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【第21話】わらわも
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桐川桐子さんは、シャワーを浴びて、着衣を整え終えると、「内緒の事故って、甘いですね」とだけ言い、僕の胸を惑わせるような優しい笑顔を残して、明確なお別れの挨拶もなく、アパートを出ていった。
その後、僕もシャワーを浴びて、彼女が置いていったデザートを食べる。
僕の高熱は、嘘だった。
だが、それ以上にこの身体は、激しい熱を放った。
そして、彼女はそれを受け止めた。
彼女は、あのまま帰宅して、露西亜に「残業が大変だった」などと言うのだろう。
──何の心配もいらない。
もともと使うつもりの嘘が、別の嘘に変わっただけなのだから、今さら慌てて嘘を作り直す必要もない。
そして、これは単なる事故であり、たまたま二人がいるはずのない場所で見てしまった夢に過ぎない。
──忘れてしまえば、それで安全だ。
僕は、既婚女性との関係に慣れている。
いつもそうだ。彼女たちとは、付き合うのではなく、ほんの短時間だけ夢を交わすだけ。
そこには明文化されていないルールがあった。それは、なぜかどの男女も誰から教わるわけでもなく、それなりの大人ならみんな当たり前のこととして、作法を心得ている。
思えば僕は、高校生の頃から、こうして多くの既婚女性と狂いあってきた。
桐子さんだけが特別だったわけではない。
だから、勘違いして、入れ込むほど子供じゃない。
でも、自分と付き合っている女性の肉親と、こんなことをするのはさすがに初めてだった。
そして、彼女は既婚女性ではあるが、未亡人になって八年も経っているシングルマザーでしかない。
──いわば、フリーだ。
ひょっとしたら、案外こういうことを当たり前に楽しんでいるかもしれない。
いや、そんなことはどっちでもいい。僕たちは「夢」をシェアしあったのだから、そんなことを考えるのは無粋だ。
どっちにしても、もしも僕がその気になったなら、またさっきみたいな夢の時間を楽しませてくれるだろう。きっと、彼女もその事故に、女として狂ってみせてくれるだろう。
ただ、怖いのは彼女がそれを『事故』ではなく、ちゃんとした男女の関係だと思い詰めてしまうことだ。
夢は、夢でなければならない。
その時、僕のスマートフォンが震えた。
連続する画面の明滅は、それが露西亜からのメッセージであることを何よりも雄弁に語っていた。
『母上が遅い。わが法力がかなり減退しておる』
『バイトはもう終わったのか?』
『今から通話可能か?』
『休憩時間なら、メッセージだけでもよい』
『妾の法力を、いっぱいにして』
まだ休憩時間だという設定にして、短く返しておこう。
『好きだよ、露西亜』
子供をあやすような気持ちで、メッセージを送信する。
ここで思い出す。
そういえば、彼女に『告白』をした覚えはまだない。彼女からもされた記憶がない。
メッセージの着信音が鳴る。
『わらわも』
その後、僕もシャワーを浴びて、彼女が置いていったデザートを食べる。
僕の高熱は、嘘だった。
だが、それ以上にこの身体は、激しい熱を放った。
そして、彼女はそれを受け止めた。
彼女は、あのまま帰宅して、露西亜に「残業が大変だった」などと言うのだろう。
──何の心配もいらない。
もともと使うつもりの嘘が、別の嘘に変わっただけなのだから、今さら慌てて嘘を作り直す必要もない。
そして、これは単なる事故であり、たまたま二人がいるはずのない場所で見てしまった夢に過ぎない。
──忘れてしまえば、それで安全だ。
僕は、既婚女性との関係に慣れている。
いつもそうだ。彼女たちとは、付き合うのではなく、ほんの短時間だけ夢を交わすだけ。
そこには明文化されていないルールがあった。それは、なぜかどの男女も誰から教わるわけでもなく、それなりの大人ならみんな当たり前のこととして、作法を心得ている。
思えば僕は、高校生の頃から、こうして多くの既婚女性と狂いあってきた。
桐子さんだけが特別だったわけではない。
だから、勘違いして、入れ込むほど子供じゃない。
でも、自分と付き合っている女性の肉親と、こんなことをするのはさすがに初めてだった。
そして、彼女は既婚女性ではあるが、未亡人になって八年も経っているシングルマザーでしかない。
──いわば、フリーだ。
ひょっとしたら、案外こういうことを当たり前に楽しんでいるかもしれない。
いや、そんなことはどっちでもいい。僕たちは「夢」をシェアしあったのだから、そんなことを考えるのは無粋だ。
どっちにしても、もしも僕がその気になったなら、またさっきみたいな夢の時間を楽しませてくれるだろう。きっと、彼女もその事故に、女として狂ってみせてくれるだろう。
ただ、怖いのは彼女がそれを『事故』ではなく、ちゃんとした男女の関係だと思い詰めてしまうことだ。
夢は、夢でなければならない。
その時、僕のスマートフォンが震えた。
連続する画面の明滅は、それが露西亜からのメッセージであることを何よりも雄弁に語っていた。
『母上が遅い。わが法力がかなり減退しておる』
『バイトはもう終わったのか?』
『今から通話可能か?』
『休憩時間なら、メッセージだけでもよい』
『妾の法力を、いっぱいにして』
まだ休憩時間だという設定にして、短く返しておこう。
『好きだよ、露西亜』
子供をあやすような気持ちで、メッセージを送信する。
ここで思い出す。
そういえば、彼女に『告白』をした覚えはまだない。彼女からもされた記憶がない。
メッセージの着信音が鳴る。
『わらわも』
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