翡翠の森

中嶋 まゆき

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クルルの乙女

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「え……今、何て……」

小さな家だ。
寧ろ響くほどしっかりと聞こえたはずだが、訊き返さずにはいられない。
ジェイダにとっては、予想だにしていないことだった。


「だから、その。ジェイダにお願いしたいんだよ。今回の“乙女”の役を」


汗を何度も拭う町長は、椅子に座ったきり、一度もこちらを見ようとはしない。


「そんな、何で私が“乙女”なんて、いえ、その…」


乙女と言われれば、乙女だ。
そこは認めなくては仕方がない。
だが、この国において、それとこれとは別だ。


「いや。ジェイダなら愛嬌のある顔をしているし、それから、えーと……とにかく。こんなに可愛い乙女なら、太陽神も気に入って下さる」


無茶苦茶である。
それでは他に乙女らしい乙女がいないから、自分が選ばれたようなものだ。
否定できないのもまた、頭にくる。


「私が祈り子に相応しいとは、思えませんけど」


太陽の国・クルル。
遥か昔は、深緑の森に囲まれた美しい国だったらしい。
けれども今では、見る影もなく干上がってしまっている。
世紀に一度の、大干ばつに見舞われていた。

それを毎回救ってきたとされるのが、祈り子――“クルルの乙女”だ。

要するに、雨乞いの儀式を若い女性にやらせる。
それをそれらしい言葉に代えて、美化しているのだ。
一人の女性に背負わせるという行為を、正当化させる為に。


「そ、そんなことはないぞ。ジェイダなら適任だと、会議でも満場一致だった」


100年に一度、あるかないかのことだが、それでも言い伝えとして残っている。

国でも一、二を争う美女だったとか。
透き通るような、美声の持ち主だったり。
華麗な舞が踊れる人だったことも、あるとかないとか。
どう自分を高く見積もっても、そのどれにも当てはまらない。


「頼むよ、ジェイダ。このままでは町どころか、クルルが存続できるかどうか」


確かに、この異常なまでの暑さは国の危機なのだろう。
だが、正直に言ってしまえば、心に浮かぶのは一言だけ。

(どうして、私が)


いや、違う。
本当は分かっているのだ。
なぜ、自分が選ばれたのかを。
祈り子の任務は、過酷なものだ。
町の、国の期待を一身に背負い、祈り続ける。

ある乙女は、荒れた地に跪き、強い日差しを浴び続けた。
またある乙女は、声が枯れるまで歌にのせて祈った。

時代錯誤も甚だしい。
大きな声では言えないけれど、そんなことをして何になると言うのだろう。
上手くいってもいかなくても、後に乙女は倒れてしまう。
その力を、神に捧げたからなどではない。
心身ともに、困ぱいしてしまうからだ。


「…もっと、いい解決法があるはずなのに」


みんな、きっと分かっている。
見て見ぬふりを、しているだけ。
けれど、自分の娘や恋人…大切な人が選ばれるのを、恐れている。
だから、ジェイダは選ばれた。
身寄りがいないからだ。


「……たとえば、どんな?」


冷やかに問われ、答えることができなかった。


「厳しいことだが、これは決定事項だ。ジェイダ」

話は終わりだとばかりに玄関へと向かう町長を、追いかける気力もなかった。
どうせ、町長もその上から命令されたに過ぎないのだ。
彼に喚いても、事実は引っくり返らないのだろう。だとしても――。
ジェイダは俯いたまま、外へ飛び出した。





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