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しおりを挟む「蒴ちゃんから私を守ろうとして、咄嗟についた嘘だったなら…そんなこと、言ってほしくなかった。
……そんなの、必要なかったよ」
声は震えていたが、絞り出すように菫は言った。
「菫の言ってる彼女って、さっき電話に出た人のこと?」
「……うん」
短くうなずいた瞬間、ぽたぽたと菫の涙が床に落ちる音が静かに響いた。
「……彼女がいるなら、私は恭弥くんの部屋から出ていく。
もし私が恭弥くんの彼女だったら、知らない女の人と一緒に暮らしてるなんて絶対に嫌だ。
好きな人が、他の女の人と一緒にいるのを見るなんて……そんなの、耐えられない」
「え……? 今、なんて……」
恭弥は菫の言葉に目を見開いた。
「……あっ」
言ってしまった、と気づいた。
でも、これからもう恭弥と結ばれることがないと思うと、言ったところで何が変わるわけでもないような気がした。
「そう。好きだって言ったの。
恭弥くんのこと好き。だから誰かと一緒にいるところなんて見たくない。
だから、私は、引っ越すことにするって」
「……菫、俺のこと、好きなの?」
恭弥はなぜか慎重な声色で尋ねた。
「そうだよ、好きだよ。……でも、今さら言ったところで、どうせ恭弥くんは、もう誰かのものなんでしょ」
ふたたび、菫の瞳から涙があふれ出す。
恭弥がそっと手を伸ばし、その涙を拭おうとした瞬間。菫は咄嗟にその手を払った。
「……やだ。触ってほしくない」
その手が、他の女を触れてきたと思うと、どうしても受け入れられなかった。
本当はその手で慰めてほしい。でも、それは今は叶わない。
「ごめん、それは無理。……普通に触りたい。
とりあえず、一旦手洗わせてもらってもいい?」
「え……?」
あまりに冷静なその返しに、菫は戸惑いつつも、無言で洗面所へと案内した。
背後で恭弥が手を洗う音を聞きながら、菫は洗面所のドアの隙間から顔をの覗かせて、涙を流しながら鼻をすする。
やがて、手を拭いた恭弥が振り返り、泣き顔の菫を覗き込んでふっと笑った。
「……なに笑ってるの!」
「ごめん。今から、俺の好きな子の誤解を解きたいんだけど……聞いてくれる?」
「……恭弥くんの“好きな子”の話なんて、聞きたくない」
頬をぷくっと膨らませ、ぷいと顔をそむけた菫。
だが恭弥がその頬に手を添えたため、逃げきれない。
「菫、お前……すげえ可愛いな」
恭弥は驚いたように言った後、柔らかく笑ってから続ける。
「今から大事な話をしたいんだけど、菫の部屋に行ってもいい?」
「……ダメ。部屋、汚いから」
「知ってる。菫のことだから、どうせ散らかってると思ったし」
「最低っ!」
菫は思わず恭弥の肩をぱしんと叩いた。
すると恭弥は、菫の肩に額を預けるようにして小さく揺れた。
「……笑わないでよ」
「ごめんごめん。冗談だよ。
つい、菫のこといじめたくなるんだよね」
どうして、こんな状況で冗談なんて言えるのか。菫は恭弥に対して少しの怒りを感じつつ
ふたりで菫の部屋へ向かい、ドアを開けた瞬間。
背後から伸びた恭弥の腕が、菫の体をぐっと引き寄せた。
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