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クルルの乙女
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しおりを挟む「……でもね。アルが言ったのも本当なんだ。急だし、勝手なことだけど、僕らは君に来てもらわないといけない。……最悪、気絶させてでも」
理不尽だ。
ロイを睨むと、すまなそうに視線を返してくる。
悪いとは思っているのだろうが、彼の言うとおり諦める気はないようだった。
男二人が相手では、本当に簡単に攫われてしまうだろう。
「……見せしめにするの」
何度も言うが、二国間の関係は悪化の一途を辿っている。
戦意を削ぐ為に、祈り子を殺そうと言うのか。
「違う。……ジェイダ、どうかトスティータを見くびらないで」
一気に低くなった声が、瞬時に否定した。
明らかに怒っている。
穏やかな口調ではあるが、どこか有無を言わせないのは、彼が王子たる素質をもっているからだろうか。
「……まあ、そう思うのも無理はない。実際我が国では、クルルを良く思わない人間で溢れているからな」
見かねたのか、今度はアルフレッドの方が止めてくれた。
「君も言ったよね。僕がクルルの誰かに見つかったら、何て言われるか分からないって」
そう言われ、頷くほかない。
クルルの国民の多くは、彼らを敵と見なしている。
もし違ったとしても、表立って言おうものならどうなることか。
「それなんだよ、ジェイダ。僕らは、無益な争いを回避したいんだ。大昔のいざこざを、ずっと引きずったって何も生まない。終わらせなくちゃ」
必死に訴えるロイの顔を、ジェイダはただ見つめていた。
ロイの考えは正しい。
このままいがみ合っては、犠牲が出かねない。
関係を改善できるのなら、それに越したことはない。
「……」
けれど、すぐに“分かった、行くわ!! ”とは、どうしても言えなかった。
子供の頃に読んだ冒険小説の主人公なら、すぐさま準備を整えて旅立つのだろうが。
だが、ジェイダは勇者でも男装の王女でもない。
恥ずかしいことかもしれないが、政治に疎いただの娘だ。
「……ここで、祈り子として過ごすの? いつか、この大地が潤うまで」
一体、いつになることか。
ここしばらく、まとまった雨とは無縁の国。
そもそもどう考えたって、そんな力が自分にあるとは思えない。
「……時間がない」
ジリッとアルフレッドが歩み寄り、思わず後ずさった。
「兄さん、待って! 」
アルフレッドを制止しながら、ロイはジェイダに懇願した。
「ジェイダ、頼む。お願いだから、どうか…
「ジェイダ! どこだ!? 」
ロイの声に被さり、太い怒鳴り声が森に響いた。
町長だ。
「祈り子ともあろう者が、よりによって禁断の森に逃げ込むとは」
役目を嫌がって、森に逃げ込んだと思っているようだ。
途中街中を歩いて来たのだから、誰かが見かけて町長に告げ口したのかも。
苛々した声も荒い足音も、どんどん近付いてくる。
「行こう、ジェイダ」
いつの間に準備したのか、側にはアルフレッドが馬を従えている。
目の前では、ロイがもう一度手を差し伸べていた。
「ジェイダ、出て来なさい! 」
「ジェイダ…! 」
再び、ロイと町長の声が重なる。
「……っ……」
アイスブルーの瞳に訴えられ、ほんの少しだけ手を出す。
「……ごめんね」
ジェイダが彼の手に触れる前に、ロイが手を握った。
思ったよりも大きく、温かな手だった。
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