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第一章 追放対策
第二十八話
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徹也とシャーロットは、二人で一つの本を運び終えた。運んできた時、舞が頬を膨らませていたのは余談である。
「ふう……。重かった……」
「……お疲れ様。それで、どこを確かめたいの?」
「ああ……。王都周辺の地図が見たいんだ」
治伽の問に徹也はそう答えた。徹也の返事を聞いた治伽は、その本を開いて目次を見る。そして、王都周辺の地図が載っているページを確認し、そのページまで移動した。
「ここね。どこか、おかしいところでもあるの?」
「……あった。ほら、これだ」
徹也が指さした場所は、先程のヴァンの説明の時には書かれていなかった森の先の部分だった。そこには森のマークはなく、代わりに急な傾斜が書かれてあった。
「……何?この傾斜は……」
「……恐らく、ここは崖だ」
「え?が、崖?ど、どういうこと?徹也君」
治伽の疑問に、徹也がそう答えた。その徹也の答えに、舞が更に疑問を投げかける。だが、その時にそのやり取りを見ていたシャーロットが、徹也達にこう言った。
「……え?て、徹也様……。もしかして、魔物狩りはここでするのですか……?」
「いや、団長の話によると、この近くまで行くらしい。……シャーロットは、この崖がどんなところか知ってるのか?」
シャーロットの問に、徹也はそう答えた。そして、徹也はシャーロットに質問を返した。
シャーロットはそんな徹也の質問を聞いて、少し呆気にとられたが、動揺しながらも徹也に答えを返す。
「……その崖は、上から見ると底が見えない程深い崖です。そのさまから、ヘルクリフと呼ばれています……」
「地獄の崖……か。その崖の底は、どうなってるんだ?」
「……正確なことは分かっていませんが、最上位の魔物がいるとも、勇者様と賢者様の遺産があるとも言われています」
「なるほどな……」
シャーロットの説明を聞いた徹也は、シャーロットに返事を返して考え込んだ。
シャーロットが言うことを加味すると、落ちたらまず死ぬと思った方がいい。だが、ヴァンからすると絶好のポイントでしかないだろう。ここなら、事故に見せかけて落とすことができるからである。問題は、どういう風に落としてくるか、だ。
(……傾向から考えるんだ。まず、先生や他の生徒達には落とす場面は見られたくないはず。なぜなら、これからも協力していきたい人達だから。その事実で戦意をなくされても困るし、事故として処理したいはずだ。そう考えると、魔物を使ってくるのは間違いない)
その上で、自分にできる対策は何か。徹也は考え続けた。
自分一人でできることは、たかがしれている。だからこそ徹也は、味方にできる人を知りたいと思った。
「……シャーロット。騎士団団長と仲が悪い人とか、知らないか?」
「……え?と、唐突ですね……。な、仲が悪いのかどうかは分かりませんが、派閥はあります」
「……詳しく聞かせてくれ」
「は、はい……。騎士団、というかこの国の貴族は主に二つの派閥に分けられています。ルーカス派とスカーレット派です。ルーカス派には昔から続く貴族家、スカーレット派には最近頭角を現し始めた貴族達が多いです」
シャーロットのその言葉に、徹也だけでなく今まで黙って聞いていた治伽と舞も驚く。ルーカスもスカーレットも、聞いたことがある名前だったからだ。
「ルーカスとスカーレットって……。ヴァン団長と、クリス副団長のこと、なの?」
「……それしか考えられないわね。でも、なぜその二人なの?大臣でもないのに……」
「いえ、その……お二人には兄がいまして、その二人が大臣なのです」
「……王は、どっち派なんだ?」
徹也はシャーロットにそう聞いた。徹也にとって、これは重要なことだ。王がルーカス派なら、更に徹也達が追い出される確率が上がる。また、王がスカーレット派ならまだ可能性があることになる。
「お父様は、どちら派とは公言しておりませんし、分かりません。ですが、私から見ると、どちらかといえばお父様はルーカス派だと思います……」
「そうか……」
徹也はシャーロットの言葉を聞いて息を吐いた。薄々分かってはいたが、また自分達が追放される確率が上がってしまったことになる。
これで、王には頼れないことが分かった。だが、いい知らせもあった。それは、スカーレット派という派閥が存在することだ。
(……スカーレット派なら、もしかすると俺達の力になってくれるかもしれない。幸い、クリスさんとは話したこともある)
もし、自分達をこっそり落としにくるのなら、自分達だけでは対策が難しいと、徹也は考えていた。孤立されては、もう成すすべがない。だが、他の生徒達は頼れない。皆、自分のことで一杯一杯なのだ。
もうすでに、先生を頼らざるを得ない状況まできていると、徹也は感じていた。それでも足りないのだ。だからこそ、スカーレット派の力は是非とも欲しい。
「……徹也君。どういうこと、なの?ちょっと、私と舞は理解が追いついていないのだけど……」
「そ、そうだよ!説明してよ!」
治伽と舞が徹也にそう聞いた。さっきから、徹也とシャーロットの話についていけず、置いてけぼりなのだ。
徹也は考えを一旦中断し、治伽と舞の説明を開始した。徹也としても、対策のために治伽と舞に分かっておいてほしかったのだ。
「……多分だが、俺達は魔物狩りの時にこの崖、ヘルクリフに落とされることになる。それがルーカス派にとって都合がいいからだ」
「「……え?」」
「……そう。そういうことなの」
徹也の説明を聞いて、舞とシャーロットは驚いてそんな反応しかできなかったが、治伽は驚きはしたものの、狼狽えることはなく徹也の言葉を受け止めていた。
徹也は三人が自分の話を聞けるようになってから、続きを話し始める。
「……正直、今のままじゃ対策のしようがない。協力してくれる人が必要だ」
「……先生に頼るの?」
「……ああ。これは、仕方ないことだと思う……。でも、それでも足りない」
「……だから、スカーレット派を頼る。そういうこと、ですか?」
シャーロットの質問に、徹也は頷いて答える。シャーロットは未だ徹也達がヘルクリフに落とされるかもしれないという事実に困惑しているが、辛うじて話についてこれていた。
「今の所、それが最善だと思う。……シャーロット。悪いが、このことは……」
「……分かっています。お父様達には、絶対に言いません」
「……頼む。治伽、舞。俺達はクリスさんのところに――」
「……それは明日にしましょう。もう、夕食の時間が近づいてるわ」
徹也が治伽に言われて時計を見ると、もう夕食の時間まで時間がなかった。徹也は視線を治伽の方に戻して頷く。
「……そうだな。分かった。今日はここまでにしよう。……じゃあ、ありがとな。シャーロット。また」
「……はい。どうか、どうか、ご無事でっ……!」
シャーロットの必死の訴えに、徹也は力強く頷いて答えた。そして、徹也は治伽と舞を連れて書庫から出て歩き出す。
しばらく歩くと、舞が徹也の手を握った。徹也が驚いて舞の方を見ると、舞は涙目で徹也を見ていた。
「手を、握りたいの。駄目、かな……?」
舞はそう、涙目で徹也に訴えた。徹也はそんな舞を見て、息を飲んだ。
怖かったのだろう。崖に落とされるなどと言われたら、そうなるのも仕方ない。そう思った徹也は、舞に語りかける。
「……ああ。俺の手でいいなら、いくらでも握ってくれていい」
「……うん。ありがとう」
舞は徹也にそう礼を言うと、徹也の手をギュッと握った。徹也は舞と距離が近くなって少し照れつつも、舞と手を握ったまま歩き続ける。
すると、それを見ていた治伽が、舞が握っている手とは逆の腕の裾を掴んだ。徹也はそんな治伽の行動に驚き治伽の方を見たが、その治伽の顔を見てなにも言わなかった。
治伽の顔は、泣きそうな顔だった。説明の時は納得しているような反応をしていたが、やはり納得などできていなかったのだ。何故、自分達だけが。このような思いが、溢れて止まないのだろう。
徹也はそれを察したからこそ、何も言わなかった。なぜなら、徹也も同じようなことを感じてはいたからだ。自分達だけ。その思いは徹也にもあった。だが、そんなことを考える暇は、徹也にはない。それは、治伽と舞も同様だ。この異世界で、生き抜くために。
(……だが、今だけ。今だけは、思わせてほしい……)
何故、自分達だけが、こんな目にあっているのか。徹也達は同じことを思いながら、繋がったまま足を動かし続けた。
「ふう……。重かった……」
「……お疲れ様。それで、どこを確かめたいの?」
「ああ……。王都周辺の地図が見たいんだ」
治伽の問に徹也はそう答えた。徹也の返事を聞いた治伽は、その本を開いて目次を見る。そして、王都周辺の地図が載っているページを確認し、そのページまで移動した。
「ここね。どこか、おかしいところでもあるの?」
「……あった。ほら、これだ」
徹也が指さした場所は、先程のヴァンの説明の時には書かれていなかった森の先の部分だった。そこには森のマークはなく、代わりに急な傾斜が書かれてあった。
「……何?この傾斜は……」
「……恐らく、ここは崖だ」
「え?が、崖?ど、どういうこと?徹也君」
治伽の疑問に、徹也がそう答えた。その徹也の答えに、舞が更に疑問を投げかける。だが、その時にそのやり取りを見ていたシャーロットが、徹也達にこう言った。
「……え?て、徹也様……。もしかして、魔物狩りはここでするのですか……?」
「いや、団長の話によると、この近くまで行くらしい。……シャーロットは、この崖がどんなところか知ってるのか?」
シャーロットの問に、徹也はそう答えた。そして、徹也はシャーロットに質問を返した。
シャーロットはそんな徹也の質問を聞いて、少し呆気にとられたが、動揺しながらも徹也に答えを返す。
「……その崖は、上から見ると底が見えない程深い崖です。そのさまから、ヘルクリフと呼ばれています……」
「地獄の崖……か。その崖の底は、どうなってるんだ?」
「……正確なことは分かっていませんが、最上位の魔物がいるとも、勇者様と賢者様の遺産があるとも言われています」
「なるほどな……」
シャーロットの説明を聞いた徹也は、シャーロットに返事を返して考え込んだ。
シャーロットが言うことを加味すると、落ちたらまず死ぬと思った方がいい。だが、ヴァンからすると絶好のポイントでしかないだろう。ここなら、事故に見せかけて落とすことができるからである。問題は、どういう風に落としてくるか、だ。
(……傾向から考えるんだ。まず、先生や他の生徒達には落とす場面は見られたくないはず。なぜなら、これからも協力していきたい人達だから。その事実で戦意をなくされても困るし、事故として処理したいはずだ。そう考えると、魔物を使ってくるのは間違いない)
その上で、自分にできる対策は何か。徹也は考え続けた。
自分一人でできることは、たかがしれている。だからこそ徹也は、味方にできる人を知りたいと思った。
「……シャーロット。騎士団団長と仲が悪い人とか、知らないか?」
「……え?と、唐突ですね……。な、仲が悪いのかどうかは分かりませんが、派閥はあります」
「……詳しく聞かせてくれ」
「は、はい……。騎士団、というかこの国の貴族は主に二つの派閥に分けられています。ルーカス派とスカーレット派です。ルーカス派には昔から続く貴族家、スカーレット派には最近頭角を現し始めた貴族達が多いです」
シャーロットのその言葉に、徹也だけでなく今まで黙って聞いていた治伽と舞も驚く。ルーカスもスカーレットも、聞いたことがある名前だったからだ。
「ルーカスとスカーレットって……。ヴァン団長と、クリス副団長のこと、なの?」
「……それしか考えられないわね。でも、なぜその二人なの?大臣でもないのに……」
「いえ、その……お二人には兄がいまして、その二人が大臣なのです」
「……王は、どっち派なんだ?」
徹也はシャーロットにそう聞いた。徹也にとって、これは重要なことだ。王がルーカス派なら、更に徹也達が追い出される確率が上がる。また、王がスカーレット派ならまだ可能性があることになる。
「お父様は、どちら派とは公言しておりませんし、分かりません。ですが、私から見ると、どちらかといえばお父様はルーカス派だと思います……」
「そうか……」
徹也はシャーロットの言葉を聞いて息を吐いた。薄々分かってはいたが、また自分達が追放される確率が上がってしまったことになる。
これで、王には頼れないことが分かった。だが、いい知らせもあった。それは、スカーレット派という派閥が存在することだ。
(……スカーレット派なら、もしかすると俺達の力になってくれるかもしれない。幸い、クリスさんとは話したこともある)
もし、自分達をこっそり落としにくるのなら、自分達だけでは対策が難しいと、徹也は考えていた。孤立されては、もう成すすべがない。だが、他の生徒達は頼れない。皆、自分のことで一杯一杯なのだ。
もうすでに、先生を頼らざるを得ない状況まできていると、徹也は感じていた。それでも足りないのだ。だからこそ、スカーレット派の力は是非とも欲しい。
「……徹也君。どういうこと、なの?ちょっと、私と舞は理解が追いついていないのだけど……」
「そ、そうだよ!説明してよ!」
治伽と舞が徹也にそう聞いた。さっきから、徹也とシャーロットの話についていけず、置いてけぼりなのだ。
徹也は考えを一旦中断し、治伽と舞の説明を開始した。徹也としても、対策のために治伽と舞に分かっておいてほしかったのだ。
「……多分だが、俺達は魔物狩りの時にこの崖、ヘルクリフに落とされることになる。それがルーカス派にとって都合がいいからだ」
「「……え?」」
「……そう。そういうことなの」
徹也の説明を聞いて、舞とシャーロットは驚いてそんな反応しかできなかったが、治伽は驚きはしたものの、狼狽えることはなく徹也の言葉を受け止めていた。
徹也は三人が自分の話を聞けるようになってから、続きを話し始める。
「……正直、今のままじゃ対策のしようがない。協力してくれる人が必要だ」
「……先生に頼るの?」
「……ああ。これは、仕方ないことだと思う……。でも、それでも足りない」
「……だから、スカーレット派を頼る。そういうこと、ですか?」
シャーロットの質問に、徹也は頷いて答える。シャーロットは未だ徹也達がヘルクリフに落とされるかもしれないという事実に困惑しているが、辛うじて話についてこれていた。
「今の所、それが最善だと思う。……シャーロット。悪いが、このことは……」
「……分かっています。お父様達には、絶対に言いません」
「……頼む。治伽、舞。俺達はクリスさんのところに――」
「……それは明日にしましょう。もう、夕食の時間が近づいてるわ」
徹也が治伽に言われて時計を見ると、もう夕食の時間まで時間がなかった。徹也は視線を治伽の方に戻して頷く。
「……そうだな。分かった。今日はここまでにしよう。……じゃあ、ありがとな。シャーロット。また」
「……はい。どうか、どうか、ご無事でっ……!」
シャーロットの必死の訴えに、徹也は力強く頷いて答えた。そして、徹也は治伽と舞を連れて書庫から出て歩き出す。
しばらく歩くと、舞が徹也の手を握った。徹也が驚いて舞の方を見ると、舞は涙目で徹也を見ていた。
「手を、握りたいの。駄目、かな……?」
舞はそう、涙目で徹也に訴えた。徹也はそんな舞を見て、息を飲んだ。
怖かったのだろう。崖に落とされるなどと言われたら、そうなるのも仕方ない。そう思った徹也は、舞に語りかける。
「……ああ。俺の手でいいなら、いくらでも握ってくれていい」
「……うん。ありがとう」
舞は徹也にそう礼を言うと、徹也の手をギュッと握った。徹也は舞と距離が近くなって少し照れつつも、舞と手を握ったまま歩き続ける。
すると、それを見ていた治伽が、舞が握っている手とは逆の腕の裾を掴んだ。徹也はそんな治伽の行動に驚き治伽の方を見たが、その治伽の顔を見てなにも言わなかった。
治伽の顔は、泣きそうな顔だった。説明の時は納得しているような反応をしていたが、やはり納得などできていなかったのだ。何故、自分達だけが。このような思いが、溢れて止まないのだろう。
徹也はそれを察したからこそ、何も言わなかった。なぜなら、徹也も同じようなことを感じてはいたからだ。自分達だけ。その思いは徹也にもあった。だが、そんなことを考える暇は、徹也にはない。それは、治伽と舞も同様だ。この異世界で、生き抜くために。
(……だが、今だけ。今だけは、思わせてほしい……)
何故、自分達だけが、こんな目にあっているのか。徹也達は同じことを思いながら、繋がったまま足を動かし続けた。
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