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第5章 愉悦する道化師
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そのままマスターの友人達と双子と一緒に、俺はカーニバルを楽しんでいた。明るい笑顔で激しく踊るダンサーや、アップテンポの曲と小気味良い演奏は観ていてこちらも元気になってくる。
あまり呑気にしている場合ではない事は承知しているのだが、今のところ目に見えた異変は起きていない。
「あ! 来たわよー!」
マスターが興奮気味に手を叩いて叫んだ。
燃えるように赤い衣装を纏ったダンサー達が踊りながら近付いてくる。
「わ、すげーな……」
煌びやかな衣装と情熱的な踊りは、これまでのチームとは一線を画しており、強く目を引いた。
『続いてのチームは、G.R.E.Sエンドズィ・アズーモ! 今年のテーマは不屈の赤い鳥、こちらのチームは不幸な事に、先日火災に遭いアレゴリアが燃えてしまうトラブルがありましたが、今日までに見事な再生を成し遂げました。困難に打ち勝つ力強いダンスで皆さんに元気をお届けします!』
会場アナウンスが響くと、ちょうどダンサーや楽器隊の後ろから、大きな赤い鳥を模したアレゴリアが現れた。
それは、まるで燃え盛る炎の中で羽ばたいているかのような、美しくも力強い造形をしていた。
(今にも飛び立って行きそうなくらい生き生きしてやがる……)
「わーっ! きれーい!」
「おっきなとりさん!」
アレゴリアの中央には、キラキラとスパンコールを胸に輝かせて踊るマスターの友人が居る。
「ジョー!! 素敵よー!」
マスターが手を振り叫ぶと、彼はとびきりの笑顔をこちらに向けた。
「あ」
アレゴリアの端で、ピンク色の髪の少年が踊っている。彼は俺に気が付くとニヤリと笑った。
(メレクもちゃっかり出演しているとは……)
まあ、もし何かあればチームの皆んなを護るつもりなのだろう。
それにしても、アレゴリアも衣装も素晴らしい出来だ。もちろん、ダンスや演奏も。周囲の盛り上がりは一段と高まっていた。
それからまたいくつかのチームを見送っていると、通りの向こうから異様な熱気が伝播してきた。
(……この感じは……)
ライブの時と同様に、観客達は奇妙な興奮状態となり、多くの人が大声で歓声を上げている。
(しまった……もっと川上で見守っているべきだったか?)
しかし、いまさら双子を置いてその場から抜け出す訳にはいかない。また月斗の妙な術に飲み込まれはしないだろうか。
俺は固唾を飲んで、そのチームが近づいて来るのを待った。
『さあ! 続いてのチームは、毎年大人気の福山スーパーラッキースターズです! 今年のテーマは魅惑のデーモンズという事で、福山コーポレーション社長のご子息、月斗さんが悪魔に扮して初参加です。魅力的なダンスに是非ご注目ください!』
ゴリゴリに忖度された内容のアナウンスが流れて、とりあえず月斗のネーミングセンスが親譲りである事は理解した。
(しかし、テーマが悪魔とかまんまじゃねーか……チームごと洗脳済みって事か?)
すると、黒と紫を基調にした衣装を身に纏ったダンサー達と、悪魔の城をモチーフにしたようなおどろおどろしいアレゴリアが近づいて来た。
その中央には、年末の歌番組のトリに出て来るような、宝石をちりばめたラスボス感ある黒い羽衣装を着た月斗が立っていた。
やはり目の色がおかしい気がするが、踊る彼を目の当たりにしてもライブの時のように心と身体を蝕まれるような感覚は襲って来ない。
目を凝らしてよく見てみると、アレゴリアの影にうずくまり隠れている人影を見つけた。
(マオ……!)
マオはそこから何かの魔力を月斗に向かって放っているようだった。
どうやら前回のように月斗の洗脳魔法を中和してくれているようだ。
だが、その苦悶の表情を見る限り、あまり余裕はなさそうだ。
「あら~! 素敵ね!」
「かっこいいー!」
俺は今のところまだ冷静でいられているが、マスターも双子も既に心は月斗に奪われつつあるようだ。
あまり呑気にしている場合ではない事は承知しているのだが、今のところ目に見えた異変は起きていない。
「あ! 来たわよー!」
マスターが興奮気味に手を叩いて叫んだ。
燃えるように赤い衣装を纏ったダンサー達が踊りながら近付いてくる。
「わ、すげーな……」
煌びやかな衣装と情熱的な踊りは、これまでのチームとは一線を画しており、強く目を引いた。
『続いてのチームは、G.R.E.Sエンドズィ・アズーモ! 今年のテーマは不屈の赤い鳥、こちらのチームは不幸な事に、先日火災に遭いアレゴリアが燃えてしまうトラブルがありましたが、今日までに見事な再生を成し遂げました。困難に打ち勝つ力強いダンスで皆さんに元気をお届けします!』
会場アナウンスが響くと、ちょうどダンサーや楽器隊の後ろから、大きな赤い鳥を模したアレゴリアが現れた。
それは、まるで燃え盛る炎の中で羽ばたいているかのような、美しくも力強い造形をしていた。
(今にも飛び立って行きそうなくらい生き生きしてやがる……)
「わーっ! きれーい!」
「おっきなとりさん!」
アレゴリアの中央には、キラキラとスパンコールを胸に輝かせて踊るマスターの友人が居る。
「ジョー!! 素敵よー!」
マスターが手を振り叫ぶと、彼はとびきりの笑顔をこちらに向けた。
「あ」
アレゴリアの端で、ピンク色の髪の少年が踊っている。彼は俺に気が付くとニヤリと笑った。
(メレクもちゃっかり出演しているとは……)
まあ、もし何かあればチームの皆んなを護るつもりなのだろう。
それにしても、アレゴリアも衣装も素晴らしい出来だ。もちろん、ダンスや演奏も。周囲の盛り上がりは一段と高まっていた。
それからまたいくつかのチームを見送っていると、通りの向こうから異様な熱気が伝播してきた。
(……この感じは……)
ライブの時と同様に、観客達は奇妙な興奮状態となり、多くの人が大声で歓声を上げている。
(しまった……もっと川上で見守っているべきだったか?)
しかし、いまさら双子を置いてその場から抜け出す訳にはいかない。また月斗の妙な術に飲み込まれはしないだろうか。
俺は固唾を飲んで、そのチームが近づいて来るのを待った。
『さあ! 続いてのチームは、毎年大人気の福山スーパーラッキースターズです! 今年のテーマは魅惑のデーモンズという事で、福山コーポレーション社長のご子息、月斗さんが悪魔に扮して初参加です。魅力的なダンスに是非ご注目ください!』
ゴリゴリに忖度された内容のアナウンスが流れて、とりあえず月斗のネーミングセンスが親譲りである事は理解した。
(しかし、テーマが悪魔とかまんまじゃねーか……チームごと洗脳済みって事か?)
すると、黒と紫を基調にした衣装を身に纏ったダンサー達と、悪魔の城をモチーフにしたようなおどろおどろしいアレゴリアが近づいて来た。
その中央には、年末の歌番組のトリに出て来るような、宝石をちりばめたラスボス感ある黒い羽衣装を着た月斗が立っていた。
やはり目の色がおかしい気がするが、踊る彼を目の当たりにしてもライブの時のように心と身体を蝕まれるような感覚は襲って来ない。
目を凝らしてよく見てみると、アレゴリアの影にうずくまり隠れている人影を見つけた。
(マオ……!)
マオはそこから何かの魔力を月斗に向かって放っているようだった。
どうやら前回のように月斗の洗脳魔法を中和してくれているようだ。
だが、その苦悶の表情を見る限り、あまり余裕はなさそうだ。
「あら~! 素敵ね!」
「かっこいいー!」
俺は今のところまだ冷静でいられているが、マスターも双子も既に心は月斗に奪われつつあるようだ。
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