SNSが結ぶ恋

TERU

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第2話「フォロバ」

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第2話「フォロバ」

「ブォーン!ドッドドドドド・・・・!」愛車のキーを回し、眠っていたエンジンが目を覚ました。鉄筋コンクリートの車庫にエンジン音が響き渡る。
車庫の壁際には工具が綺麗に整理されており、まるで小さな車工場のようである。使った工具を元に戻すのも経費削減の一環だと言う事を正樹は商社マン時代に学んでいた。工具や消耗品を長く大切に使うことにより、将来的に経費削減に繋がるのだ。実際正樹自体はO型でかなり大雑多ではあるが、その時の癖でオフィースや作業場などは綺麗に整理整頓している。
車庫には新車の『軽トラ』と中古の『ミニ・クーパー』が並べられており、今は中古の『ミニ・クーパー』の整備をしていた。軽トラが新車で、自家用車が中古というと皆が変に思うかもしれないが、軽トラは仕事に使っている人が多い為、中古車で購入するにはリスクが高い。それに昔の軽トラと違い、今の軽トラは錆びやすい部分にプラスティックで保護していたり、室内空間も昔の軽トラよりも若干広くなっていたりと何かと快適である。やはり軽トラは新車を丁寧に長く乗るのが一番である。
自家用車の中古「ミニ・クーパー」は今現在のBMWに吸収合併された「BMW・MINI」では無く、1959年から2000年までイギリスで製造していたBMC(British Motor Corporation)の「MINI」である。その中でも「ミニ・クーパー」は有名ドライバー『ジョン・クーパー』記念モデルで通称「ミニ・クーパー」と呼ばれている。1999年モデルなので、2000年にBMWに吸収合併される前の型になるだろう。正樹はこの車に愛着を持っており、商社退職後実家に戻ってくる時に購入した。20年以上前の車で部品も中々手配が大変だが、やはり人気の車種だけあってMINI専門店があるので何かと助かっている。今現在の「BMW・NINI」と違い「BMC・MINI」は壊れやすいイギリス車だけあって、チョイチョイ壊れる。この前もブレーキが聞かずに電信柱に突っ込みそうになり、サイドブレーキ引き、ドアを開けて片足を出して必死で止めた。傷一つ無いのが奇跡である。原因は油圧ディスクブレーキのホースが破裂してそこからオイルがポタポタ落ちてきていた。それではいくらブレーキを踏んでもスカスカで止まるハズない。今ネットで部品を取り寄せて修理したところである。
「ブゥオーン!ブゥオーン!」運転席に座ってアクセルを右足で何度が踏み込んで、久しぶりのエンジン音を聞いて楽しむ。
「いい音だね。壊れてからエンジンかけるのも久しぶりだからな!ブレーキも問題なさそうだしよかった。」右足でアクセルとブレーキの圧力を感じながら確認している。


一通り「ミニ・クーパー」の動作確認をした後、運転席に座ったままタバコに火をつけた。作業を終えた後の一服である。
「ふ~!インスタでも見るかな。」iphoneを取り出しインスタを確認する。
「おっ!またフォロー来ている。凄いな~あの動画、こんなにいいねやフォローが増えるとは思わなかったよ。」前回の動画がかなりバズっており、いきなりいいねが5000、フォロワー1000人以上増えるという緊急事態である。
「MASAKI87!?同じ名前だ!」いきなりフォロワーが1000人もいきなり増えて、炎上しており最近殆どインスタを見ていなかったが、愛車の修理も終えて一息ついたので、久しぶりに開けたのだが、同じ名前のフォロワーが気になったのでページを開いてみた。
「女の子だった!しかし凄いカワイイな~!」そこにはコンビニスイーツやレストランなどを中心に撮っているページだが、時折スイーツと一緒に写っている素敵な女性に目を奪われる。そこに写っている女性は元々綺麗なのはベースにあり、素敵な笑顔に綺麗な目をしている。夢や希望に満ち溢れている素敵な目である。
「ははは別世界の人だな。今の俺とは別世界だ。」タバコをふかしながら昔を思い出していた。

『清水 正樹』は大手商社に勤めて第一線で活躍をしていた。いわゆるインテリである。特に貿易関係を得意としており、アメリカ・カナダ・南米・ヨーロッパ・アフリカ・中東・東南アジアなど、世界中を駆け巡りあらゆる商談をまとめてきた。都内青山に自宅を構えて、元女優の妻と可愛らしい娘を幸せに暮らしていた。仕事が楽しく、家庭も幸せで、将来は企業も考えていた。
それが8年前あの日、直属の上司が対立している上司に権力争いに敗れてから人生は転落していった。直属の上司は時期社長候補と言われていたが、北海道の地方支店に飛ばされた。正樹は、左遷は免れたが対立していた上司の部署に配属された。それまで何かと対立していた部署である。そのお返しとばかりに、露骨な嫌がらせや邪魔をされて、挙句の果てには、社内の情報漏洩の罪を着せられ会社を追われた。もちろん退職金も無く職も失った。青山の一等地の家は売りにかけ、妻とも喧嘩が絶えず離婚した。今では逃げ帰った静岡県実家で地方の小さな港の小漁師の後を継いで5年になる。

「何悔やんでいるんだ。」タバコの火を消してエンジンを消し、車のドアをあけた。
「もう過去には戻れないんだ。」そう言いながらもう一度スマホを除く。
素敵な女の子がまた笑顔を見せている。今の地方の小漁師の自分を見ると世界が全然違うが、たかがSNSだから関係無いだろう。っと車のドアを閉めて『フォローバック』した。


次回、第3話「不公平」に続く・・・。


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