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第6章 あやかし子狐と三日月オムライス

14.解毒薬

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『静子……』

 銀胡が呟く。彼女はまたにっこりと微笑むと、こむぎを彼に手渡した。
 そして、一瞬光が強くなったかと思うと、足元から解けるように煙へと姿を変えて見えなくなった。

 やがて黄泉の珠の光は収まり、辺りは再び暗い森に戻った。

(……今のが、こむぎのお母さん?)

 こむぎはきょとんとした顔のまま、銀胡の腕に抱かれている。

『気は済んだかの?』

 神様が尋ねると、銀胡は深く頷いた。

『じゃあ、こむぎは一旦返して貰うぞ。珠を天狗に返して来たら、改めてうちに引き取りに来い』

 神様が腕を広げると、こむぎはぴょいと銀胡の腕から飛び降りた。銀胡はちょっとショックそうな顔をしている。

『かみしゃ! なーやおきおき?』

 こむぎは神様の腕の中に飛び込むと、此方を見ながら言った。どうやら、私の心配をしてくれているらしい。

『ん? 夏也は起きておるが、動けんようでな。真白、そろそろ何とかしてやれんのか?』

『ええ。時間が経ってもじきに痺れは取れますが、解毒薬もあります。夏也さん……本当にすいませんでした』

 そう言って、真白さんは私の口に竹で出来た水筒のような物を近づけ、中の液体を口に流し込んできた。
 信じて良いのか分からなかったが、身体が動かないのでなす術がない。私はそれを飲み込んでしまった。

 心配はあったが、効果は直ぐに現れた。

『……ん、動く……かも』

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