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17.リイロの部屋
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「優希さん、優希さん大丈夫……?」
「えっ」
どうやら泣いていたらしい。
俺の涙を拭ったリイロをぼーっと見つめていると、リイロは優しく俺の指を解いていく。
無意識に力強く握りこんだ指は、爪を手のひらに突き刺して少し血が出ていた。
「おれ……」
「はい」
「俺、梨花姉ちゃんのこと、助けてやれなくて。なんにも分かってなくて。この3年どれだけ苦しかったとか、何があったとか、ぜんぜん、ぜんぜん知らずに今まで生きてきて」
「はい」
「梨花姉ちゃんの代わりの花嫁だって言われてふざけんなとか言ってても、流されて、流され続けて結局イトナともせっ……体許しちゃうし」
「はい」
「梨花姉ちゃんがこんだけ頑張ってたのに……それなのに俺はっ」
「それは優希さんの責任じゃないですよね」
リイロが優しく俺の頭を撫でながら言う。
「優希さんが花嫁になったのも、梨花さんが3年間苦しんでいたのも、優希さんのせいじゃないです。それに、人生流されて生き方変えた方がいいこともありますしね。渡り鳥みたいに」
涙が止まらなくなってリイロの肩を借りる。
「優希さんは優希さんです。梨花さんと比較しなくていいんです。私達は梨花さんを助けてあげられなかった。だから梨花さんと気配の似ている優希さんをどうしても放っておけない。苦しんでる姿はもう見たくないんです」
リイロは、泣きやめない俺の頭をいつまでも優しく撫で続けてくれていた。
「ぐすっ。ごめんな。ありがとうリイロ。日記最後まで読めてよかった」
「私は何もしてませんよ~。すっきりしたならよかった。でも、優希さんいっぱい泣いてお腹空きましたよね。私が部屋でサンドイッチ作ってあげます!」
そう宣言して立ち上がると、リイロは俺をお姫様抱っこして持ち上げた。
「わっ!?えっ!?」
「このまま寮までひとっ飛びですよー!」
登る時そんな抱き方しなかったじゃん!?ちょ、ちょっと恥ずかしい……と思う間もなく、宣言通りそのまま飛び立つリイロ。
眼下には雄大な景色。
「わああああ高いいいいい」
思わずリイロの腕に縋り付く俺に、リイロは朗らかに笑った。
エレベーターの軽い到着音。これから向かうのはリイロの部屋である。
「部屋に人を招くのは初めてで緊張しますね!気に入ってもらえるといいな~。では優希さん、ようこそー!!」
両手と羽を大きく広げて歓迎してくれるリイロと共に部屋にお邪魔する。
リイロの家は、とてもカラフルだった。
南国調な一角ではオレンジや真っ青な鳥の羽根がいくつも額縁に入れて飾ってあり、ヤシの葉がカラフルなガラスをより集めたような花瓶に刺さっている。
かと思いきやその向かいの角は孔雀の羽根が扇形に広げられ、背後には草原と孔雀の目模様のカーテン。
あちこちに空の鳥籠が掛けられ、木でできたアクセサリーやガラスの器なんかが入ってたり一緒にかかっていたりする。
天井は1部空の色に塗られていたり、木組みから葉っぱが顔を覗かせていたりする。
一言で言うと、アーティスティックな部屋。
こだわりと好きがうまく配置されたセンス抜群の部屋だった。
「凄い……凄いよリイロ、めちゃくちゃセンスいいじゃん」
「へへ、やった褒めてもらっちゃった!すぐサンドイッチ作るのでそこらへんに座っててくださいね~!」
リビングには南国色のラグマットが敷かれ、ミニテーブルは組木模様。傍にはクッション。寄りかかると、さっき寝そべった羽布団を思い出すふかふか具合。
た、楽しい……
10分くらいクッションをまふまふしながら部屋を鑑賞していると、リイロがサンドイッチを持ってきて照れたように言った。
「優希さんが抱きしめてるクッション、私の換毛期に抜けた羽が入ってるんですよ」
なるほど道理で。
「お待たせしました!何の変哲もないサンドイッチですがどうぞ」
「いただきます!」
うまい!!!
食べ始めて、ようやく自分が空腹だったことに気がつく。泣くのって体力使うんだな。今まであんまり泣いた記憶とかなかったのに、こちらに来てから涙腺が弱まっているような気がする。
「ご馳走様でした!」
「お腹いっぱいになりました?」
「うん!ありがとうリイロ」
「いえいえ~。それじゃ、私の作品を紹介しましょう!着いてきてください!」
食後の腹ごなしかな?しかし作品と紹介されたのは、別の部屋だった。
「この部屋はよく寝室に使う部屋!夜と星がテーマです」
真っ黒な部屋の壁には藍色のカーテンがぐるっと囲んであり、床には柔らかい草原のようなラグマットが敷かれ部屋の中央には簡易プラネタリウムが置かれている。
「こっちの部屋は私の故郷に近い部屋!ホームシックで寂しい時に篭もります」
電球は夕陽のように赤く染められ、切り立った崖や枯れた木の絵が壁一面に描かれている。床は木組みの上に藁を敷いてある。
「最後の部屋は……調べて見よう見まねで、色々取り寄せたりして。ちょっと違うかもしれないんですけど」
不安そうに扉をガラガラと横に引く。
そこは、日本家屋だった。
確かに現代ではない。
囲炉裏なんてもう見ないし、なぜか掛け軸の下に急須が置いてあるし。
日本刀かと思いきや刀立てに置かれてるのは中国刀……?
欄間が嵌められてると思いきやその模様がやけにハワイアンだったり。
……最近はゴム畳しか見ないから、草の匂いのする畳なんでいつぶりだろう。
「うん、いい部屋だな」
50年に1度しか人間が来ないので文献がそもそも少ないんだろう。日本語が使われていると言っても日本文化そのもののはずがない。頑張って調べたんだろうな……たぶん、たぶんだけど、梨花のために。
この部屋には来なかった梨花のために。
「ありがとうリイロ」
「へへ……よかったです」
その日俺はようやく「日が暮れる前に帰る」というルーとの約束を果たしたのだった。
「えっ」
どうやら泣いていたらしい。
俺の涙を拭ったリイロをぼーっと見つめていると、リイロは優しく俺の指を解いていく。
無意識に力強く握りこんだ指は、爪を手のひらに突き刺して少し血が出ていた。
「おれ……」
「はい」
「俺、梨花姉ちゃんのこと、助けてやれなくて。なんにも分かってなくて。この3年どれだけ苦しかったとか、何があったとか、ぜんぜん、ぜんぜん知らずに今まで生きてきて」
「はい」
「梨花姉ちゃんの代わりの花嫁だって言われてふざけんなとか言ってても、流されて、流され続けて結局イトナともせっ……体許しちゃうし」
「はい」
「梨花姉ちゃんがこんだけ頑張ってたのに……それなのに俺はっ」
「それは優希さんの責任じゃないですよね」
リイロが優しく俺の頭を撫でながら言う。
「優希さんが花嫁になったのも、梨花さんが3年間苦しんでいたのも、優希さんのせいじゃないです。それに、人生流されて生き方変えた方がいいこともありますしね。渡り鳥みたいに」
涙が止まらなくなってリイロの肩を借りる。
「優希さんは優希さんです。梨花さんと比較しなくていいんです。私達は梨花さんを助けてあげられなかった。だから梨花さんと気配の似ている優希さんをどうしても放っておけない。苦しんでる姿はもう見たくないんです」
リイロは、泣きやめない俺の頭をいつまでも優しく撫で続けてくれていた。
「ぐすっ。ごめんな。ありがとうリイロ。日記最後まで読めてよかった」
「私は何もしてませんよ~。すっきりしたならよかった。でも、優希さんいっぱい泣いてお腹空きましたよね。私が部屋でサンドイッチ作ってあげます!」
そう宣言して立ち上がると、リイロは俺をお姫様抱っこして持ち上げた。
「わっ!?えっ!?」
「このまま寮までひとっ飛びですよー!」
登る時そんな抱き方しなかったじゃん!?ちょ、ちょっと恥ずかしい……と思う間もなく、宣言通りそのまま飛び立つリイロ。
眼下には雄大な景色。
「わああああ高いいいいい」
思わずリイロの腕に縋り付く俺に、リイロは朗らかに笑った。
エレベーターの軽い到着音。これから向かうのはリイロの部屋である。
「部屋に人を招くのは初めてで緊張しますね!気に入ってもらえるといいな~。では優希さん、ようこそー!!」
両手と羽を大きく広げて歓迎してくれるリイロと共に部屋にお邪魔する。
リイロの家は、とてもカラフルだった。
南国調な一角ではオレンジや真っ青な鳥の羽根がいくつも額縁に入れて飾ってあり、ヤシの葉がカラフルなガラスをより集めたような花瓶に刺さっている。
かと思いきやその向かいの角は孔雀の羽根が扇形に広げられ、背後には草原と孔雀の目模様のカーテン。
あちこちに空の鳥籠が掛けられ、木でできたアクセサリーやガラスの器なんかが入ってたり一緒にかかっていたりする。
天井は1部空の色に塗られていたり、木組みから葉っぱが顔を覗かせていたりする。
一言で言うと、アーティスティックな部屋。
こだわりと好きがうまく配置されたセンス抜群の部屋だった。
「凄い……凄いよリイロ、めちゃくちゃセンスいいじゃん」
「へへ、やった褒めてもらっちゃった!すぐサンドイッチ作るのでそこらへんに座っててくださいね~!」
リビングには南国色のラグマットが敷かれ、ミニテーブルは組木模様。傍にはクッション。寄りかかると、さっき寝そべった羽布団を思い出すふかふか具合。
た、楽しい……
10分くらいクッションをまふまふしながら部屋を鑑賞していると、リイロがサンドイッチを持ってきて照れたように言った。
「優希さんが抱きしめてるクッション、私の換毛期に抜けた羽が入ってるんですよ」
なるほど道理で。
「お待たせしました!何の変哲もないサンドイッチですがどうぞ」
「いただきます!」
うまい!!!
食べ始めて、ようやく自分が空腹だったことに気がつく。泣くのって体力使うんだな。今まであんまり泣いた記憶とかなかったのに、こちらに来てから涙腺が弱まっているような気がする。
「ご馳走様でした!」
「お腹いっぱいになりました?」
「うん!ありがとうリイロ」
「いえいえ~。それじゃ、私の作品を紹介しましょう!着いてきてください!」
食後の腹ごなしかな?しかし作品と紹介されたのは、別の部屋だった。
「この部屋はよく寝室に使う部屋!夜と星がテーマです」
真っ黒な部屋の壁には藍色のカーテンがぐるっと囲んであり、床には柔らかい草原のようなラグマットが敷かれ部屋の中央には簡易プラネタリウムが置かれている。
「こっちの部屋は私の故郷に近い部屋!ホームシックで寂しい時に篭もります」
電球は夕陽のように赤く染められ、切り立った崖や枯れた木の絵が壁一面に描かれている。床は木組みの上に藁を敷いてある。
「最後の部屋は……調べて見よう見まねで、色々取り寄せたりして。ちょっと違うかもしれないんですけど」
不安そうに扉をガラガラと横に引く。
そこは、日本家屋だった。
確かに現代ではない。
囲炉裏なんてもう見ないし、なぜか掛け軸の下に急須が置いてあるし。
日本刀かと思いきや刀立てに置かれてるのは中国刀……?
欄間が嵌められてると思いきやその模様がやけにハワイアンだったり。
……最近はゴム畳しか見ないから、草の匂いのする畳なんでいつぶりだろう。
「うん、いい部屋だな」
50年に1度しか人間が来ないので文献がそもそも少ないんだろう。日本語が使われていると言っても日本文化そのもののはずがない。頑張って調べたんだろうな……たぶん、たぶんだけど、梨花のために。
この部屋には来なかった梨花のために。
「ありがとうリイロ」
「へへ……よかったです」
その日俺はようやく「日が暮れる前に帰る」というルーとの約束を果たしたのだった。
応援ありがとうございます!
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