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あれこれ方法を考えてみたが、結局私には、正面突破しか思い浮かばなかった。
ミカエルさんだって味方とは言い難いし、自分の記憶もあてにならないしで、頼る相手ははじめからセーレしかいないのだ。ならば、面と向かって聞いてみるしかない。


……それでも成功率を上げるため、色仕掛けで挑むことにした。勇気を出して。







人間と悪魔の好みの差はわからない。それでも、何度もセーレに襲われているうち、傾向は掴めてきた……ような気がする。ここに残るか帰るか、私は自分で決めたいのだ。今みたいに、セーレの見えない圧力によって規制され、本当のことも知らないまま魔界で生きて行くのは絶対に嫌だった。


夜遅く、セーレの部屋を訪ねる。灯りが漏れているので、こんな時間なのにまだ起きているのかと少しだけ驚いた。ノックすると、中から返事が聞こえた。


「ミカエルか?」


言いながら出てきたセーレは大人の姿をしていた。私の顔を見て嬉しそうな表情になる。


「ルナ!? どうしたんだ、こんな時間に」
「……あのっ」


真実を知るためならなんでもする、という気持ちで今ここにきたのに、いざセーレを目の前にしたら恥ずかしくて顔が熱くなった。すべて偽りだったなら、逆に演技に徹することができただろう。少しは私の本音も混ざっているから、こんなに恥ずかしいのだと思う。


「一緒に寝たいと思って……来ちゃった。ダメかな」


やっとの思いでそれだけ言い、セーレの様子を伺った。喜ぶかと思ったが予想は外れ、怒ったような表情をしている。
次の瞬間にはお姫様だっこをされていた。セーレの身体が熱い。


「え!? あの、ちょっと」
「どこでそんなお願い覚えて来たんだ?」
「ちが……」
「僕の余裕を失くすようなことして。優しくなんかしてやれないぞ」


ベッドに下ろされそう呟かれたとき、セーレは怒っているのではなく興奮しているのだとやっと気がついた。私の作戦は成功したのだ。唯一の失敗は……


(私もドキドキしちゃってること……だよね……)


こんなはずではなかった。こちら側は冷静に対処する予定だったのだ。それなのに……。


「セーレはどうして……私なんかのこと」
「どうしてって、何?」


熱っぽい目で見つめられる。そうだ、どうして。どうしてセーレは、こんなに美しくて優しくて、かなり変態ではあるけれど、力もあるのに、私なんかを選んだのだろう。


「どうしてなんて、聞くだけ愚問だよ。僕はずっとルナの幸せだけを祈って生きて来たんだから」
「ずっとって……? 私、全部教えてほしいの」


セーレは一瞬だけ逡巡したようだったが、すぐに首を振った。


「……それはできない。ルナに嫌われるのが怖いから」
「私がセーレを嫌うことなんてない」


思わず断言していた。口にした途端、それは実感に変わった。


「セーレのことが好きなんだもん」


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