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第一章 入学編
入学編第五話 帰宅
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ミリアよりも先に教室を出ていたラノハは、すでに校門前に着いていた。
本来なら、このまま一人で先に帰ってしまうのだが、ミリアのこともあり、先に帰ることはなく、校門前近くの壁にもたれかかってミリアが来るのを待っている。
「……遅い……。何してんだあいつは……」
ラノハがこの校門前に着いてから、約五分が経過している。
五分という時間は普通に考えれば微々たるものだが、一分一秒無駄にしたくない、できないラノハにとっては、少し長く感じたようだ。
ラノハが待ちきれず校門の方を覗いてみると、校舎の方から走ってくるミリアの姿が見えた。
「はあ……はあ……。ご、ごめんねラノハ。待たせちゃった?」
「ああ。結構待ったぞ。何話してたんだよ」
「え?う、ううん。大したことないよ。ほら、早く帰ろ?」
「お、おう……」
ミリアはこれ以上ラノハに聞かれることのないように、早く帰ることを提案した。
ラノハはそんなミリアに困惑しつつも、早く帰りたいこと自体には異論がなかったので、ミリアと共に帰路につく。
しばらく無言で歩き続けていたが、ふとラノハがミリアに話しかけた。
「……なあ」
「うん?どうしたの?」
「……お前も、俺が出来損ないだと思うか?」
ラノハは、そうミリアに問いかけた。
ラノハも心のどこかで思っていたのだろう。
自分が聖装竜機を動かせない理由が、本当にそういう理由なのではないかと。
なぜなら、ラノハの考えの中ではそれ以外に可能性が見つからないからだ。
このようにラノハが面と向かって弱みを見せるのは、十年間共に過ごしてきたミリアでも初めてのことだった。
ミリアはその事実に驚きつつも、ラノハに対して言葉を返す。
「そんなわけないじゃん。ラノハは絶対に出来損ないなんかじゃないよ。だって、あんなにも頑張ってたでしょ?」
「なっ!?なんで知って……!?」
「そりゃあ知ってるよ。同じ家に住んでるんだからさ。大丈夫。ラノハはすごいよ。他の人がどれだけラノハを馬鹿にしようと、私は知ってるから」
「……じゃあ、なんで動かせないんだ……?俺には、何が足りないんだ……?」
「うーん……。多分だけど、ラノハは怖がってるんだと思うよ」
「は?何にだよ?」
「えっと、それは――」
「なんだ?今帰りか?」
とても間が悪いところで、ある男がラノハとミリアに話しかけてきた。
ラノハとミリアが振り返ると、そこにいたのはこの国で知らないものはおらず、二人にとっては馴染み深き人物だった。
「お父さん!お父さんも今帰り?」
「ああ。買い物の帰りでな。お前たちの姿が見えたから、こうして声をかけたわけだ」
「そっか。あ、お父さん。帰ったらラノハと一緒に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「別に構わないが、家の中でな。ほら、入るぞ」
話しながら歩いていると、もうすでにミリアの家の前に着いていた。
その家は、まさに豪邸と呼ぶにふさわしいものだった。
これぐらいの豪邸ともなると、メイドや執事などの者たちが大勢いそうなものだ。
ミリアの父はポケットから鍵を取り出し、その鍵を使って豪邸である自宅の玄関を開ける。
すると、その扉の先にメイド四名と執事二名が立っていた。
そのメイドたちは寸分の狂いもなく、一斉に頭を下げてこう言った。
「「「「おかえりなさいませ。ご主人様、ミリアお嬢様、ラノハ坊ちゃま」」」」
「ああ。只今戻った」
「ただいまです!」
「……」
ミリアの父とミリアはただいまと言ったが、ラノハは何も言わずペコリと頭を下げた。
これもまた、いつものことだ。ラノハはここに来てから、この家に帰ってきた時に『ただいま』という言葉を言ったことがない。
ミリアはそのことを少し不満に思い、ラノハになぜなのかを問いかけた。
ミリアが普段は聞かないようにしていることを聞いてしまったのは、今日の学校での出来事が尾を引いているのだろう。
「ねえ、そろそろ『ただいま』って言ったら?ここはもうラノハの家でもあるんだよ?」
「……いや、言わない」
「……まだ、ここを自分の家だと思えない?」
「……そんなことはない。流石に、十年もここに住んでるからもう自宅だと思えてきてる」
「なら……!」
「でも、俺が『ただいま』を言うべきところは、もう決まってるんだ。そこに帰るまで、俺は『ただいま』なんて言葉は言えない。……これは、俺の意地だ」
ラノハはミリアに向かって、力強くそう言った。それは、ラノハの並々ならぬ思いが乗った言葉であった。
それを聞いてミリアは、少し間を空けてこう返した。
「……そっか。じゃあ、もう何も言わない。……ごめんねラノハ」
「いや……大丈夫だ」
ミリアにも、思うところがあったのだろう。ラノハの過去を知っているのなら、簡単に想像することができる内容であった。
このことに気づいたミリアは、ラノハに対して申し訳ない気持ちになって謝った。
なぜなら、ラノハにとってとても辛い過去を思い出させてしまったかもしれないからだ。
現にラノハとミリアの間には、気まずい空気が流れている。
その空気を破ったのは、ミリアの父であった。
「……ラノハもミリアも、私と話したいことがあるのだろう?このまま私の部屋まで行くとしよう」
「……うん」
「……はい」
「ご主人様。お荷物、お持ちします」
「ミリアお嬢様とラノハ坊ちゃまのお荷物も、私共に」
ミリアの父がラノハとミリアを連れて自分の部屋に向かおうとすると、メイドたちと執事たちが荷物を持つと言ってきた。
ミリアの父は断ること無く、それに応じる。
「ありがとう。ラノハとミリアの荷物はそれぞれの部屋に持っていってくれ」
「「「「かしこまりました。ご主人様」」」」
メイドたちはこれまた統率された一糸乱れぬ動きで頭を下げた。
それに続いて執事の中のひとりが、ミリアの父に話しかける。
「では、私共は紅茶を用意いたします。お部屋にてお待ち下さい。ミリアお嬢様とラノハ坊ちゃまの分も必要でしょうか?」
「ああ。頼む」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「……ありがとうございます」
ラノハとミリアは、メイドたちと執事たちに頭を下げて感謝の言葉を述べた。
メイドと執事たちもまた、頭を下げてこれに応じる。
「では、行こうか」
「うん」
「……はい」
ミリアの父の言葉にうなずいたラノハとミリアは、自分の部屋に向かって歩き始めたミリアの父の後を追って歩き始めた。
本来なら、このまま一人で先に帰ってしまうのだが、ミリアのこともあり、先に帰ることはなく、校門前近くの壁にもたれかかってミリアが来るのを待っている。
「……遅い……。何してんだあいつは……」
ラノハがこの校門前に着いてから、約五分が経過している。
五分という時間は普通に考えれば微々たるものだが、一分一秒無駄にしたくない、できないラノハにとっては、少し長く感じたようだ。
ラノハが待ちきれず校門の方を覗いてみると、校舎の方から走ってくるミリアの姿が見えた。
「はあ……はあ……。ご、ごめんねラノハ。待たせちゃった?」
「ああ。結構待ったぞ。何話してたんだよ」
「え?う、ううん。大したことないよ。ほら、早く帰ろ?」
「お、おう……」
ミリアはこれ以上ラノハに聞かれることのないように、早く帰ることを提案した。
ラノハはそんなミリアに困惑しつつも、早く帰りたいこと自体には異論がなかったので、ミリアと共に帰路につく。
しばらく無言で歩き続けていたが、ふとラノハがミリアに話しかけた。
「……なあ」
「うん?どうしたの?」
「……お前も、俺が出来損ないだと思うか?」
ラノハは、そうミリアに問いかけた。
ラノハも心のどこかで思っていたのだろう。
自分が聖装竜機を動かせない理由が、本当にそういう理由なのではないかと。
なぜなら、ラノハの考えの中ではそれ以外に可能性が見つからないからだ。
このようにラノハが面と向かって弱みを見せるのは、十年間共に過ごしてきたミリアでも初めてのことだった。
ミリアはその事実に驚きつつも、ラノハに対して言葉を返す。
「そんなわけないじゃん。ラノハは絶対に出来損ないなんかじゃないよ。だって、あんなにも頑張ってたでしょ?」
「なっ!?なんで知って……!?」
「そりゃあ知ってるよ。同じ家に住んでるんだからさ。大丈夫。ラノハはすごいよ。他の人がどれだけラノハを馬鹿にしようと、私は知ってるから」
「……じゃあ、なんで動かせないんだ……?俺には、何が足りないんだ……?」
「うーん……。多分だけど、ラノハは怖がってるんだと思うよ」
「は?何にだよ?」
「えっと、それは――」
「なんだ?今帰りか?」
とても間が悪いところで、ある男がラノハとミリアに話しかけてきた。
ラノハとミリアが振り返ると、そこにいたのはこの国で知らないものはおらず、二人にとっては馴染み深き人物だった。
「お父さん!お父さんも今帰り?」
「ああ。買い物の帰りでな。お前たちの姿が見えたから、こうして声をかけたわけだ」
「そっか。あ、お父さん。帰ったらラノハと一緒に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「別に構わないが、家の中でな。ほら、入るぞ」
話しながら歩いていると、もうすでにミリアの家の前に着いていた。
その家は、まさに豪邸と呼ぶにふさわしいものだった。
これぐらいの豪邸ともなると、メイドや執事などの者たちが大勢いそうなものだ。
ミリアの父はポケットから鍵を取り出し、その鍵を使って豪邸である自宅の玄関を開ける。
すると、その扉の先にメイド四名と執事二名が立っていた。
そのメイドたちは寸分の狂いもなく、一斉に頭を下げてこう言った。
「「「「おかえりなさいませ。ご主人様、ミリアお嬢様、ラノハ坊ちゃま」」」」
「ああ。只今戻った」
「ただいまです!」
「……」
ミリアの父とミリアはただいまと言ったが、ラノハは何も言わずペコリと頭を下げた。
これもまた、いつものことだ。ラノハはここに来てから、この家に帰ってきた時に『ただいま』という言葉を言ったことがない。
ミリアはそのことを少し不満に思い、ラノハになぜなのかを問いかけた。
ミリアが普段は聞かないようにしていることを聞いてしまったのは、今日の学校での出来事が尾を引いているのだろう。
「ねえ、そろそろ『ただいま』って言ったら?ここはもうラノハの家でもあるんだよ?」
「……いや、言わない」
「……まだ、ここを自分の家だと思えない?」
「……そんなことはない。流石に、十年もここに住んでるからもう自宅だと思えてきてる」
「なら……!」
「でも、俺が『ただいま』を言うべきところは、もう決まってるんだ。そこに帰るまで、俺は『ただいま』なんて言葉は言えない。……これは、俺の意地だ」
ラノハはミリアに向かって、力強くそう言った。それは、ラノハの並々ならぬ思いが乗った言葉であった。
それを聞いてミリアは、少し間を空けてこう返した。
「……そっか。じゃあ、もう何も言わない。……ごめんねラノハ」
「いや……大丈夫だ」
ミリアにも、思うところがあったのだろう。ラノハの過去を知っているのなら、簡単に想像することができる内容であった。
このことに気づいたミリアは、ラノハに対して申し訳ない気持ちになって謝った。
なぜなら、ラノハにとってとても辛い過去を思い出させてしまったかもしれないからだ。
現にラノハとミリアの間には、気まずい空気が流れている。
その空気を破ったのは、ミリアの父であった。
「……ラノハもミリアも、私と話したいことがあるのだろう?このまま私の部屋まで行くとしよう」
「……うん」
「……はい」
「ご主人様。お荷物、お持ちします」
「ミリアお嬢様とラノハ坊ちゃまのお荷物も、私共に」
ミリアの父がラノハとミリアを連れて自分の部屋に向かおうとすると、メイドたちと執事たちが荷物を持つと言ってきた。
ミリアの父は断ること無く、それに応じる。
「ありがとう。ラノハとミリアの荷物はそれぞれの部屋に持っていってくれ」
「「「「かしこまりました。ご主人様」」」」
メイドたちはこれまた統率された一糸乱れぬ動きで頭を下げた。
それに続いて執事の中のひとりが、ミリアの父に話しかける。
「では、私共は紅茶を用意いたします。お部屋にてお待ち下さい。ミリアお嬢様とラノハ坊ちゃまの分も必要でしょうか?」
「ああ。頼む」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「……ありがとうございます」
ラノハとミリアは、メイドたちと執事たちに頭を下げて感謝の言葉を述べた。
メイドと執事たちもまた、頭を下げてこれに応じる。
「では、行こうか」
「うん」
「……はい」
ミリアの父の言葉にうなずいたラノハとミリアは、自分の部屋に向かって歩き始めたミリアの父の後を追って歩き始めた。
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