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第1章「はじまりの冒険譚」
第1話
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巨大な門を前に、アーサーは魔法陣を展開した。
「ついにここまで来たんだね」
アーサーは、長剣を握りしめるマーリンに話しかける。普段は気弱そうなマーリンだが、今は戦士の目をしていた。
「ああ、ようやくだ」
マーリンの声には力がこもっている。無理もない、とアーサーは思う。アーサーが魔王を倒す者……勇者として洗礼を受け、マーリンがアーサーの護衛として旅に出てすでに五年以上が経過している。
アーサーは、世界を救うなんて大それたことをしたいとは思っていなかった。ここまで酷く辛いことも苦しいこともあったのだが、逃げずにここまで来たのはマーリンの存在が非常に大きかった。
マーリンも本心では逃げ出したかっただろう。アーサーには、優しい彼の気持ちが手に取るようにわかった。このままマーリンに戦いを続けてほしくはない。
はやく魔王を倒し、二人で帰る。それがアーサーの願いだった。
ゴールは、すぐそこだ。
中空に浮かぶ、ひとつの大陸がある。
その巨大な大陸は魔力により浮かんでいた。広大な大陸の内陸部を上界、ぐるりと上界を囲む山岳の外側を中界、そして開拓を進める大陸の側面から下部を下界と呼んだ。
下界からは魔海と呼ばれる世界の果てが見えた。遥か下に見える、どこまでも続く海である。もしこの大陸が落ちたらどうなるのかと考えても仕方のないことだが、魔海を見た彼らは今日の平和に胸を撫で下ろした。
しかし、平和はある日突然終わりを迎えた。
魔王。
数百年前、ある日突然地底から響き渡った声は、自分のことをそう呼んでいた。お伽話のような話だが、その脅威は絵本の中に収まらなかった。
魔王の目的は破壊と殺戮、そして地上の奪取だという。証拠として見せつけられたのは、圧倒的な魔力による大量虐殺と、人と動物の代わりになるという魔族と魔獣の群れだった。
各国は地下から湧いた魔族、魔獣の討伐隊を派遣したが戦果は芳しくなかった。鉄の剣を防ぎ、鉄の鎧を噛み砕く魔獣に騎士団はなす術もなく、高速で紡がれる魔族の破壊をもたらす魔法に、人々を癒すために存在する魔術を使う魔術師は防戦一方だった。
そんな中人々の希望となったのは隻眼の勇者オーディンと光輝の聖女ヨルズだった。彼らは創造神の神託により出会い、そして魔王を倒すために旅立った。
神の祝福を受けたオーディンは手に持った槍で魔獣を薙ぎ倒し、ヨルズは無尽蔵の魔力で兵士たちを癒し続けた。獅子奮迅の働きを見せる二人により前線を立て直した各国は、魔王に対抗するための手段を得た。
魔術に長ける王国アストレアでは魔族の魔法を研究し、ついに人間も同等のものを使えるようにした。魔術と魔法を操り、魔族により陥落していた数カ国を奪還することに成功した。
新技術、機械を駆使して戦う狼統衆と呼ばれる集団が現れたのもこの時期である。鋼鉄の弾丸を発射する銃と呼ばれる武器は魔獣の甲殻を突き破り、魔術の応用で動き出した鉄の巨神は魔族の攻撃を悉く跳ね返した。
ならず者の吹き溜まりだった狼統衆だが、女子供を保護しつつ各国を巡ったために義賊と呼ばれるようになり、現在の機械の国、クローディアの母体となったことは有名な話である。
商人と職人の都であるミネルバでは、魔獣の骨や牙を錬金術により鉄と合わせ、魔力を伴う武具の発明に成功した。オーディンが用いた魔陣槍グングニルは、ミネルバの職人がドラゴンの骨を用いて作ったもので後世の防衛拠点にその技術が応用されている。
魔族に対抗しうる能力を得た人間たちは、オーディンを中心に攻勢に打って出た。そして魔族の将軍であるレヴィアタン、マモン、アスモデウス、バエル、ベルゼブブ、ベリフェゴールを次々に撃破し、最後にはルシフェルとサタンの二将と魔王だけが残った。
オーディンとヨルズは、地上と魔族の住む地下を繋ぐ大穴でサタンとルシフェルを倒し、ついに大穴を塞ぐことに成功した。
しかし、大挙する魔族を押しとどめるために彼らは大穴の内部から扉を閉めることとなった。そして遂には魔王と相討ちになった、とされている。
残された人間たちは大穴を塞ぐ扉をアビスと名付け、その地の四方に神殿を配置し結界を張った。その後、数百年の平和が続いていた。
しかし、また魔王が現れたのである。復活した魔将によりアビスは開かれ、またしても魔族が現れた。諸王は隻眼の勇者に代わる勇者が現れるまで、自国から勇者の素質がある者をアビスへ向かわせた。
魔族と戦うノウハウを得た人間たちは、今度は協力をしなかったのだ。自国が魔王を倒せば領土拡大に繋がると考え、他国と競って人材をアビスに投入し続けた。その犠牲になったものは数え切れないほどいる。
例えば北の小国からは旋風の剣士バルドー。風の魔力を纏い、魔獣よりも疾く駆け、高速で振り抜かれる大剣は魔法よりも早く敵を仕留めたとされる。仲間を引き連れアビスへ向かうが、道中にベルゼブブと交戦。その後に帰国するも、国が魔族の襲撃をうけ壊滅。バルドーも行方不明となった。
アストレアからは奴隷商により下界から連れてこられた少女から膨大な魔力が発見され、千剣の魔術師ユキノとしてアビスへの冒険を任じられた。しかしレヴィアタンを討伐したのちに、戦死が伝えられた。
こうして十年近くも数多くの戦士が勇者としてアビスに向かうが、一向に成果はあがらなかった。
そんな中、教会は新たな神託を受けた。新たな勇者の誕生である。平々凡々な生活を続けていた、中界の少女アーサーである。教会に連れてこられたアーサーはそこで、剣士マーリンと出会うこととなる。二人はオーディンとヨルズを上回る武功をあげ、すべての魔将を討伐した。
そして、アーサーとマーリンは遂にアビスへたどり着いたのである。
アーサーは魔法陣を起動させた。
爆破の魔法である。アーサーの持つ杖から発せられた白い閃光がアビスを守っている障壁を破壊すると、マーリンが剣を構えて走り始める。
アビスの開門と同時に、巨大な一つ目の魔族、サイクロプスが飛び出してきた。振り下ろされた拳が当たれば全身が砕け散るだろう。
しかしマーリンは振り下ろされた拳に向かい跳躍する。拳がマーリンのいた地面をえぐるころには、彼の剣がサイクロプスの首に突き刺さっていた。マーリンは返り血を浴びながら、サイクロプスの影に隠れていた小型の魔族の群れに踊り込む。
アーサーも新たな魔法陣を展開して光の矢を降り注がせた。アビスから湧き出てくる魔族を焼失させる光の矢を操作しながら、更に魔法陣を発動させる。アーサーの足元から土の魔人、ゴーレムが出現し敵をなぎ倒し始めた。
マーリンの長剣が唸りをあげ、次々に魔族を切り捨てていく。手数が足りなければ、空いた片手で魔法で剣を作り出し、両手で敵の群れを切り裂く。まだ足りないと、両足に魔法の刃を生やし、獣のように魔族を制圧した。
ゴールは、すぐそこだった。
「ついにここまで来たんだね」
アーサーは、長剣を握りしめるマーリンに話しかける。普段は気弱そうなマーリンだが、今は戦士の目をしていた。
「ああ、ようやくだ」
マーリンの声には力がこもっている。無理もない、とアーサーは思う。アーサーが魔王を倒す者……勇者として洗礼を受け、マーリンがアーサーの護衛として旅に出てすでに五年以上が経過している。
アーサーは、世界を救うなんて大それたことをしたいとは思っていなかった。ここまで酷く辛いことも苦しいこともあったのだが、逃げずにここまで来たのはマーリンの存在が非常に大きかった。
マーリンも本心では逃げ出したかっただろう。アーサーには、優しい彼の気持ちが手に取るようにわかった。このままマーリンに戦いを続けてほしくはない。
はやく魔王を倒し、二人で帰る。それがアーサーの願いだった。
ゴールは、すぐそこだ。
中空に浮かぶ、ひとつの大陸がある。
その巨大な大陸は魔力により浮かんでいた。広大な大陸の内陸部を上界、ぐるりと上界を囲む山岳の外側を中界、そして開拓を進める大陸の側面から下部を下界と呼んだ。
下界からは魔海と呼ばれる世界の果てが見えた。遥か下に見える、どこまでも続く海である。もしこの大陸が落ちたらどうなるのかと考えても仕方のないことだが、魔海を見た彼らは今日の平和に胸を撫で下ろした。
しかし、平和はある日突然終わりを迎えた。
魔王。
数百年前、ある日突然地底から響き渡った声は、自分のことをそう呼んでいた。お伽話のような話だが、その脅威は絵本の中に収まらなかった。
魔王の目的は破壊と殺戮、そして地上の奪取だという。証拠として見せつけられたのは、圧倒的な魔力による大量虐殺と、人と動物の代わりになるという魔族と魔獣の群れだった。
各国は地下から湧いた魔族、魔獣の討伐隊を派遣したが戦果は芳しくなかった。鉄の剣を防ぎ、鉄の鎧を噛み砕く魔獣に騎士団はなす術もなく、高速で紡がれる魔族の破壊をもたらす魔法に、人々を癒すために存在する魔術を使う魔術師は防戦一方だった。
そんな中人々の希望となったのは隻眼の勇者オーディンと光輝の聖女ヨルズだった。彼らは創造神の神託により出会い、そして魔王を倒すために旅立った。
神の祝福を受けたオーディンは手に持った槍で魔獣を薙ぎ倒し、ヨルズは無尽蔵の魔力で兵士たちを癒し続けた。獅子奮迅の働きを見せる二人により前線を立て直した各国は、魔王に対抗するための手段を得た。
魔術に長ける王国アストレアでは魔族の魔法を研究し、ついに人間も同等のものを使えるようにした。魔術と魔法を操り、魔族により陥落していた数カ国を奪還することに成功した。
新技術、機械を駆使して戦う狼統衆と呼ばれる集団が現れたのもこの時期である。鋼鉄の弾丸を発射する銃と呼ばれる武器は魔獣の甲殻を突き破り、魔術の応用で動き出した鉄の巨神は魔族の攻撃を悉く跳ね返した。
ならず者の吹き溜まりだった狼統衆だが、女子供を保護しつつ各国を巡ったために義賊と呼ばれるようになり、現在の機械の国、クローディアの母体となったことは有名な話である。
商人と職人の都であるミネルバでは、魔獣の骨や牙を錬金術により鉄と合わせ、魔力を伴う武具の発明に成功した。オーディンが用いた魔陣槍グングニルは、ミネルバの職人がドラゴンの骨を用いて作ったもので後世の防衛拠点にその技術が応用されている。
魔族に対抗しうる能力を得た人間たちは、オーディンを中心に攻勢に打って出た。そして魔族の将軍であるレヴィアタン、マモン、アスモデウス、バエル、ベルゼブブ、ベリフェゴールを次々に撃破し、最後にはルシフェルとサタンの二将と魔王だけが残った。
オーディンとヨルズは、地上と魔族の住む地下を繋ぐ大穴でサタンとルシフェルを倒し、ついに大穴を塞ぐことに成功した。
しかし、大挙する魔族を押しとどめるために彼らは大穴の内部から扉を閉めることとなった。そして遂には魔王と相討ちになった、とされている。
残された人間たちは大穴を塞ぐ扉をアビスと名付け、その地の四方に神殿を配置し結界を張った。その後、数百年の平和が続いていた。
しかし、また魔王が現れたのである。復活した魔将によりアビスは開かれ、またしても魔族が現れた。諸王は隻眼の勇者に代わる勇者が現れるまで、自国から勇者の素質がある者をアビスへ向かわせた。
魔族と戦うノウハウを得た人間たちは、今度は協力をしなかったのだ。自国が魔王を倒せば領土拡大に繋がると考え、他国と競って人材をアビスに投入し続けた。その犠牲になったものは数え切れないほどいる。
例えば北の小国からは旋風の剣士バルドー。風の魔力を纏い、魔獣よりも疾く駆け、高速で振り抜かれる大剣は魔法よりも早く敵を仕留めたとされる。仲間を引き連れアビスへ向かうが、道中にベルゼブブと交戦。その後に帰国するも、国が魔族の襲撃をうけ壊滅。バルドーも行方不明となった。
アストレアからは奴隷商により下界から連れてこられた少女から膨大な魔力が発見され、千剣の魔術師ユキノとしてアビスへの冒険を任じられた。しかしレヴィアタンを討伐したのちに、戦死が伝えられた。
こうして十年近くも数多くの戦士が勇者としてアビスに向かうが、一向に成果はあがらなかった。
そんな中、教会は新たな神託を受けた。新たな勇者の誕生である。平々凡々な生活を続けていた、中界の少女アーサーである。教会に連れてこられたアーサーはそこで、剣士マーリンと出会うこととなる。二人はオーディンとヨルズを上回る武功をあげ、すべての魔将を討伐した。
そして、アーサーとマーリンは遂にアビスへたどり着いたのである。
アーサーは魔法陣を起動させた。
爆破の魔法である。アーサーの持つ杖から発せられた白い閃光がアビスを守っている障壁を破壊すると、マーリンが剣を構えて走り始める。
アビスの開門と同時に、巨大な一つ目の魔族、サイクロプスが飛び出してきた。振り下ろされた拳が当たれば全身が砕け散るだろう。
しかしマーリンは振り下ろされた拳に向かい跳躍する。拳がマーリンのいた地面をえぐるころには、彼の剣がサイクロプスの首に突き刺さっていた。マーリンは返り血を浴びながら、サイクロプスの影に隠れていた小型の魔族の群れに踊り込む。
アーサーも新たな魔法陣を展開して光の矢を降り注がせた。アビスから湧き出てくる魔族を焼失させる光の矢を操作しながら、更に魔法陣を発動させる。アーサーの足元から土の魔人、ゴーレムが出現し敵をなぎ倒し始めた。
マーリンの長剣が唸りをあげ、次々に魔族を切り捨てていく。手数が足りなければ、空いた片手で魔法で剣を作り出し、両手で敵の群れを切り裂く。まだ足りないと、両足に魔法の刃を生やし、獣のように魔族を制圧した。
ゴールは、すぐそこだった。
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