喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

文字の大きさ
73 / 146

第72話

しおりを挟む
~ハルが異世界召喚されてから13日目~
 
 ──はぁこんな小童達の稚技なんて何の意味もない…… 

 戦争まであと3日、自分の国が滅亡してしまうことを剣聖オデッサは憂いていた。 

 今回宮廷魔道師ギラバがどうしてもと頼み込んできたのでロイドに無理矢理闘技場へ連れてこられたのだ。 

 ──この剣セイブザクイーンを腰に携えるのは何年ぶりだ? 

 剣の輝きにオデッサは見向きもしていない。 

 おそらく宮廷魔道師のギラバは三國同盟を結ぼうと躍起になっているのだろうとオデッサは考えていた。 

 選手控え室を彷徨いていると、1人の少年と出会った。フルートベールの紋章をつけた自前の防具を着けている少年。 

 ──出場者か?そういえばこんな顔の絵が出場者リストの中に…… 

 少年はオデッサを見ているが、その目線に違和感を覚える。 

「っ!?」 

 オデッサはこの目線を知っていた。 

 少年との間合いを一気に詰める。 

「お主!鑑定スキル持ちか!?」 

 ──何故わかった? 

 ハルは狼狽える。オデッサの速さについていけなかったのだ。 

 おかげでオデッサのレベルだけしか確認できなかった。 

 ──レベル45…… 

「まぁ私のレベルやステータスを見たとしても…どうでも良い…この国は……」 

「この国は…なんですか?」 

「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」 

 けたたましい銅鑼の音と歓声が聞こえる。大会が始まったのだ。 

 オデッサはハルの質問には答えず去っていった。 

 あの時、まだハルがこの世界に来て間もない時、オデッサはハルのことを助けてくれた。 

 彼女の何を刺激したのか?彼女に何があったのか? 

 ハルは今になってようやくその事について考え始めた。 

───────────────────── 

 空は雲に覆われ絶好の大会日和という訳ではないが、雨が降るよりかはマシだ。肌で感じる温度は直射日光を浴びないため、過ごしやすい気温ではある。日の光の変わりに大きな歓声が会場を暖めていた。 

「よかったのですか?今大会の出資者が何も言葉を残さなくて」 

 特別観覧席に座っているトルネオを囲むよう、配置についてる冒険者パーティー『竜の騎士』リーダーのジョナサンは言った。 

「良いんだ良いんだ、君もランスロットの本を読もうとしているのに、出だしでミストフェリーズが出てきたらさめるであろう?」 

 よくわからない例えをするトルネオは出場者を見定めようと少しだけ前のめりに座っている。 

『それではこれより第68回三國魔法大会第一試合を行います!!実況は私ジエイ・カビエラが担当いたします!』 

 観客の熱気が一層激しくなる。 

 実況のジエイはその熱が少し冷めるのを待ってから続けた。 

『第一試合!ヴァレリー法国魔法学園高等学校3年生!前回準優勝者グスタフ・スベリ!対!フルートベール王国王立魔法高等学校3年生!前回大会、そして前々大会優勝者~!!レナード・ブラッドベル!!』 

 両者がリングに上がり盛大な歓声が轟く。それもその筈、前回大会の決勝が今大会の第一試合なのだから。 

「あれから俺はお前を倒すために毎日修行をしてきたんだ!あの頃の俺だと思うなよ?」 

 グスタフのバキバキに鍛え上げた上半身とバキバキに固めた髪を見せつける。彼の決意が現れているのだそうだ。 

「それは僕も一緒さ」 

 肩をすくめるレナード。 

『始めぇぇぇぇ!!!』 

 開始の合図と大きな声援と共に大会は始まった。 

 グスタフは聖属性魔法ブレイブを唱えて攻撃力を上げる。さらに拳技精神統一でさらに身体を強化した。 

『おおおっと!そのなりでまさかの聖属性魔法を唱えるかぁ!!ちなみにフルートベール王国で聖属性といえばやはりルナ・エクステリアさん!!今日もお可愛い……』 

 ルナが赤面しながら客席で俯く。 

 ルナと会場で合流したグラースとマキノは得意気に手を振る。シスターグレイシスも控え目に手を振っていた。 

 実況のジエイは置いてる台本にペンで斜線を引く。ギラバに実況中、この言葉を言えとリストを渡されていたのだ。 

 グスタフが一瞬で移動する。 

「速い!!」
「はやっ!!」
「すごっ!!」 

 観客達はグスタフの速度に驚いている。そんな観客達をよそに、グスタフは右ストレートを繰り出した。しかしレナードが綺麗避け、グスタフと距離をとる。 

『魔法使いらしからぬ攻撃ぃぃ~!!しかし、レナード選手はそれを鮮やかに躱す!!その姿は多くの女性が虜となっていることでしょう!!』 

「あの実況さぁ?レナードに対して甘くない?」 

 試合を見ながらグスタフと同じ学校で大会出場者のドロフェイが呟く。 

「え?そう?グスタフには悪いけど、私はレナードを応援してるわ?」 

 同じく大会出場者のオリガは素っ気なく言った。 

 ──女子怖い…… 

「やはり躱すか!さぁお前も来い!!」 

 グスタフは気合いを入れて言った。レナードはそれに応えるかのように、掌を向ける。 

「シューティングアロー」 

 レナードは魔法を唱えた。光の矢はグスタフの鍛え抜かれた肉体に向かって放たれる。 

「フン!!」 

 レナードのシューティングアローを裏拳で弾くグスタフ。 

『おおっと!!レナード選手の高速の魔法を弾いたぁぁぁ!!』 

 今の動きに会場は少しだけどよめいた。 

「流石グスタフ、あの速さの魔法を見極めて弾くなんて僕にはできない」 

「うん…悔しいけど……」 

 ドロフェイとオリガは呟いた。 

 しかし、会場はもっとどよめいてもおかしくない。これも開催国ホームとアウェイとの差か?とドロフェイは感じる。 

 ──レナードやフルートベール王国の選手には歓声を上げて、それ以外の選手には沈黙を貫く、我が国ヴァレリーで開催されるときはそんなことないのに。はぁ…くだらない…… 

 しかし、この考えこそが偏見に満ちていたことにドロフェイは気付いていなかった。 

 会場にいるフルートベール王国の者の多くが代表選考会を見ていた為に知っている。レナードのシューティングアローを完璧に躱すスコート・フィッツジェラルドのことを。 

「シューティングアロー!」 

 またしてもレナードが唱える。今度のシューティングアローは先程のよりも速い。グスタフは弾くどころか、目で追うことすらできず当たってしまう。 

「なっ!!?」 

『これは速いぃ~速すぎる!!』 

「速っ!!」 

 ドロフェイがレナードの魔法に反応する。 

「きゃーーー!!!」 

 オリガが歓声を上げる。 

 ──女子怖い女子怖い女子怖い…… 

「…今のは流石に速かったんじゃないのか?」 

 ヴァレリー法国議長のブライアンは自国の魔法兵団副団長のエミリアに訊く。 

「ん~まぁ少しやるって感じ?対策ならいくらでもできるよ?」 

 エミリアは少し不機嫌に言った。エミリア達と同じ高さからリングを見下ろす、ダーマ王国の要人達も始まった試合について語っていた。 

「レナード・ブラッドベル……もうその域に達したか……」
 
 ダーマ王国騎士団長バルバドスと宮廷魔道師アナスタシアは考えながら試合を見ている。 

 グスタフは膝をつくとレナードは口を開く。 

「選考会で、僕の魔法を完全に避ける後輩がいてね?僕も悔しかったから彼が避けれない程の速度を出そうと努力したんだ?その後輩の力も借りながらね?」 

 スコートは試合を見ていた。 

 あのグスタフという相手と戦うことを仮定した時、どのように攻撃するかを考えていた。 

 1年生Aクラスの生徒達とユリが一緒に試合を観戦している。 

 選考会は授業の一環だったが、この大会は只のイベントの為、ユリと一緒に観戦できるのだ。 

「今のこの前のやつより速そうだけど避けられる?」 

 アレンがスコートに尋ねる。 

「条件が揃えば避けられるが、初見では無理だった」 

「無理だった?」 

「あの後ブラッドベル家に呼ばれてな、一緒に訓練をさせてもらった……それにしても恐ろしい人だったよ……」 

 スコートはレナードとの訓練を思い出していた。 

「何が恐ろしかったの?」 

 アレンは追及する。 

「あの人が唱える第二階級光属性魔法だよ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...