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恋とは。

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その晩の菊五郎は
自分の恋愛遍歴について
話してたでありんす。

愛した女性が
流行病で亡くなり
自暴自棄で
遊郭遊びを覚えたそうや。

「恋ってなんやろな。」

虚空を見つめて笑う彼は
儚げで消えてしまいそうやった。

「わっしは籠の中の鳥が長いで分からんです。わっちにとって恋は空想の中の世界。無縁です。恋の夢を見せるのがあっしの仕事ですからね。」

夢の無いことを言ってしまった。
そう思ったのに彼はそっとわっちを
抱き締めて言った。

「せやな。恋って夢物語かもしれんな。」

「夢物語で終わらせたくないでありんす。」

接客ではなくて本心から出た言葉。

その後菊五郎と吸い付けられるように
目と目が合い、口付けを交わした。
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