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1.王子の僕が国を追放された日
しおりを挟む吸血鬼は広間の真ん中に立ち、武器を掲げたまま呆然としている人々の顔を、ぐるりと見回した。
封印されていた吸血鬼というので、もっと怪物じみた姿を想像していたものの、少し離れたところに立つその男は20代後半くらいに見え、美しい顔立ちをしている。色ははっとするほど白く、瞳は血のように赤く、鼻は高く唇は薄くて、口を開いたときに、とがったふたつの牙が見えた。
冷ややかな声で、吸血鬼は告げる。
「王よ。お前の子供を私の嫁に寄越せ。悪いようにはしない。それで許してやろう」
「くっ……」
お父様が苦悶の表情を浮かべる。それはそうだ。吸血鬼の要求を飲むとすれば、お父様は一人娘を失うことになる。たったひとりの姉が化け物の嫁になるというその事実は、弟の僕にとっても絶望だった。言葉の意味が信じられず、その場にいる全員が打ちひしがれているなか、気丈にも、当のお姉様が一歩前へ進み出た。
「お父様、仕方がないことだわ。それがこの国のためになるなら……私、喜んでこの身を差し出します」
「ああ、なんてことだ。ヴィクトリア、お前は……」
お父様が泣き崩れそうになった瞬間、追い討ちをかけるように吸血鬼が口を開いた。
「決まったのか?」
「……ええ、話はまとまったわ」
お父様の代わりにお姉様が答える。お母様とそのほかの家来や兵士たちは、ショックのあまり固まってしまっている。
僕もその例に漏れない。こんなにあれこれと頭で考えを巡らせているのに、身体は鉛のように重く、まったく動かなかった。大声で、最悪の取引を持ちかけた化け物をなじってやりたいのに、そして隙を作ってお姉様を助け出したいのに、あろうことか、口を開くこともできない。
「……よろしい。では私と一緒に来るのだ、ウィリー」
吸血鬼がそう言い、僕のほうを向いた。耳を疑った。えっ……ウィリーって……なんで僕……?
突然の指名に、広間が一瞬ざわついた。どういうことだ?吸血鬼は姉の名前と僕の名前を取り違えているのだろうか?いやでも、怪物の赤い瞳は、間違いなく僕のことを見ている。
さっき嫁って言ったよな!?だったら姉さんで決まりじゃないか!
「いやだ!」
断固拒否するものの、落ちこぼれの僕に拒否権などなかった。
両親はできのいい姉もできの悪い僕も同じように可愛がってくれたけれど、国の今後のことを思うと、どちらを差し出すべきかは一目瞭然だったのだろう。誰も言葉にはしないものの、満場一致で、僕は吸血鬼の嫁という名目で国を追放されることになった。
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