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女学校時代⑥それぞれの幸せ

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「結局、みんな幸せやってんな」

一通り話し終えたフミはすっかり酔っぱらっていた。

「当人同士にしか結局幸せも苦悩もわからないってことか」

酔っぱらったフミにそっと水を差しだすユウタ。
それを少しずつ飲むフミ。

冷たい水がフミの喉を通っていく。

「せやねん。うちが勝手に友達二人を不幸にして自分も不幸でなければいけないって思い込んでただけやねん」

「フミさんは今、幸せなん?」

「幸せやで。大切なことを教えてくれた友達がおったんもそうやしあんたらがいてくれるから、幸せ」

ニコニコとご機嫌なフミを見つめるマスターとユウタ。

「ならいいけどさ……。あんま無茶すんなよ?」

ユウタもユウタで、なかなかフミの痛い所をつく。

「むう……。人のこと年寄扱いしよってー」

「ちげーよ。無理するしないは年齢かんけーねえだろ。若くたって無茶したら体壊すんだし」

「ふふ、若造が」

なーんて吐き捨ててみたものの、少しだけ嬉しいと思ってしまった。

「昔のこと思い出してたらやっぱ寂しなるんやな」

ぼーっと水を飲み、ぼやくフミ。

「いつでもここ来てデカい態度とったらええやん?らしくねえなぁホントに」

ブツブツと呟くマスターもいつもの陽気なマスターらしくない。

「なーに調子狂ってんだか」

「狂うだろうよ、いつも態度デカすぎな女がしんみりしてたらさ」

「寂しい時に寂しいって言えんのは私の欠点かもしれんな」

「大体強がりすぎやねん、お前……って寝とる」

ちょうどその時、タイミングがいいのか悪いのか、アキラがコチラに向かってきていた。

「マスター、なんか手伝えること、ある?あ、ユウタさん、来てたんですね、どうも」

「よ、アキラ。最近好調みたいじゃん」

「へへ、ありがとうございます。」

「うちで働けばいいのに」

「大学校卒業したらユウタさんに相談しようってこの前マスターと話してたところなんですけど大丈夫ですか?」

「なーんだ。お前ならいつでも歓迎だけどな」

「ほんまですか!?ありがとうございま……ってこの女の人大丈夫ですか!?」

気付かれとらんやんけ、、、。と小声で言いかけるマスター。 

「あーなんか潰れちまったらしくてな。俺が裏に一旦連れてくからお前は気にすんな、うん」

「……この人どっかで」

うーんと考え出すアキラはやはり色々鈍い。

「アキラ、お前は契約の話があるからちょっとこっちこい」

「え、あ、わかりました!」

ユウタに連れられて行くアキラはまるで子犬のようだった。

「……気ぃ効かせたつもりかいな」

そうボソッと呟くマスターはそっとフミにブランケットを掛ける。

「旦那以外の男に興味ないんも知っとるけど、ちいとは頼って甘えてくれよ、お前さん」

きっと一生実ることのない恋心をそっとマスターは心の中に仕舞い込んだのだった。
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