喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第2話

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 ルナは戦地に赴いては傷を癒していた。 

 齢20歳にして聖属性の第三階級魔法を使える者は彼女しかいない。またそれを使える者は現在のこの世界においては、指で数える程度しかいなかった。魔法の才能もさることながら容姿も整っており、さらには教会の元で貧困に喘ぐ子供達や戦争で両親をなくした子供達の為の孤児院に従事している。多くの者を救い、戦地では彼女がいるだけで士気が高まるため彼女のことを聖女と崇める者までいる。 

 しかしルナ自身は戦争が嫌いで仕方がなかった。多くの者が傷を負い、それを彼女が治す。そしてまた傷をつくって帰ってくる。帰ってこない者もいる。傷付く人を見たくない、でも戦争に負けてしまうともっと多くの者が傷付く。それを仕方ないことだと納得した自分、また戦士達の死を見てもあまり動じなくなった自分が嫌いだ。そんな自分を作った戦争が大嫌いだった。 

 帝国と王国の戦争は何年も続いている。近々また新たな戦争が繰り広げられるそうだ。軍の作戦会議にここ数日毎日のように呼ばれ、くたくたになって子供達の待っている孤児院に帰る。 

 今日もその帰り、綺麗なピンク色の髪を揺らして。 

 いつもの路、いつもの店、いつもの酒場、大通りに面しているこの酒場の前を通るといつも酔っぱらった兵士達に絡まれるので今日は裏路地を回って帰るようにしよう。 

 いつもと違う路、表とは違い薄暗い、夜の路地は不気味だった。ルナは少し後悔しながら家路を急いだ。 

 ──ぅぅ…怖い…… 

 眉根が下がり、弱々しい小動物のような表情に変化していく。 

 暗い路地裏を歩く度に、新しい風景が顔を見せ、後ろを振り返ると来た道を暗闇が覆い隠していた。 

 ルナが歩いていると道の先に何かを発見する。 

 ──あれ?…あそこに誰か…寝てる?ふぇ~怖い…… 

 そこを通らないと孤児院に帰れない。勇気をだして寝ている人の前を通ろうとすると、恐怖の感情が一変した。 

 それは寝ているのではなく倒れているのだとわかったからだ。しかも下着だけを身に付けている男の子だ。 

 ルナは不安な表情をそのままに、急いで駆け付けると男の子の顔と身体にいくつかの痣があるのを発見した。 

「大変!きっと物盗りに襲われたんだわ」 

 ルナは魔力を練ってから第一階級聖属性魔法、所謂回復魔法を唱えた。路地裏の闇を光が照らしたかと思うと、その光は倒れている少年を優しく覆った。そして少年の上半身をゆっくりと起こし、第一階級水属性魔法を唱える。指先から小さな青色の魔法陣が出現し、その中心から水が滴りおちた。それを少年の口元に持っていき、ゆっくりと飲ませた。 

 ハルは口元に冷たさを感じて意識を取り戻した。 

「大丈夫?」 

 女性が自分を抱きかかえるようにして声をかけてくれた。 

「えっと…ここは確か…」 

 ハルは記憶を整理するために言葉を発する。 

「ここ?ここは王都フルートベールよ」 

 女性の綺麗な声はハルを覚醒へと導く。 

「フルート…?」 

 異世界召喚されたことを思い出した。 

 ──そうか不良にボコボコにされて… 

 記憶の整理が出来て今度は自分の状況を整理すると、 

「えっ!?服がぁ!!」 

 ハルは慌てて女性の腕の中から離れた。 

 そして自分の両乳首と股間を(ボクサーパンツの上から)隠した。女性は悲しげな表情を浮かべて言った。 

「取られてしまったようね…君、怪我してたけど何があったの?」 

「怪我?」 

 身体中を自らの手で探りながら、そして照れを隠しながらどこにも痛みがないことを確認する。 

「そう、怪我よ?回復魔法をかけたから痛みはないと思うけど怪我をしていたの」 

 ──回復魔法……魔法がある異世界か…それよりもちゃんとこの人にお礼をしなきゃ!! 

「あ…あの…あありがとうござざいました。」 

 ──どんなかみかただよ!!! 

 その時、この世界の夜に輝くあの星は月なのかどうかわからないが、建物と建物の小さな隙間をその星の灯りが女性の顔を照らした。ハルは初めて自分を救ってくれた女性の顔を見た。 

 ──……可愛い 

「フフフ、どういたしまして」 

 微笑みかけられたハルは一瞬だけ気が遠くなるのを感じた。 

ゴーン ゴーン 

 気が付くと昼間だ。そして盗られた筈の制服を着ていた。上を見上げると夜空ではなく青空が建物と建物の間に見えた。
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