翡翠の森

中嶋 まゆき

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落涙

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「誓って申し上げますが、私たちにその意思はない。全く逆のものです」

トスティータとクルル。
不足している物資の交換には、互いに利こそあれ損することはないように思う。
それは、ジェイダが勉強不足なだけなのか。

「それから、兄からの伝言ですが。万一、北やその他の脅威にクルルが晒された場合は、いつでも協力する準備があると」

驚いてロイを見ると、彼は安心させるように小さく頷いた。

キースを筆頭に、反対意見だらけだったに違いない。
それをここまで押し進めることが、できたのだとしたら――。

(二人とも……)

万が一にも上手くいかなかったら……恐らくただでは済まない。
愚政と罵られ、王座を追いやられるか。
それとも、最悪――。

(成功させるの!! )

失敗に終わることなど、ロイもアルフレッドも考えていないのだ。
それなのに、側にいる自分がそんな心配をしてどうなる?

「しかし、それはあまりに性急ではありませんか。物資や通貨の行き来は別として、長年交流が途絶えていた国を助け、守るとは」

それもまた、自然な気持ちなのかもしれない。
けれども、こうも思えないものだろうか?

今はお互い壁があるから、見えないだけで。
すぐそこで困っている人が目に入れば、きっと体は動くものだとも。

「最初は利害の一致で始まるのでしょう。それでもそうして助け合ううちに、人の心も近づけると。…そう、信じさせて下さい」

甘い理想で終わるかどうか、まだ試してもいないのだ。
何も、この大地を統一しようというのではない。

元々ひとつだったのだとしても、今ではもう違う。
普段意識していなくても、別の国では不思議な風習に見えたりするだろう。
それぞれの文化が根付いているのだし、それはそれで大切にしていかなくてはいけない。 
消し合ったりなどせず、尊重し合っていけないものだろうか。

「何度も繰り返して恐縮ですが。どうか、ご決断を。それから…祈り子なんてものの撤廃を」

トスティータにしてみれば、他国の制度など関係ない。
自分のみならず、今後選ばれる女性のことも彼は憂いでくれる。

「ええ。その為にお呼びしたのですから」

《……コイツ……! 》

ほっと息を吐いたと同時に、頭の中で聞こえてきた。

(マロ……? )

《人間って、ほんと愚かだ。どうしてこう、自ら破滅へと向かっていくのか理解できないよ》

穏やかではない言葉に、ロイと顔を見合わせた。

「やはり貴方は、祈り子を拐うべきではなかった。同盟だけならば、女一人で何か変わるものでもないのに」

どういうことだ。
意味が分からずその顔を見て、ゾッとする。

血走った目。
唇の端は上がっているが、その微笑は醜く歪んでいる。

「おかげで、まずはこちらを何とかせねばなりませんね。残念ですが、同盟どころではない」

(……なに……!? )

轟音。
これは地響きだろうか?
まさか、干ばつ以外にも、この地で何か起きようとしているのか。

「……っ……ジェイダ! 」

何が何だか分からずにいると、ロイに強く抱き寄せられた。

「一体全体、どうしたことか。これではおよそ、同盟など夢のまた夢だ――」



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