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第4章 お祭りクレープとカルボナーラ

9.サングラスの親父

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 そうして我々は人混みを縫って進み、私が手水で身を清めていると、真白さんが急に鋭い目つきで上方を見ている事に気が付いた。

 視線を追うと、彼は境内の脇に生えている大きな松の木を見上げているようだった。

『何かありましたか?』

 私が尋ねると、真白さんはそこから視線を外さずに答えた。

『……私は少し様子を見てきます。夏也さん達は境内にいてください。鳥居の中なら安全です』

『わ、分かりました!』

 私の目には何も映らなかったが、真白さんは何かを感じたらしい。彼はするりと人波に消えていった。

『わしも、ちと味を見て来よう』

『は?』

 真白さんを見送っていると、横にいたはずの神様が意味不明な台詞を残して消えていた。

 慌てて周囲を見回すと、たこ焼きをつついている少年の背後に、神様が忍び寄っているのが見える。

(あの神様はもう~!)

 彼を止めようと走り出した瞬間、私は横から歩いて来た人にドンとぶつかってしまった。

『あっ、す、すみません!』

 私はぶつかった相手に咄嗟に頭を下げた。顔を上げると、サングラスを掛けて派手なシャツを着た、ガラの悪い中年男性が少し驚いた顔で此方を見ていた。

(うわっ、寄りによって怖そうな人に……!)

 まじまじと此方を見つめてくる男に恐怖を感じて固まっていると、彼は突然ニカッと笑った。

『いや、構わねえよ兄ちゃん。今日は祭りだからな! 楽しもうぜ!』

『あっ、は……はい』

 その強面に思わずびびってしまったが、意外と気さくな人だった。

 彼が行ってしまうと、今度は周りに気を付けながら進み、私は神様の首根っこを引っ掴んだ。

『あ・と・でって言いましたよね?』
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