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まくらべがたり
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その頃。
ジェイダも、ロイすらも予想しなかったことが始まろうとしていた。――トスティータの王城で。
「調子はどうだ」
形ばかりの自室に入ると、アルフレッドが妻に声を掛けた。
「……恙無く」
足音など全くしなかったことに、エミリアの顔が歪む。
彼がただの好色な王だったら、よかったのに。
そうしたら、全てにおいてこれほど悩んだりせずに済んだ。
「アルフレッド様」
名前を呼んでその体に纏わりついても、彼は無表情のままだ。
「……わたくしでは駄目ですか? どうしても……? 」
腹立たしいったらない。
あんな田舎娘が笑うだけで、彼の頬もまた緩むというのに。
あんな――素朴で表情豊かで、子供っぽいけれど……とても可愛らしい女の子。
「正直に言えば、揺れる。男としては」
驚いて顔を上げたが、そこにあるのは彼の言うような色に揺れた瞳ではない。
「だが、この国の臣としてみれば、警鐘は鳴ったままだ。いや、いっそう酷くなるか」
ゾクリとするような、冷たい炎だ。
「……っ……」
それを見た途端、エミリアは身を翻した。
女として危険を感じたのではない。
人間として、恐怖を覚えたのだ。
「何があった。元々そう信用していた訳でもないが、あいつらが発ってから余計におかしいぞ」
馬鹿にされているのだろうか。
怪しい女を自室に置き、面と向かって様子がおかしいなどと。
「……性格が悪いと言われませんか? 」
弟の方が、まだ可愛げがある。
まあ、どっちもどっちか。
思わず本音が漏れヒヤリとしたが、アルフレッドは怒ることなく、それどころか盛大に笑った。
「そうか? なかなか面白い人だ、貴女も。最初から、それを見せておけばいいものを。面倒ではないか? 」
それほど自分は、どうでもいい存在なのか。
信用できずとも、側にいても大した害もない。
手を伸ばしかけるまでの、色香すらも。
「ロイが隠れ蓑になってくれているが、私も確かにひねくれている。むしろ、あいつの方が真っ直ぐだ。進む方向が、多少斜めなだけで」
目で座れと促され、渋々ベッドに腰掛ける。
「したくもない決断をする時。それが非情であればあるほど、個人の感情が邪魔になってくる。……私も、貴女も」
隣に座られ、エミリアは咄嗟に距離を取ろうとした。だが、男は図体の割に俊敏だった。
「けれど……私とて、優しくあれたらと思っているのだ。今はこうでも、いつか実るのではと」
「……ジェイダ様を想いながら、ですか? 」
間髪を容れずに言うと、アルフレッドはまた楽しそうにするのだった。
抱き寄せられ、身を捩ろうとして止まる。
抵抗する理由などない。
あってはならないのだ。
「本当にどうした? それではまるで、妬いているように見える」
広い。
その身長故に、彼の腕が長いからか。
それとも、お互いがまだ、溝を埋められないからか。この空間が、心細くて堪らない。
「貴女を腕にして、言うことではないが。……あいつに好意を抱いていたのは本当だ」
最低だ。
男女間において、正直もほどほどにしてもらわないと困る。
王とその妃なら、尚更目隠しも必要ではないか。
「それでも、手を出そうとは思わない。ロイのことがなくてもな」
「嘘です」
女に好意をもちながら、そんなことがあるものか。
「本当だ。色気は感じん。信じてもらわなくても構わないが。……今のところは」
これだから、男は嫌なのだ。
大切な女には手が出ないくせに、どうでもよくても対象になる。
「貴女はどうなんだ? エミリア」
心の中で罵っていると、トンと肩を押された。
「な……」
気を抜いていた。
唇を噛む頃には、エミリアの体はしっかりと横たえられている。
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