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33.突然の出来事
しおりを挟む「私の可愛いウィリーは何をしているんだ?」
ある夜、僕が書斎の机を借りて手紙を書いていると、開けっぱなしのドアから吸血鬼が顔を覗かせてそう言った。
「もう。その"可愛い"っていうのやめてよ、女の子じゃないんだから」
「じゃあなんと言われたい?」
「うーん。賢いとか、勇敢とか?」
「いくら私がウィリーに甘くても嘘は言えないな」
「嘘って。そんなにはっきり言うことないだろ!」
わざと怒ったふりをしたらノアも笑って、ゆっくり室内に入ってきた。こういう他愛もないやりとりが楽しくて、こんな毎日が永遠に続けばいいと思う。
「手紙を書いてたんだ。僕は元気でやってるって家族に伝えたくて」
「だから羊皮紙を欲しがったんだな。家族を安心させられるならそれが一番いいだろう。定期的にやりとりしてもいいし、書き終わったら裏庭にいる伝書鳩に届けさせよう」
「ありがとう」
文章を書いたのは久しぶりだったので、うーんと伸びをして、僕は椅子から立ち上がった。あとは最後の署名をするだけだ。
そして何の気なしに窓の方を見たとき、ある異変に気がついてしまった。遠くを指さしてノアの方を見た僕の顔には、不安がありありと浮かび上がっていただろう。
「ねえノア。あれ……なんだろう」
「どうした?」
「遠くの方でチラチラ赤いものが揺れているような。火かな?」
僕の言葉を聞いて、ノアが隣に寄り添うように立った。目を細め、僕が指差した方向をじっと見つめる。
「軍隊だ。こちらに向かってきている」
悪い冗談だと思いたかったが、声が硬いので冗談なんかではないとすぐにわかった。でも一体どうして軍隊が?ここが吸血鬼の城と知って、命を狙って来ているのだろうか。
「ノアのことを狙ってるの?」
まだ距離が遠すぎて、僕には赤い光が揺れているようにしか見えない。ノアは視力がとてもいいのでもっと詳細な部分まで見えているのだろう。
「……目的はわからない。が、穏やかではなさそうだな」
「どうして!?でもノア、もし攻めてこられても死んだりしないよね」
「さあ。どうかな」
悲痛な願いを短い言葉で跳ね返されて、僕は絶望した。わかっていたけど、うんと言って欲しかった。吸血鬼は長生きだしなかなか死なないが、まったくの不死ではない。たとえば心臓を貫かれたり、炭になるまで火炙りにされたら確実に死ぬ。
「嫌だよそんなの。あの軍隊はハンターなの?僕たち穏やかに暮らしていただけなのに、狙われる理由がわからない。だいたいノアはここ数百年封印されていたのに……」
そこまで言って僕はハッとした。吸血鬼が復活したことを知っている者。軍隊を動かせる力を持っていて、ノアを殺したいほど憎んでいる者。
それは僕の家族なのではないか。
ノアの静止も聞かず、窓を開けた。身を乗り出して遠くを見つめる。馬に乗っているらしく、赤い光はどんどんこちらに近づいて来ていた。もうだいぶそばまで迫っていて、僕の肉眼でも旗の紋章が見える。
「そんな。どうして」
その場に崩れ落ちそうになった。
恐ろしいことに、僕の勘は当たってしまった。
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