだろうな。
しばらく待って、ようやく俺たちの番がきた。
「出国の目的は」
門兵に怪しまれないようにしないとな。
「フーリダ王国へ行きます」
他国へ行く人も多いと、エルザに聞いている。なんら不信な点はないはずだ。
「ほお、フーリダ王国か。獣人を匿っていないとも限らない、荷物を改めさせてもらうぞ」
門兵が積み荷をガサガサと漁る。
「積み荷に問題はないようだな」
馬車の下まで確認している門兵。まずいか……。
「よし、通っていいぞ」
門兵が金属バーを開けて、通れるようになった。
よし、作戦成功だ。俺は怪しまれないように馬車を進ませる。
「おい、待て」
門から出かかったところで、後ろから呼び止められる。
バレたか?今なら走って逃げられそうだが、どうする。
「ただいま戻りました」
不機嫌顔のクロノスが、執務机に書類の束を叩きつける。
「軽く見積もっても、備蓄の五分の一が灰になった計算です」
「王よ、急ぎ農地の整備を命じてください」
ブロンが、クレイヘルに勢いよく頼み込む。
「農地もですが、獣人どもから回収するのが最善かと」
「うむ。農地は検討しておく」
いつになく鋭い目をしたクロノスを宥めるように、クレイヘルは思案顔を作る。
「この男と居ると、気分が悪くなるので失礼します」
ブロンに嫌味をいうと、クロノスは足早に執務室から出て行った。
「あいつの男嫌いは治っていないようだな」
クレイヘルが溜息をつく。
「男ではなく、私のことが嫌いなのでしょう。調査の間は同伴していましたから」
◇
「チャタロウとシュネちゃんを散歩させましょう」
ロゼッタの提案でクダリーさんに馬車を預けている間、二頭を走らせられる広場に来ていた。
「行くぞ茶太郎」
鞍に跨って、手綱を一回振ると茶太郎は歩き出した。
初めて乗馬なので散歩から始める。
「シュネちゃん、いきますよ~」
目隠しを外したロゼッタがエルザを後ろに乗せて、シュネールツシルトを走らせる。
「姫、速度を落としましょう。いきなり走らせると落馬します」
「そうですか?」
そう言いつつ、ロゼッタは速度を緩めずシュネールツシルトを走らせる。
「こんにちはー」
ゆったりとした速度で、すれ違う人と挨拶する。
俺のような初心者なのか、馬を歩かせている人も多い。
「ロクロ~~」
声が後ろから前に通り過ぎていった。
ロゼッタは初めての乗馬なのに、扱いが上手いな。
「ちょっと速くいくぞ」
軽く二回手綱を振って、走らせる。左右前後に揺れながらバランスを保つ。
茶太郎はもっと速く走りたそうだけど、俺が慣れるまでは辛抱してもらおう。
「遅いですよ、ロクロ~~」
俺が一周する頃に、またロゼッタが走り抜けていった。
もうそろそろ慣れてきた。俺も走ってみよう。
「茶太郎、ダッシュだ」
なかなか速い。茶太郎のたてがみが風に靡いた。
ロゼッタの背中が見えて来たぞ。
「おーい、ロゼッターー」
ようやくシュネールと並走できた。どうやらロゼッタには乗馬の才能があるみたいだ。
「楽しいですね。ロクロ」
並走するロゼッタがニコリと笑うと、さらにシュネールが加速して疾走していった。
「速すぎるだろ……」
失速した俺は、茶太郎を撫でてやる。まだまだ上達の余地がありそうだ。
茶太郎とシュネールを走らせた翌日。クダリー木工店に馬車を取りに来た。
「いい出来です。ありがとうございます」
クダリーさんに改造してもらった馬車は、以前より断然かっこいい。
御者台の横幅が長くなった分、ずんぐりとなるはずが、彫刻や装飾が付け足されていることで横幅が長くなり上品な感じだ。さすがは木工店だ。
「おう!愛馬に似合うように、ちょちょいと修繕もしといたぜ」
よく見ると傷やガタも直っている。茶太郎もシュネールも、新しい馬車が気に入ったようにブルルといなないた。
「残りの五枚です」
俺は金貨を五枚、手渡す。
「まいど!またいつでも来な」
ドンと背中を叩かれる。すごい筋肉の割には、クダリーさんの手は優しかった。
「じゃあ、行こうか」
一度宿屋に戻って、エルザとロゼッタが御者台下の収納に入る。
「足を畳んで入りましょう」
エルザが体育座りの要領で横になる。
「私は入れるのでしょうか」
エルザが高身長な分、小柄なロゼッタが入ると丁度といった感じで収まった。
「じゃあ閉めるからな」
収納の扉を閉めて、国境の検問所に向かう。
街を出る門には、馬車の列ができていた。
「もうしばらく掛かりそうだけど、大丈夫か」
椅子の下からノックが帰ってきた。傍から見たら、馬に喋りかけている頭のおかしい奴に見えるだろうな。
しばらく待って、ようやく俺たちの番がきた。
「出国の目的は」
門兵に怪しまれないようにしないとな。
「フーリダ王国へ行きます」
他国へ行く人も多いと、エルザに聞いている。なんら不信な点はないはずだ。
「ほお、フーリダ王国か。獣人を匿っていないとも限らない、荷物を改めさせてもらうぞ」
門兵が積み荷をガサガサと漁る。
「積み荷に問題はないようだな」
馬車の下まで確認している門兵。まずいか……。
「よし、通っていいぞ」
門兵が金属バーを開けて、通れるようになった。
よし、作戦成功だ。俺は怪しまれないように馬車を進ませる。
「おい、待て」
門から出かかったところで、後ろから呼び止められる。
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