上 下
43 / 92
第3章 魔王の参謀と花火大会

41

しおりを挟む
「そういう訳には参りません! クラース様がご不在と知れば、弟君の一派も黙ってはいないでしょう」

(弟……?)

 マオには弟がいるのだろうか、その言葉が出た途端、さっきまでのんびりと焼きそばを食べていたマオの表情が明らかに曇った。

「……フィーニスが王座に着きたいならそうすればいいさ」

「クラース様!」

「風呂に入ってくる」

 そう言うと、マオは急に席を立ってしまった。

「もう食わないのか?」

「ああ」

 一応俺も声を掛けてみたが、マオはこちらを振り向きもせず、ガラス戸を閉めてさっさと浴室に向かった。

「アイツ、弟となんかあんの?」

 俺はサマエルに向き直って尋ねたが、彼に俺の言葉は届いていないようで、サマエルは視線を落としたまま頭を振っている。

「私としたことが余計な事を……」

 やがてサマエルは再び顔を上げると、彼もまた立ち上がってこちらに告げた。

「私は一度魔界に戻る。事情は理解したが、叶えたい願いについては引き続き検討しておいてくれ」

「わ、分かった……」

 俺が頷くと、サマエルは目を閉じ、自ら淡い光を放ちながら消えていった。

「いなくなた!」

「かえっちゃったの?」

「そうみたいだな……」

 結局、何がなんだか良く分からないが、やはりマオは間違いなく魔界の王であるという事、そして何やら複雑な関係の弟がいるという事は分かった。

「マオとサマエル、けんかしちゃったの?」

 うみが心配そうに俺を見上げる。

「うん……でも大丈夫、二人とも大人だし仲直りできるさ。さあ、残りのご飯食べちゃおう!」

 俺はその場の空気を変えようと、元気良くたこ焼きを頬張って見せた。
しおりを挟む

処理中です...