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エッチな魔法をかけられたので素直になってみた

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 近衛隊長であるオフェリアは、大貴族の娘であった。娘の他に子供に恵まれなかった夫婦は、彼女に後継ぎとしてふさわしい教育と、代々継承している近衛隊長の勤めを継ぐにふさわしい訓練を施した。

 その甲斐あってかオフェリアは優秀な軍人として成長した。まばゆい銀髪となびかせながらさっそうと馬を駆る姿はまるで戦女神の再来かと人々は囁き合った。

 しかし、そんなオフェリアに辛辣な視線を送る男が一人。平民上がりの魔術師であるマーカスである。青みがかった長い前髪を耳に掛けたすました男は、平民出身ながらに王族の信任厚い。それゆえに身辺の護衛をする機会も多い。そうなると必然的にオフェリアと顔を合わすのだが、この二人はとにかく折り合いが悪かった、

 とかく、マーカスがオフェリアに対して口が悪いのだ。

 恵まれた育ち故に人を疑うことを知らないオフェリアが少しうっかりするたびに辛辣な言葉を投げかけるものだから、オフェリアもすっかり反発し、喧嘩が絶えない。

 けれども、オフェリアは内心でマーカスを憎からず思っていた。口が悪いが間違ったことは言わないし、なんだかんだできまって助けてくれるのだ。

 同僚たちとたわむれにポーカーに興じていたとき、頭に血が上っていてまったくいかさまを見抜けなかったオフェリアが財布を空にする前に助かったことも、記憶に新しい。

 助けてもらうたびにオフェリアは素直に礼を言おうとするのだが、冷たい声で「ばかなの?」と罵られるので素直に礼が言えたためしがない。
 
 オフェリアが王女の供として、療養地に出向いていた。七日ほどの任務を終え、王都に戻ったら妙に熱い。オフェリアは、妙な感覚を覚えていた。

ーー風邪でも引いたかな。

 だが、この熱さは病のそれではない。もっと身体の奥が甘く疼くような熱さだ。まるで……誰かと情事に及んだ後のような。

そんな馬鹿げた妄想を振り払うように頭を振るう。
「どうした?」

隣にいた同僚の騎士が怪しむ視線を投げ掛けてくる。
「いや、なんでもない」

 平静を装いながらもオフェリアの声はかすかに掠れていた。なにか妙な呪いでもかけられたか?
 
そういえば、昨日は犬猿の仲であるマーカスと王都への帰路の途中、酒場で食事をともにした。別に好き好んで同じ卓についたのではない。混んでいたから仕方なく、だ。
 
 それに礼も兼ねていた。

 療養地でも腕がなまらないように森で狩りをしていたとき、地元の住民が仕掛けた罠を踏みそうになった。それを手を掴んで止めてくれたのがマーカスだった。


 ーーまさか、あいつ何か盛ったのでは。

 そういえばオフェリアは途中で中座した。町人が王都で高名なオフェリアを間近で見てみたい、と希望していたためだ。そうなれば希望に応えないわけにはいかない。老若男女問わずオフェリアを誉めたたえて鼻高々だった。老人など、オフェリアの手をにぎって感動のあまりさめざめ泣いたくらいだ。

 そのスキに飲み物になにか入れることは可能だ。

 オフェリアは頭を振る。陰険な男ではあるがこんな下卑た真似はしない。そういうことをするような人間ではないのだ。
 では、いったいなんだろう。

 熱っぽく吐息をつく。頭がぼうっとしてきた。

オフェリアの異変に気付いたのか同僚の騎士が顔を覗き込んでくる。

「大丈夫か?」
「んっ……だ、だいじょうぶだ」
「とても大丈夫には見えないぞ。少し休んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな……ではお言葉に甘えるとしようか」


 オフェリアが宮殿に与えられた自室で、ベッドに体を預けていると、ふいに扉をノックされた。現れたのは先程まで一緒にいた同僚ではなく、なぜかあの陰険な男だった。
「どういうつもりだ?なぜ貴様がここにいる」

――まさか本当にこいつが。

 体を起こし剣に手をかけるも、体が怠くてうまく力が入らない。
 男はそんな彼女の様子を見ながら薄く笑う。

 「……任務もまともにこなせない情けない近衛隊長さんの顔を見に来たのさ」
 あんまりにも馬鹿にした物言いに、オフェリアは顔を赤くして叫んだ。

「だ、誰のせいだと思っている。お前ッ……なにか盛っただろう!私はそんなこと頼んでいないぞ!!」

「違うよ。僕は何もしていない。……確かに妙な魔法をもらってきたみたいだね。町人にもみくちゃにされていいきになってたろう。その時君の身体に触っていたやつがいたんじゃないか?」

 オフェリアはぎくりとする。あの老人、魔術師だったのか。

「おおかた、きみのことをいやらしい目で見ている男に雇われたんだろうさ。でも、当てが外れたね。きみの部屋にはだれも入れないように結界をはっておいた」

 そう言うと男はオフェリアに近づいてきた。逃げようとするも体が動かない。男はそんな彼女を相変わらずの無表情で見下ろした。

「抵抗できないでしょ?乱らな魔力が籠っている。君の身体の中に入って、君自身に働きかけるものだ。君は今催淫状態に陥っているんだよ」

「ひぁ……ッ、触るな……」

男の手が肩に触れようとした瞬間、反射的に手を振り払おうとした。だが、やはり上手く力が入らず、軽く触れただけに終わる。それを見た男は目を細めて笑った。
「ほら、今の自分の状況を理解したかい?その状態で僕の手を払い除けることなんてできるわけがない」
そしてゆっくりと顔を寄せてくる。オフェリアは混乱しながらもなんとか逃れようと必死に身を捩るも、身体はびくともしなかった。それどころか、身体が目の前の男をほしがるように熱を増す。
「やめろ……ッ、あぅ……近寄るなッ」
「そんなこと言って、体は男を欲しがっている。キミは少し、人を疑うことを覚えたほうがいい」
耳元で囁かれた声にぞくりとしたものが背筋を走る。
「ひっ……ち、ちがうッ……私は……こんな、ぁ……」
否定の言葉は最後まで紡がれることなく、マーカスの唇によって塞がれた。
「んむっ……ンッ……ふ、ぁ」
口内に侵入してきた舌に翻弄され、オフェリアは鼻にかかったような甘い吐息を漏らした。
ちゅっ、ぴちゃ、という水音に聴覚まで犯されるようだ。
ーーなんなんだこれは……。
こんな感覚は初めてだった。身体中が甘く痺れて力が抜けていく。頭の中はぼんやりとしていて、何も考えられない。
ーーいや、一つだけはっきりとわかることがある。
自分は、この男を求めている。
無愛想な、何を考えているかわからない男だ。けれどもいつも陰ながら自分を助けてくれることをオフェリアは知っていた。
男の手が服の中に忍び込み、下着越しに胸を包んだ。
「やっ……だめだ……さわ、るな……」
「どうして?ここはこんなに高鳴っているのに」
オフェリアは羞恥心から涙目になって首を振った。壊れるのではないかと思うくらい、心臓が甘い悲鳴を上げている。
「うそだ……嘘に決まっている……私がお前なんかを……」
「じゃあいっそのこと本当に証明してあげようか。僕はキミのことならなんでも知っている。好きな食べ物、嫌いな動物、趣味、癖、あと……淑女のためのいやらしい本をひそかに愛読していることも」
オフェリアは驚愕のあまり目を見開いた。
「な、なぜそれを……」
誰にも言ったことなどなかったのに。オフェリアはあまりの動揺でうっかり認めてしまった。
「言っただろ?僕はなんでも知ってるって。そして、キミが僕を憎からず思っているのも知っている」
「そんなわけないだろう!私はお前など大嫌いだ!!」
「素直じゃないなあ。まあ、そこがかわいいんだけど」
マーカスはそう言って再び唇を重ねてきた。今度は先程より深く、長く、情熱的なもの。
「んっ……んんっ……ん、ふぁ」
「ははっ、キスだけでもうトロトロじゃないか。まだ直接触れてもいないのに」
オフェリアは顔を真っ赤にして目を潤ませる。
「ち、違っ……んぁ、あっ、ああぁ……んっ」
男の指がオフェリアの秘所に触れる。固くなり始めた花芯を撫でられると、腰が跳ね上がった。「やっ……あぁ、あっ……んんっ」
「これだけでこんなに濡らしておいてよく言うよ。ほら、聞こえるだろ?」
「ふっ……んっ……いやっ、いやだ……」オフェリアの瞳からはらはらと涙が溢れる。
「お願いだ……やめて……やめてくれ……こんな、こと……頼むから……」
オフェリアは懇願するも、マーカスの手が止まることはない。むしろ激しくなっていく一方だった。
「あっ……ああッ、んっ……んんっ」
「いやいや言っているわりには随分気持ちよさそうだね。ほら、ここがいいんだろ?」
「ひっ……やだ、やだ……んっ、あっ、ふっ、んんっ」
「嫌?じゃあこれはなに?」
オフェリアの太腿を伝う白濁色の液体をすくい取ると、見せつけるように目の前で揺らす。オフェリアは顔を真っ赤に染めた。
「こ、恋人でもないのに……身体を重ねるのはイヤだ」
「じゃあ恋人になればいい」「え?」
「付き合おう、オフェリア」
「は?」
「だから、恋人になろう。そうしたらなにも問題はないだろ。本当は、まだ告白する気はなかったのだけど、キミはあまりにも無防備だ」

 マーカスはオフェリアの髪をひと房掬い、そこに口づけを落とした。

「僕のオフェリア」
オフェリアはその言葉に呆然としていたが、やがて悔しげに顔を歪めた。
「……ばか」

オフェリアは精一杯睨み付けるも、身体の火照りは収まる気配を見せなかった。そのことがなにより自分がこの男を愛していることの証左ではないか?そんな考えが頭を過る。
 甘い言葉を囁かれている間にも、腹の奥がキュンキュンと疼いて、蜜がとめどなく溢れているのが自分でもわかった。
「わたしも……愛している……」
オフェリアは顔を赤くしながら、泣きそうな声で訴えた。
「お前にこうやって触れられると、私はおかしくなる。思いやりのかけらもない、陰険な男のお前に」
「でも、それが好きなんだろ」
「……はやく抱いてくれ」
「まったく……困った騎士様だよ」「うるさい黙れ殺すぞ」
オフェリアは凄んでみせるが、マーカスにはかわいらしい威嚇にしか見えない。
 マーカスは苦笑しながら、女の足の間に顔を埋める。
「気を失うほど気持ちよくしてあげる」
 マーカスは舌を尖らせ、花芯をつつく。
「ひゃんッ」
ぴちゃぴちゃ、とわざと音を立てて舐め上げれば、オフェリアの口からは艶やかな声が上がる。
「ふぁっ……あっ、あっ……んんっ……ひぁ」
オフェリアは顔を真っ赤に染めて、拳を振り上げた。だが、それもすぐに力を失っていく。
「んっ……あっ……ひぁ……あっ……あん」
身体はマーカスを求めている。もっと欲しい。もっと、奥まで暴いて。そんな浅ましい欲望がオフェリアを支配する。
「おねが……はやく……はやく……んぁッ」
「しょうがないな……」
マーカスは下着を取り払うと、猛った陰茎をオフェリアの濡れそぼった膣口に宛てがった。
「ははっ、挿れただけでイッたのかい?えっちだなあ、僕のオフェリアは」
「違う、」
 僕のオフェリア、と呼ばれただけで肉壁が誘うようにうごめいた。
「もういい加減認めたらどうだ?ほら、今だって僕のモノが欲しくてたまらないだろ?身体中ビクビクさせて、もうイキまくっているくせに」
「違う!私はそんなはしたない真似はしない!お前なんか……」
「はいはい、強がりはそこまでにして。それじゃあ遠慮なくいただくよ」
「待って!あ……んんっ……や、やめ……ッ……あ、あああああッ!!」
やさしくゆっくりと挿入されただけで達してしまったオフェリアは、荒い息をつきながら目の前の男に縋りついた。
「た、たのむ、少し待って」
「またない」
オフェリアの懇願は聞き入れられず、マーカスは律動を開始した。
「ああッ、んっ……んんっ……ふっ……んぁッ」
「ほら、ちゃんと感じてるじゃないか」
「ち、ちが……ちがうっ、ちがう……んっ、あっ、ああッ」オフェリアは頭の中で必死に言い訳を探すが、マーカスに揺さぶられているせいでまともに思考することができない。
「こんなに気持ちよさそうにしているのに、認めようとしないなんて」
「ちがう、違うっ……あっ、んっ、んんっ……んぁっ」
オフェリアは首を振って否定するが、男の剛直を受け入れるために作り替えられた身体は、男の与える快楽に従順だった。
「こんなに乱れちゃって、かわいいなあ」
「やっ……あっ、あっ、ああぁっ……んんっ」
オフェリアは顔を真っ赤に染め上げて男を睨み付けた。
「んっ……こんな状況で……嘘をつく必要が……どこにある……あぅっ……んんっ」
「そんなことを言われても、キミの本心はバレバレなんだよ。キミはわかりやすいからね」
オフェリアは信じられないという表情でマーカスを見た。
「うそだ」
「嘘じゃないよ。まあいい。とりあえず、今は素直になってくれたまえ」
「あっ、んっ……やだ、やだっ……やめてっ……んんっ」
マーカスは腰の動きを速める。
「あっ、あっ、あっ、やだっ……やだやだやだッ!ああッ!!」
オフェリアは全身を痙攣させながら絶頂を迎えた。それでもマーカは腰を打ち付けるのをやめなかった。
「やっ、やめっ……だめぇ……やだ、やだやだっ!もうやだぁ……んんっ……ふっ、あっ、あっ……んんっ」
「キミのそういうところが好きだよ」
「なっ……なにを言って……んっ、あっ、ああぁっ……やっ、んんっ」
オフェリアは顔を真っ赤に染め上げた。マーカスは腰を動かしながら、オフェリアの耳元に唇を寄せた。
「ほら、言ってごらん。僕のこと、好き?」
「んんっ、あっ……す、き……あっ、すきっ、だいす、んんっ……」
オフェリアの口の端から唾液が溢れる。
「僕のこと、愛してる?」
「んっ……あっ……あいしてる……あっ……ああぁっ」
「僕もだよ、オフェリア」
「あっ……んんっ……あっ……んっ……ああぁっ……あぁ……んっ」
オフェリアはびくびくと身体を震わせた。膣内が激しく収縮し、マーカスのものを締め付ける。

「んっ……出すよ」

 熱いものが、オフェリアの体の中を蹂躙していく。

「やっ……んんっ……んあッ……ああぁっ……あぁ……」

オフェリアは身体を弓なりに反らせると、そのまま意識を失った。


翌朝、オフェリアはベッドの上で悶絶していた。昨夜の出来事を思い出したのだ。

「なんなんだあれは!?あんな辱めを受ける謂れはないぞ!!」
オフェリアは怒りのあまり顔を真っ赤にして喚き散らす。その様子を見つめていたマーカスはどこか嬉しそうだ。「でも、気持ちよかっただろ?」
「ふざけるな!死ね!お前など大嫌いだ!!」
「はいはい、愛しているよオフェリア」
「うわあああ!」
オフェリアは絶叫しながら、枕を薄く笑うマーカスに投げつけた。
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