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新しい商売の予感
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一応、婚約破棄されたことを両親に報告すると、もうその情報は知っていると言われてしまった。
「え、早くない??」
困惑するグレイスをよそに、両親は肩を竦める。
「何をいっているのグレイスちゃん、商売人は情報が命! しかしアレク様にも困ったものねえ、さっそく債権を回収しに行かなくっちゃね、あなた」
債権、というのは伯爵家に貸し出していた資金のことだ。婚約が履行させることを条件に、貸し出した金がグレイスの持参金として正式に伯爵家に渡るようになっていた。ただし、二人が結婚しなかった場合、それはただの借金となる。そしてその際は利息もきっちりと返済を要求する。
そういう契約になっていたらしい。
アレクはあの様子だとそんな契約が存在することすら、伯爵から聞かされていないだろう。せめて耳に入っていればまだ穏便な手段が取れただろうに。
貴族って生き物の見栄ってやつは一銭にもならないな、とグレイスは少し同情した。
けれども、とグレイスは疑問を口にする。
「お貴族様が素直に払ってくれるのか?」
「もちろん、正式な手段に乗っ取って、立会人も頼んださ。だからどんなに言い逃れしても記録が裁判所に残っているのさ。グレイスも、約束をしたときはきっちりと守らせないとだめだぞ」
愚問だった。
「こんなこともあろうかと利率をかなり高めに設定しておいてよかったよ。領地を売り払っても返せない金額になっているかもしれんなあ。ええと、年利20パーセントで婚約したのが五年前だろう?」
娘の婚約破棄よりそろばんを持ちだす両親に呆れて、笑ってしまう。相変わらず欲の皮が張っている。
「けれどもグレイスちゃん、あんまり怒ってないわねえ。貴女のことだから湖に沈めてやるくらいは息まいてそうなのに」
母がそう笑う。ふだんのグレイスならばきっとそうだろう。どうにかして落とし前をつけさえてやると考えているに違いない。けれども怒りがわいてこないのは、ハドリーのことを考えているからだ。
ゆっくりと話をしたのが確か二年前だ。確かに彼はいい男になった。幼いころ何をするにも後ろをついて来たあのころとは見違えるほどに。
正直憎からず思っている。けれどもなあ。
「そういえばあそこの領地には丘陵地があったな」
「まあ、そうすると牧場なんかをやってもいいかもしれないわね」
「よしさっそく現地に人をやろうじゃないか」
もう領地を譲らせることを前提で話している両親に苦笑する。この家を恥じたことはない。けれどもお貴族さまに嫌われるふるまいをしているのもまた事実なのだ。
こちらの力が抜けるような人好きのする笑みは昔とまったく変わらない。けれどもほつれの一つすらない上質な衣服と、洗練された立ち振る舞いはあのころとはやっぱり違うのだ。
――せっかく侯爵位をもらって生活してるのに、わざわざ苦労させることはないよな。
「え、早くない??」
困惑するグレイスをよそに、両親は肩を竦める。
「何をいっているのグレイスちゃん、商売人は情報が命! しかしアレク様にも困ったものねえ、さっそく債権を回収しに行かなくっちゃね、あなた」
債権、というのは伯爵家に貸し出していた資金のことだ。婚約が履行させることを条件に、貸し出した金がグレイスの持参金として正式に伯爵家に渡るようになっていた。ただし、二人が結婚しなかった場合、それはただの借金となる。そしてその際は利息もきっちりと返済を要求する。
そういう契約になっていたらしい。
アレクはあの様子だとそんな契約が存在することすら、伯爵から聞かされていないだろう。せめて耳に入っていればまだ穏便な手段が取れただろうに。
貴族って生き物の見栄ってやつは一銭にもならないな、とグレイスは少し同情した。
けれども、とグレイスは疑問を口にする。
「お貴族様が素直に払ってくれるのか?」
「もちろん、正式な手段に乗っ取って、立会人も頼んださ。だからどんなに言い逃れしても記録が裁判所に残っているのさ。グレイスも、約束をしたときはきっちりと守らせないとだめだぞ」
愚問だった。
「こんなこともあろうかと利率をかなり高めに設定しておいてよかったよ。領地を売り払っても返せない金額になっているかもしれんなあ。ええと、年利20パーセントで婚約したのが五年前だろう?」
娘の婚約破棄よりそろばんを持ちだす両親に呆れて、笑ってしまう。相変わらず欲の皮が張っている。
「けれどもグレイスちゃん、あんまり怒ってないわねえ。貴女のことだから湖に沈めてやるくらいは息まいてそうなのに」
母がそう笑う。ふだんのグレイスならばきっとそうだろう。どうにかして落とし前をつけさえてやると考えているに違いない。けれども怒りがわいてこないのは、ハドリーのことを考えているからだ。
ゆっくりと話をしたのが確か二年前だ。確かに彼はいい男になった。幼いころ何をするにも後ろをついて来たあのころとは見違えるほどに。
正直憎からず思っている。けれどもなあ。
「そういえばあそこの領地には丘陵地があったな」
「まあ、そうすると牧場なんかをやってもいいかもしれないわね」
「よしさっそく現地に人をやろうじゃないか」
もう領地を譲らせることを前提で話している両親に苦笑する。この家を恥じたことはない。けれどもお貴族さまに嫌われるふるまいをしているのもまた事実なのだ。
こちらの力が抜けるような人好きのする笑みは昔とまったく変わらない。けれどもほつれの一つすらない上質な衣服と、洗練された立ち振る舞いはあのころとはやっぱり違うのだ。
――せっかく侯爵位をもらって生活してるのに、わざわざ苦労させることはないよな。
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