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すれ違いの夜
暗がりに咲く花
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囲まれてる。まったく気づかなかった。森に入っていたのはリリさんだけじゃなかった。村の大人たちもいた。何人いるんだろう。十人? 二十人? たくさんいる。
ぐるりと八方にともるランプがジリジリと、圧迫するように近づいてくる。その視線には敵意もまじっていた。私に対してではなく、村人ではないハカセさんに対して。
そして、私たちが照らされるくらいにまで距離が縮まると、ハカセさんの異様をみんな気づいていく。
……心珠がない。
その言葉が引き金となり、大人たちはみんなざわつき始める。リリさんも驚いているようだった。エルフでもなければドワーフでもない、人間以外の生き物である可能性が否定されると、大人もリリさんも警戒心を強めていった。
「リリさん、どうしてここに」
「それはこっちのセリフですわチカさん。最終日は一緒に飛行船を見送ろうって約束したのに帰っちゃうんですもの。ウィルさんと一緒にいるあなたを見つけて、でもすぐに別れちゃうものですから、あとを追ってみたら……」
約、束? そう言われて思い出す。飛行船でクローバー船長とのお話が終わったあと、竜を待っているときにリリさんがそんなことを言っていた。耳には入っていたのに、完全に忘れていた。ここを知られたのは私のせい。
そんな……うしろをふり返ったときは誰もいなかったはずなのに。
「妖精の森に入っていくチカさんを見て、私はすぐに人を集めましたの。入り口には目印らしきチョークのあとがありましたから、それをたどってきたのですわ。なんにしても、あなたを見つけられてよかった」
リリさんはすぐに森に入らなかった。万が一にそなえて大人に声をかけのだという。
「もう一度言いますわ。そこのあなた、今すぐチカさんから離れなさい!」
その号令とともに、大人たちは一歩一歩足を進めてくる。私を助けるために。
手にはシャベルや鍬、鎌などの農具のほか猟銃まで持ち出している人もいる。
あれで脅して私たちを引き離すつもりだ。当然だろう。なにも知らない人なら、ハカセさんが私に暴力をふるおうとしてるように見えてしまうかもしれない。
「ご、誤解よリリさん! この人はムグッ」
口元を抑えられる。ハカセさんの手だ。これじゃあ声をだすことができない。
どうしてこんなこと。
「離れて。この子。……近づくと。この子。痛い思い。する」
「くっ、卑劣ですわね。恥を知りなさい! 薄気味悪いしゃべり方までして、こんな人が村の近くに住んでたなんて」
大人たちは足を止めたけど、もう言い訳の余地がない。このままだと村の子供を人質にした男として、みんなから責められるだけだ。どうにか……どうにかしてみんなの誤解を解かなきゃいけないのに。
「待って。お願い、話を聞いて! ちょっと私たちで意見の食い違いがあっただけなの。村長さんはいないの? この人は村長さんの知り合いなの! 確認をとってもらったらわかるから、少しだけ話を聞いて!」
「よ、妖精!? 森には妖精が戻ってたんですの?」
ココネが前にでる。小さい体なせいか、大人たちも今その存在に気づいたようだった。
そうだ。村長さんだ。村長さんがいればこの事態を治めることができるかもしれない。村長さんじゃなくても、他にハカセさんを知ってる人が村にはいる。そんな人が一人でもここにいてくれたなら。勝手に森に入ったことを謝らなきゃいけないけど、みんな誤解したままじゃあハカセさんとココネが村から追い出されかねないから。
「お、お父様は飛行船の離陸の準備に行ってますわ。ここには手の空いている人を集めただけですし。でも、お父様がそこの暴漢と知り合いですって? そんなの信じられませんわ。あなたも仲間ですの?」
当然ながらリリさんは事情を知らない。そして、大人たちの反応を見るに、この場にはハカセさんを知る人は誰もいないみたいだった。
「ハ、ハカセは私の大切な人よ。悪いことはしないから、みんな落ち着いて」
「よくもそんなトンチキなことが言えますわね。私の友人が人質になってますのよ。見逃せるわけないでしょう? それに妖精はウソつきと聞いていますわ。デタラメ言って私たちを騙すつもりですわね」
「そ、そんなこと……」
ダメだ。リリさんも村の人たちも聞く耳を持ってくれない。妖精はウソつきという教えが障害になってて、村長さんと知り合いだと言っても信じてくれなかった。
「聞いて! お願い! ハカセと村長さんは何年も前から知り合いで、ここに住まわせてもらってたの。私はそのときにハカセの魔法で造られた存在で、妖精だけど妖精じゃないっていうか……チカとは友達なの。でも、ちょっとケンカになっちゃっただけで」
ココネは必死に状況を説明してくれた。
私と知り合った経緯とか、服の中に忍び込んで村で過ごしたこととか。
そのほか、たくさんの出来事を話した。
ウィルと一緒に森に入ったこと。
狼に襲われたこと。
舞空祭の開会式を見たこと。
クローバー船長と話したこと。
全てを詳細には語れないけれど、私との時間をできうる限り伝えていた。
でも。
「チカさんを騙していたんですの? ウィルさんも巻き込もうとして……そこの男とグルならあなたもあなたですわね」
「ち、ちが……」
妖精の言葉は全てウソだと認識されてしまう。なにを言ってもみんなを止められそうになかった。話が通じない。もどかしい気持ちで胸がいっぱいになる。
それでもココネは諦めなかった。大人たちに向かって飛び回り、何度も説得を続ける。
「お願い、みんな聞いて! ハカセは悪い人じゃないの! ウソじゃない! 事情があったの! こんなふうに誤解されたくなかったから、今まで出てこれな……キャッ」
あ、危ない。ココネのそばを鍬が通過した。
あんなのに当たったら、ケガじゃすまなくなる。
リリさん同様、妖精であるココネの言葉は大人たちも聞いてくれない。
みんなの心珠にはとある花が咲いて私たちを威嚇していた。
アンチューサ──「あなたを信じられない」。
ハカセさんが船をおりるキッカケとなった花と同じもの。
ぐるりと八方にともるランプがジリジリと、圧迫するように近づいてくる。その視線には敵意もまじっていた。私に対してではなく、村人ではないハカセさんに対して。
そして、私たちが照らされるくらいにまで距離が縮まると、ハカセさんの異様をみんな気づいていく。
……心珠がない。
その言葉が引き金となり、大人たちはみんなざわつき始める。リリさんも驚いているようだった。エルフでもなければドワーフでもない、人間以外の生き物である可能性が否定されると、大人もリリさんも警戒心を強めていった。
「リリさん、どうしてここに」
「それはこっちのセリフですわチカさん。最終日は一緒に飛行船を見送ろうって約束したのに帰っちゃうんですもの。ウィルさんと一緒にいるあなたを見つけて、でもすぐに別れちゃうものですから、あとを追ってみたら……」
約、束? そう言われて思い出す。飛行船でクローバー船長とのお話が終わったあと、竜を待っているときにリリさんがそんなことを言っていた。耳には入っていたのに、完全に忘れていた。ここを知られたのは私のせい。
そんな……うしろをふり返ったときは誰もいなかったはずなのに。
「妖精の森に入っていくチカさんを見て、私はすぐに人を集めましたの。入り口には目印らしきチョークのあとがありましたから、それをたどってきたのですわ。なんにしても、あなたを見つけられてよかった」
リリさんはすぐに森に入らなかった。万が一にそなえて大人に声をかけのだという。
「もう一度言いますわ。そこのあなた、今すぐチカさんから離れなさい!」
その号令とともに、大人たちは一歩一歩足を進めてくる。私を助けるために。
手にはシャベルや鍬、鎌などの農具のほか猟銃まで持ち出している人もいる。
あれで脅して私たちを引き離すつもりだ。当然だろう。なにも知らない人なら、ハカセさんが私に暴力をふるおうとしてるように見えてしまうかもしれない。
「ご、誤解よリリさん! この人はムグッ」
口元を抑えられる。ハカセさんの手だ。これじゃあ声をだすことができない。
どうしてこんなこと。
「離れて。この子。……近づくと。この子。痛い思い。する」
「くっ、卑劣ですわね。恥を知りなさい! 薄気味悪いしゃべり方までして、こんな人が村の近くに住んでたなんて」
大人たちは足を止めたけど、もう言い訳の余地がない。このままだと村の子供を人質にした男として、みんなから責められるだけだ。どうにか……どうにかしてみんなの誤解を解かなきゃいけないのに。
「待って。お願い、話を聞いて! ちょっと私たちで意見の食い違いがあっただけなの。村長さんはいないの? この人は村長さんの知り合いなの! 確認をとってもらったらわかるから、少しだけ話を聞いて!」
「よ、妖精!? 森には妖精が戻ってたんですの?」
ココネが前にでる。小さい体なせいか、大人たちも今その存在に気づいたようだった。
そうだ。村長さんだ。村長さんがいればこの事態を治めることができるかもしれない。村長さんじゃなくても、他にハカセさんを知ってる人が村にはいる。そんな人が一人でもここにいてくれたなら。勝手に森に入ったことを謝らなきゃいけないけど、みんな誤解したままじゃあハカセさんとココネが村から追い出されかねないから。
「お、お父様は飛行船の離陸の準備に行ってますわ。ここには手の空いている人を集めただけですし。でも、お父様がそこの暴漢と知り合いですって? そんなの信じられませんわ。あなたも仲間ですの?」
当然ながらリリさんは事情を知らない。そして、大人たちの反応を見るに、この場にはハカセさんを知る人は誰もいないみたいだった。
「ハ、ハカセは私の大切な人よ。悪いことはしないから、みんな落ち着いて」
「よくもそんなトンチキなことが言えますわね。私の友人が人質になってますのよ。見逃せるわけないでしょう? それに妖精はウソつきと聞いていますわ。デタラメ言って私たちを騙すつもりですわね」
「そ、そんなこと……」
ダメだ。リリさんも村の人たちも聞く耳を持ってくれない。妖精はウソつきという教えが障害になってて、村長さんと知り合いだと言っても信じてくれなかった。
「聞いて! お願い! ハカセと村長さんは何年も前から知り合いで、ここに住まわせてもらってたの。私はそのときにハカセの魔法で造られた存在で、妖精だけど妖精じゃないっていうか……チカとは友達なの。でも、ちょっとケンカになっちゃっただけで」
ココネは必死に状況を説明してくれた。
私と知り合った経緯とか、服の中に忍び込んで村で過ごしたこととか。
そのほか、たくさんの出来事を話した。
ウィルと一緒に森に入ったこと。
狼に襲われたこと。
舞空祭の開会式を見たこと。
クローバー船長と話したこと。
全てを詳細には語れないけれど、私との時間をできうる限り伝えていた。
でも。
「チカさんを騙していたんですの? ウィルさんも巻き込もうとして……そこの男とグルならあなたもあなたですわね」
「ち、ちが……」
妖精の言葉は全てウソだと認識されてしまう。なにを言ってもみんなを止められそうになかった。話が通じない。もどかしい気持ちで胸がいっぱいになる。
それでもココネは諦めなかった。大人たちに向かって飛び回り、何度も説得を続ける。
「お願い、みんな聞いて! ハカセは悪い人じゃないの! ウソじゃない! 事情があったの! こんなふうに誤解されたくなかったから、今まで出てこれな……キャッ」
あ、危ない。ココネのそばを鍬が通過した。
あんなのに当たったら、ケガじゃすまなくなる。
リリさん同様、妖精であるココネの言葉は大人たちも聞いてくれない。
みんなの心珠にはとある花が咲いて私たちを威嚇していた。
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ハカセさんが船をおりるキッカケとなった花と同じもの。
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