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第2章 お稲荷様とふわふわスフレ

17.再び稲荷神社へ

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 昼下がりの神社は、心地良い風が吹き、さわさわと木立が音を立てていた。
 そして、私の手の中でも一枚の和紙がカサカサと音を立てている。

「ちょっと本気で立て込んでるので無理」

 稲荷神社の前で豊月に呼びかけたところ、白煙の中からこの紙が一枚ひらひらと落ちてきたのだ。

『……どうしましょう』

 私はがくりと肩を落とした。

『振られてしまったのう』

 神様はあまり深刻さを感じない声音で朗らかに笑う。ちなみに、先程から髪をこむぎに引っ張られないようポニーテールに結んでいた。

『兎に角、一度家に帰るしかなかろう。シュンも腹をすかせておるじゃろうし、奏汰も訪ねて来るんじゃろ?』

『そうでした……!』

 落ち込んでいる場合ではない。

『あ、うー!』

 こむぎが何かを訴えるように、私に向かって手を伸ばしている。

『お前さんが良いとさ』

 神様はそう言って、私に子狐を差し出した。私がこむぎを抱き上げると、彼はぐりぐりと小さな頭を胸に押し付けてくる。

『もしかして、慰めてくれてる?』

 こむぎはひょこっと顔を上げると、くりくりとした目で此方を見つめた。思わず少しきゅんとしてしまう。

『こんな可愛い子を置いて、ご両親は何処へ行っちゃったんだろうね……』

 私が頭を撫でると、こむぎはくすぐったそうに目を細めた。

『あんまり愛着が湧くと、返したくなくなってしまうぞ?』

『そ、それは大丈夫です!』

 私は内心どきりとしながら、足早に境内を出た。
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