翡翠の森

中嶋 まゆき

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何の力もない女。
キースは今も、そう思っているだろう。
少し前までは、ジェイダ自身も同じように感じていた。

だが、それは違う。
武力はなくとも、自分は幸運にも言葉にすることができる。

(冷たいなんて嘘だ。あの綺麗な青い瞳が冷酷だなんて、大嘘だ。白い肌だって、こんなにもあたたかい)

最初は、信じてもらえないのだと思う。
責められることだって、あるに違いない。
それでも絶対に、諦めたりしない。

(エミリア様も、ジンも。アルフレッド、デレクさん、それに……)

ロイ。

(みんな、大好き)

伝えたいのだ。

(私が、そう思えたの。敵だらけだと思ってた、この国で)

必ず、お互いが思い合えることを。

「熱弁をふるわれているところ、大変恐縮ですが」

抑揚のない声に、僅かに苛立ちの色が見える。

「私が今この瞬間に興味があるのは、クルルとの駆け引きです。いや、失礼。新国王の即位と、ご成婚への祝辞でしたか」

「……不謹慎だよ。ジェイダが許しても、僕も同じだとは思うな」

ロイに言われても、キースが鼻白むことはない。

「申し訳ありません。とにかく、内容が気になるのです。気が急いてしまって」

「……いつまでも、ここで話せることではない。行くぞ」

ロイの瞳が、冷たい炎を帯び始める。
いち早く兄は感じとったのか、片手を挙げて弟を制した。

「……っ、お待ち下さい! 」

皆が移動を始めた時、ドアの内側からエミリアが姿を見せた。

(エミリア様……)

「……わたくしも、ご一緒させて下さい」

怯えているのか、彼女の目は床に落ちていた。
それでも何とかアルフレッドを見上げ、懇願する。

「……分かった」

その視線を真っ直ぐに受け止めると、アルフレッドは先頭に立つ。
何故か、信用しきれていない妻を彼が止めることはなかった。

「エミリア様、大丈夫ですか? 」

そっと腕に触れただけで、ギクリと身を震わせた。

「あ……申し訳ありません、ジェイダ様。大丈夫です」

気丈にそう言ってみせたが、やはり顔色が悪い。
当然だろう。
ジェイダだって、未だにキースの凍てついた目には慣れることができない。

恐ろしくても、側にいたい。
エミリアの気持ちを察して、ジェイダも止めることはしなかった。

「ジェイダ」

二人連れ立って歩いていると、ロイが後ろから声をかけた。

「さ……、エミリア様」

ジンが気を利かせたのか、エミリアに付き添う。それを見送ると、ロイが指を絡めてきた。

(やっぱり、あたたかい。前もこうして、手を繋いでくれた)

冷たい空気と、好奇の目に晒されて。
もう何度、二人手を繋いで歩いただろう。
つい最近のことなのに、何だか思い出話をしている気分になる。

こんな時にも関わらず、照れ臭いのは普段通りで。
なのに今日は、もっと、ずっと切ない。
ロイへの想いが、増したからだろうか。

(それとも……)

嫌な予感が、胸を締め付けているからか。

(アルフレッドへのお祝いなのよ。悪いことのはずない)

そう言い聞かせているのがバレたのか、ロイが繋いだ手を持ち上げ、手のひらに唇を落とす。

「君は一人じゃない。忘れないで」

(……そうね。少なくとも、今は)



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