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第四章 極寒山脈の凶龍編
第86話 開幕の狼煙
しおりを挟むつい数十分前まで猛烈な勢いで吹き荒れていた吹雪もある一か所を除いて今や穏やかな粉雪程度となっている。そのある一か所というのは、この雪山でもっとも標高の高い地点。
ドラゴン・イクシードの居座っている山頂である。
もうドラゴン・イクシードの一回目の戦闘が起こってから数時間は経過しているはずなのに奴の周りには未だに禍々しい魔力が混じった暴風が吹き荒れていた。どうやらドラゴン・イクシードはしっかりとした理性などなくこの禍々しい魔力を本能のままに振り回すだけのようだ。
「改めて目にしてもやはりヤバイな、こいつは」
俺はドラゴン・イクシードから少し離れた岩陰に気配をひそめていた。気付かれたらと少し心配していたのだが、この様子であればやつに気づかれることなく思い通りに先手を打てそうだ。
「ユウト、大丈夫?」
俺の肩に人化を解いたセラピィがちょこんと引っ付いている。
セラピィの言葉からは不安が溢れんばかりと伝わってくる。
「大丈夫だよ、心配ない。それよりもセラピィは戦いに巻き込まれないように離れていてね。何ならシエンさんと一緒のところにいた方が...」
「いや、セラピィはユウトの出来るだけ近くに居たい!もし万が一のことがあったら必ずセラピィが助けるんだから!!」
彼女の発する言葉の端々から力強い意志を感じる。俺は出来ればシエンさんと同じく安全なところに居てほしかったのだが、きっとセラピィは何があってもついてくるのだろう。ならば彼女の気持ちを尊重して俺の近くで、そして何よりも目の届く安全な場所にいて欲しい。
「分かったよ、セラピィ。けれどこれだけは約束してくれ、もしセラピィに危険が迫ったら迷うことなくセレナたちのところに行ってくれ」
「...うん、分かった。でも絶対にユウトも無事で帰ってきてね」
「もちろんだとも!ドラゴン・イクシードを倒して元気に帰って来るよ」
そういうとセラピィはもう何も言うことはなかった。そうしてセラピィがかなり離れた安全な場所に辿り着いたことを確認し、俺は荒れ狂うドラゴン・イクシードの方へと視線を移した。
「さて、ドラゴン・イクシード。二回戦目の開始だ!」
俺はドラゴン・イクシードに気づかれないように隠れながら戦いの狼煙を上げる準備を開始する。やはり先手必勝、自身の最大火力を出せる魔法を開幕に放とうと思っているのだ。
魔法を発動させる準備を始めるとドラゴン・イクシードの遥か上空にある雪雲がある一か所を中心として渦を巻き始めた。その中心には周囲の魔力が集まり始めていた。
次第に膨大な魔力量が集まってきているにもかかわらずその魔力球の大きさは拳ほどの大きさを常に保っていた。つまりあり得ないほどの魔力が超高密度に圧縮されているのである。
そうして十数秒後には俺が制御することが出来る限界を超えないギリギリまで集まった。その魔力の塊は荒れ狂うドラゴン・イクシードの上空にまるで第二の太陽のように浮かんでいる。
流石に魔力球の存在に気づいたドラゴン・イクシードはどのような感情かは分からないが上空に向かってひたすらに吠え始めた。しかし攻撃とは認識していないのかその場からは動こうとはしない。
動かないでいてくれるのはこちらとしては好都合である。
なぜなら今この瞬間に逃げるという選択肢を取らなかった時点でこの勝負は決したのだから。
すぐに俺は用意していたとある魔法を込めた魔晶石をドラゴン・イクシードの足元へと投げつける。さらにすぐに気づかれないように風魔法の一種である『エア・インビジブル』によって気づかれないように一工夫も加える。
投げつけた魔晶石がドラゴン・イクシードの足元へと着弾するとその瞬間、その魔晶石を中心にドラゴン・イクシードの巨体すらも覆い尽くすほどの魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣は瞬時にドラゴン・イクシードを取り囲む結界を展開した。
「グルルァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
ようやく攻撃を仕掛けられているのだと気づいたようだがもう遅い。これは10秒程度ならいくら超越種であろうとも閉じ込めることが可能なほどの強固な結界に仕上げてあるのだから。
「さあ不可避の一撃をくらえ!!」
俺はすぐに上空に待機させておいた魔力球をドラゴン・イクシードへ向けて落下させる。ものすごい速度で落下していった魔力球は結界の上部を何もなかったかのように貫通した。
この結界は中からの攻撃だけを耐えるのに特化させており、逆に外から内側への攻撃へは干渉しないことによって最高効率で結界としての効果を発揮させているのだ。
そうして結界内に入り込んだ魔力球はドラゴン・イクシードに接触した瞬間に眩い光を放つ。
するとその光と共に強烈な爆発が結界内で発生した。
その爆発は超強固に組み上げた自慢の結界にひびを入れてしまうほどの威力に仕上がっていた。しかしどうにか結界はギリギリのところで耐えており、内部で起こった爆発は結界に阻まれることによってその威力を散らすことなくドラゴン・イクシードにそのすべてをぶつけることに成功していた。
「ふぅ...」
俺は魔法の成功を確認し、インベントリから残り全ての魔力回復ポーションを取り出した。それらを一気に飲み干して大幅に消費してしまった魔力の回復に努める。
「さあ、ドラゴン・イクシード。これで倒れてくれるとありがたいんだけど...」
俺はいまだに爆発の衝撃が暴れまわっている結界内を見ながらぼそっと希望的観測を呟く。
まあ自分でフラグを立てるまでもなく、結果は何となく分かってはいる。
徐々に内部の様子が見えるようになってくるとそこには大きなシルエットが現れてきた。
もちろんドラゴン・イクシードの巨体だ。
「グッォ...ガァ......」
ドラゴン・イクシードの体からは大量の血液が流れだしており、大きな両翼も原形をとどめていない。それに体の大部分が欠損しており息も絶え絶えであった。
「予想以上にダメージを与えられたみたいだな。何とか生きているみたいだけど悪いがすぐに止めを刺させてもらう!」
俺は結界が壊れると同時に肩にかけた剣を抜き、地面を蹴り出して一気に距離を詰める。魔剣に魔力を込め、やつの首めがけて思いっきり振り抜く。これで終わりだ。
「グ...グオオオオおオォォォォ!!!!!!!!!!!!」
「なに?!」
もう少しで魔剣がやつの首を斬り飛ばそうとした寸前、瀕死だったはずのドラゴン・イクシードが突如俺に向かって強力な魔力ブレスを放ってきた。
すぐさま俺は持っていた魔剣でそのブレスを切りつける。
斬り裂こうにも予想外の威力に少し手間取ってしまい、ほんの数秒ほどかかってしまった。
しかしそんな程度でこのチャンスを逃すわけもなく、俺はすぐに再びやつの首をはねるために魔剣を振るう。すると今度はドラゴン・イクシードの強靭な爪がその攻撃を受け止めたのだ。
「なっ?!」
俺は押し切るためにさらに魔剣に力を込める。その瞬間、やつの爪に亀裂が走ったがそれと同時に俺の右側にはやつの強靭な尻尾が目にも止まらない速さで迫ってきていた。
俺はすぐさま飛び退いて尻尾による攻撃を避ける。
するとそこには驚きの光景が広がっていた。
「はぁ...超越種は回復するのがお家芸なのか?」
そう、先ほどまで体の大部分を負傷して瀕死状態だったドラゴン・イクシードが今や大部分が回復しきろうとしていたのだ。急いでステータスを確認してみるとゴブリン・イクシードの時とは違い、そこまで魔力を消費した形跡もなくただHPが大幅に回復していたのだ。
おそらく超再生スキルの効果だとは思うがまさかデメリットなしで回復するのか?
もしそうだとしたら不死身じゃないか。
「グアアアァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
みるみるうちに完全回復に成功したドラゴン・イクシードはその狂暴性を取り戻し、辺り一面に強力な咆哮と共に例のデバフを振りまく魔力波を発してきた。
しかし一度目の戦闘でやつのデバフ攻撃には俺の健康体が完全に対処できるようになっているので今の俺には全くもって効果がない。
俺はこのデバフ攻撃に対処する術があったから良かったが、本当だったらデバフを受けながら不死身のような回復力のこいつと戦わなければいけなかった。
「本当に超越種っていうのはでたらめすぎるな...」
一見無敵のようなスキルや相手であってもどこかしらに弱点やデメリットは存在するはずだ。
そうだと信じて俺は再び魔剣を握って立ち向かう。
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