翡翠の森

中嶋 まゆき

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招待

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クルルから、新国王に祝辞が届いた。
名目はアルフレッドの即位と結婚を祝うものだが、それだけの為ではない。

「……何て……? 」

――雨が降った。
その、後のことだ。

「それが……」

「しつこいぞ。マクライナー」

ほとんど声になっていないジェイダと、それを落ち着かせようとするロイの声が、荒い声と足音に瞬時に掻き消される。

「アルフレッド様こそ。なぜ、私をそう邪険になさるのです? 仮にも私は、国王様の補佐官を務めているのですが」

キース。
すぐそこにいるのがあの男だと認識すると、ジェイダの心に言い様のない不安が広がる。

「仕えているのが父ならば、他に身を置いた方が得だぞ。……マクライナー」

ドアを隔てた先で、二人の足音がピタリと止まった。

「……私が仕えるのは、この国です」

部屋の中からは、彼らの様子は知れない。
けれど、皆を凍りつかせるには十分だった。

「それを一度、滅ぼしてしまうのか」

「仰る意味が、皆目」

キースの考えを探ろうとして、すぐにやめた。
知りたくもないことだ。

「ったく……それくらいにしなよ」

ロイが苦い表情でドアを開け、すぐに閉めた。
こちらに見せるつもりはないようだ。
きっとそれも、心遣いなのだろう。

「私とて、ご婦人方の前で声を荒げようなどとは思っておりませんよ。ただ、同席させて頂きたく、お願いをしているのです」

「その場にいてどうする。何をどう、誘導する? 」

だが、アルフレッドもキースも、引くつもりはないらしい。
扉の向こう側から、再び争う声が聞こえだした。

「何のことでしょう」

「信用できない人間は、側に置けんぞ」

「アル……! 」

それを止める声もまた、必然的に強くなっていく。

「ジェイダ様……!? 」

ロイの諌める声を聞き、ジェイダはドアの外へ飛び出していた。
一歩遅れて、エミリアが止めようと手を伸ばすが間に合わない。

「……あの。貴方はこの国に、何を望んでいるんですか? 」

安全な部屋の中で、ただ祈るのはやめたのだ。
怖くても、不安でも。
立ち向かうと、決めたのだ。

「ジェイダ」

ロイと二人で。

「もちろん、平和と安泰を」

初めて見た時から、キースの印象は変わらない。
その微笑はうすら寒く、瞳はどこか陰を帯びている。

「意外、ですか? まあ、そうですね。貴女の目には、私が破壊や侵略を好むように映るのでしょう? 」

視線がゆっくりとこちらへ移り、ジェイダは震えるのをぎゅっと耐えた。

(そうでないと言って。お願いだから)

望むものが同じなら、手を取り合えばいい。
そう思うのに、不可能だと諦めてしまう自分が嫌になる。

「キース」

「ご質問に答えたまでですよ」

庇ってくれようとする、ロイの腕にすがりつきたくなる。

(……ダメよ、ジェイダ)

そんな自分を叱る為に、両手のひらにぎゅっと爪を押し付けた。
こうしていれば、ロイに頼らずとも何とか立っていられる。

「……平和に辿り着くまでに共倒れしたら、元も子もないと思います」

そもそも、平和とは何を指すのか。
どうにかそれを手に入れられたとしても、癒えることのない、深い傷を負ってしまっていたら。
ほんのすぐ側で、誰かが打ちひしがれていたら。
それは本当に、平和を手にしたと言えるのだろうか。



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