貴方のことは好きだけど…

ぽぽ

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初恋は貴方でした。

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恵麻が幼い頃に決められた両家の子供同士による婚約。

互いの利益のために決められた婚約であったが小さかった恵麻には理由はどうあれ、知らない人と結婚するということだけ認識できた。

顔合わせの日、金剛家に向かった幼い恵麻は母親に手を引かれながら廊下を歩く。

金剛家の当主である伊織の父、秀仁に連れられて前から歩いてきた伊織に対面した瞬間、恵麻は息を飲んだ。


"こんなかっこいい人がこの世の中にいるんだ、絵本で見た王子様みたい"


伊織の端正な顔立ちに目を奪われる。
切長の瞳はどこか冷たさを帯びている。
まだ子供のはずなのに、大人びているという印象があった。

そんな伊織の姿に恥ずかしさと緊張を覚える、母親の背中に隠れつつコソコソと伊織の姿を見る。
だが、伊織はというと恵麻から一切視線を逸らすことなく見つめていた。


「よろしくな、恵麻ちゃん」


突然、名前を呼ばれて体がびくつく。
歳の近い異性とほとんど話したことがない恵麻にとってほぼ初めての経験だった。

冷めた表情をしていた伊織だが、笑顔を浮かべて手を差し伸べた。
恵麻は恐る恐る小さい手を伸ばすと、その手を伊織が優しく包み込んだ。


「こんな綺麗な子にお嫁さんになってもらって俺は幸せやなあ。仲良くしてこうな恵麻ちゃん」

「は、はい」

母親に促されることなく勝手に口が動いた。
幼い恵麻には伊織の言葉がお世辞だったのかどうかなんかはわからない。
だか、これが恋ということは確かだった。

強制的に決められた結婚であるため、正直気乗りのしない恵麻であったが、本で読んだ王子様のような人であり、運命の人が現れたと浮かれていた

その日から恵麻の心は完全に伊織のに奪われてしまいその顔合わせの日以降、金剛家によく顔を出すようになった

しかし、伊織の態度は日を追うごとに変化していき恵麻に対して冷たく接するようになった
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